終末の巫女
『終末の巫女』の伝説――。それは、ローナ村に伝わる古い伝承である。
◆ ◆ ◆
今から約200年前の事、村に一人の旅人がやってきた。
旅人は名は明かさず、自らを『予言者』と名乗った。
ボロボロの身なりで見るからに怪しい人物だったが、命に関わるような大怪我を負っていた。
村人達は嫌な顔一つせず、旅人を受け入れ交代で介抱した。
なけなしの食料も村人全員で出し合い、3度の食事を与えた。
やがて傷も癒え、元気を取り戻した『予言者』は、親切にしてくれたローナ村の村長や村人達にせめてものお礼と言って、ある予言を言い残した。
「今後、200年の内にこの村に大きな災いが起こるだろう。それは、終末の予兆である。しかし、安心して欲しい。水源に神殿と女神像を祀り、一心に願えば救世主が現れ、村を災いから救うであろう。その者は『終末の巫女』と名乗り、村に幸運と繁栄を与えるであろう」と――。
これが、後々まで残る村の言い伝えとなった。『予言者』は村を去り、2度と現れる事はなかった。
その後、その人物が何処へ行き、どうなったのかは誰も知らない。
この予言を村人達は信じた。
誰も旅人が嘘、でたらめを言っているとは思わなかった。
そう思わずにはいられなくなる不可思議な雰囲気を旅人は発していたそうだ。
『予言者』の言葉は村長が代々語り継ぎ、村人に説いた。決して途絶えることの無い様にするために。
◆ ◆ ◆
それから200年近く経ち、予言者の言葉どおり、村に不吉な事が起こり始めた。
予言は本当だったのだと、村の誰もが思った。
まず、農作物が不作に見舞われ、次に家畜に伝染病が流行り出した。
それが何とか治まり、村人達が安堵したのも束の間、今度は付近の森に魔物が頻繁に出現するようになった。
魔物は次第に数を増やし、農地を荒らし回り、家畜や村人を襲い始めた。
そして、とうとう一番恐れていた事が起きた。
村にとって重要な水源が枯れた。
これが予言者の言っていた終末なのだと、村長であるロイズさん含め村の代表達は、『予言者』の言い付け通り、先祖達が水源に建てた神殿と女神像に祈りを捧げた。
祈りは毎日の様に行われ、それが1カ月に及んだ。
しかし、村人の祈りも空しく、水源が復活する事も『終末の巫女』が現れる事も無かった。
もはや、これまで……予言は出任せだったのかと誰もが諦め始めたそのとき、奇跡は起きた。
崖の上から降ってきた謎の少女と男が、瞬く間に水源を復活させたのだ。
村長を含め、その場の全員が思った。
この方が、『終末の巫女』だと――。
◆ ◆ ◆
これが、チヒロが『終末の巫女』と呼ばれた理由である。
チヒロはロイズさんに「巫女ではない」と説明し、理解してもらった。
しかし「村に馴染むためには『終末の巫女』ということにしておいた方がいいだろう」と判断したロイズさんにより、村人には「巫女様」ということになっている。