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恋をすることのない僕が追憶で愛を語る  作者: カマドウマ
一章 招かれし転校生と招かれざる転校生
8/9

非王道転校生 6

「よし、出来た。……?」



 丁度ネクタイを直し終わったタイミングで門の方から足音が聞こえた。迎えの人が来たみたいだ。


 きっともじゃ男同様、王道なら……と期待して其方を見る。

 だが予想に反して迎えは一人では無く二人だった。片方は予想通りと言うか、BLや漫画の学園モノでよく生徒会に居そうな銀縁眼鏡の真面目そうな美形。そして、もう一人は髪が青みがかった外に跳ねたくせっ毛らしい髪が綺麗な、整った顔立ちの男だった。そちらは何故か良い笑顔でこちらを見ていた。

 そして眼鏡の男も胡散臭い笑顔をにっこりと作って口を開いた。


「あなた達が転校生ですね?私はこの学園の高等科生徒会で副会長を務めています、鈴井誠(スズイ マコト)と申します」


 予想通り生徒会の人だった。


「おい、お前も開けるの手伝えや!何しれっとひとりだけ自己紹介しとんねん!!あ、俺は生徒会で庶務やっとる天野硯(アマノ スズリ)や。よろしゅう!」


 副会長と名乗った鈴井は門を開けている庶務だという天野の言葉を無視した。

 もじゃ男が開けるのを手伝おうとするが、天野は大丈夫やと言って断った。


「私達が理事長室までお二人を案内させていただきます。……失礼ですが、どちらが姫川さんでしょうか?」


 鈴井は「なんで二人とも変なもん付けてんだよら」と引いた目をしながら此方を見つめてくる。逆に天野はキラキラと期待した目で見つめてきた。特にもじゃ男を見ている。

 ……あぁ、あちら側(腐の世界)の人間だったか。


「姫川さんはそちらの方かと」


 理事長子息として下の名前は知らずとも苗字は知っていたので、そう言うと少し落胆した様に鈴井はもじゃ男の方を向いた。


「そうですか……貴方が姫川さんですか?」


「あ、はい。わ、」


 わ?……言い間違いかな。


「…おれが姫川優香です」


 多分想像の姿と違っていたから僕の方を見てたんだろう。

 あっちはお世辞にも髪型やサイズの合ってない制服のせいで清潔感があるようには見えないし、顔も見えない。僕はサングラス付けてるだけで制服は鳳凰学園のものじゃないが髪とかは至って普通だからね。

 そしてもじゃ男が名前を言った時、上から吹き出すような笑い声が聞こえたが、今は気にしないでおく。多分人だが、そこら辺に気配を感じるからそれらと同類だろう。


 もじゃ男は鈴井の視線にビクっと反応する。鈴井がもじゃ男の案内をするみたいだ。と言っても行く場所は同じだからどっちがとかはないだろうが……。


「じゃあ、お前さんが"例の"安曇か。……の前にぃ」


 門を開け終わった天野が此方に来てそう言うと、ニヤリと笑い、何か話をしていた鈴井ともじゃ男を数歩離れながら見た。僕も釣られて数歩下がり、そっちを見る。気配を消すのも忘れない。


「お、お前、出来るッ!」


「フッ」


 小声でそう言われたのでドヤ顔気味に笑う。天野もそう言いながら気配消してる点こういうのに慣れてるというか……。


 もじゃ男は少しイラついた雰囲気で鈴井に言った。


「疲れないんですか、そんな笑顔を作って」


 何があってそんな話になった。まだ初対面だろ。この数秒で何があった?


「流石王道転校生やな。ほぼ話聞いとらんかったけど、ここまでとは……」


 お前も話聞いてなかったのかよ。

 天野の発言は引いてるように聞こえるが、王道転校生と語るその表情がニヤニヤしすぎてこいつはもう手遅れだと物語っている。

 だが確かに、天野の言う"王道"らしい発言と行動だった。


「よく、分かりましたね。……私は、本心で笑っているつもりです。誰にも、気づかれたことはありませんでした」


 いや、それは気を使ってるだけじゃ……。

 人間誰でも作り笑いするのは普通なんだから鈴井が心から笑ってようと無かろうと本気(マジ)の笑いかその時の会話や相手次第で対応の違いはあるが、大抵は初対面の人にそこまで気にしないだろ。あのもじゃ男以外は。

 まあ、鈴井の場合は如何にもわかり易い愛想笑いで目が笑ってなかったし、見下した感じが隠しきれずあからさまだったが。もじゃ男はそれが鈴井に言われたことも相まって癇に障ったのか。


「アイツの作り笑いは生徒会皆に、しかも気付いとるやつは他生徒や親衛隊まで知っとる奴は居るんやで?皆気をつこうて言わんけど、何人かはそれとなく言ってるんや。それでもバレてないと未だに思っとるんやから阿呆やんな( ˆmˆ )プププ」


 天野は馬鹿にした様を隠しもせず小さい声で呟く。


「そんなあからさまで下手くそな笑いで人を騙せると思ったんですか?気分が悪くなります」


 言うなぁ、もじゃ男。だけど今の作り笑いは僕らの、特に君の不潔感は溢れる格好が原因だと思うけど。というか、なんでそこまでもじゃ男はキレてるんだろうか?

 鈴井に何か言われたのか、鈴井たちが来る前までの態度からはすぐキレるような男には見えなかったけど。そこまでのことを言われたのか。


 でも確かに人を"騙す"のなら作り笑いだけじゃあ人は完全に騙せ無いだろ。余りに下手な作り笑いに黙らすことはできるかもしれないけど……ププッ。

 鈴井もどっかの会社の子息なんだろうし将来ビジネスにおいて取引とかあった時そんな見え透いた下手な作り笑いで上手く行くとは思えない。会話能力があってもその作り笑いがダメにしそうだ。

 無駄なお節介だけど、今の内にその(作り笑い)直した方がいいとは思う。人がいる間ずっと笑っているのは色々間違っているし。その綺麗な顔があっても全てを誤魔化せるとは思えない。それは大きな自惚れだ。


「別に、上手く笑わなくたっていいじゃないですか」


「ですが、私が笑っていなければ……皆が怖がります。私はそう生きてきた」


 鈴井が歯切れ悪く言う。

 それは容姿が整ってるからじゃ?僕もそうだけど、美形の無表情は怖いらしいし。誰かになんか言われたのかね。親とか信頼していた人とかに。

 だからと言って初対面でずっとニコニコしてるのも怖い気がする。それも笑顔の種類によるけども。


「おれは副会長について知りませんが、その考えには別の理由があるんだと思います。でも、ずっと副会長と一緒に居る人達は副会長のことを分かってるはずです」


 ですよね?ともじゃ男は天野の方を向く。


「んー?そうやなぁ……初めて会った時から生徒会の奴らは気付いとったと思うで。アイツらは家柄的に本能でわかったんやろうけどな。

 強いて言うなら、作って笑うんはええんやけど、いつも笑っとるのはキショいなぁと思っとった」


 あくまで俺の意見やで?とヘラヘラ笑いながら言った。


「まだ俺ら餓鬼なんやから大人ぶらなくたってええんちゃう?自分がおもろいと思ったら笑えばええやろ。使い分けできひん奴がムリしてもアホ臭いだけやわ」


「また貴方は達観したようなことを……」


「達観しとんのはお前やろ。俺は普通のことを言ったまでや。大体、俺はお前より一つ年上やし」


 どうやら天野は先輩だったみたいだ。見ればネクタイの色が違かった。


 鈴井は天野の辛辣な発言で落ち着いたのか空気が和やかなものになった。今の鈴井の困り顔は本心からのものだろう。

 天野が門を開けていた時もそうだったが、天野の言葉を無視したりと、敬語で行動などをきっちりとしようとしている割に子供じみたことをする。自分の笑顔(アイデンティティ)を指摘したもじゃ男にどんな態度を見せるのか、これから近いうちに起きる()()()()でもじゃ男が"王道"であるのかも含めてわかるだろう。


「はぁ、面倒な奴やなぁ鈴井。じゃ、ぼちぼち行こか」


「はい」


 ため息混じりの天野の言葉に頷き、姫川と天野の後ろを歩こうとすると、後ろに立っていた鈴井がもじゃ男を呼んだ。


「……姫川さん」


「はい?……ぁ、その、さっきはすいませんでした。おれが悪いのに養父を馬鹿にした様に聞こえて、ついカッとなってしまって……」


 もじゃ男はそう言いながら頭を下げた。ああ、養父……理事長のことでなんか言われたのか。大方鈴井のことだ、「理事長も物好きだ」的なことを言われたんだろうか。だが、もじゃ男は多分美形だから物好きでは無く、利用価値があるから引き取ったんだろう。そう僕の感が言っている……。


「いえ、それは私の軽率な発言のせいです。私こそすいませんでした」


 鈴井も軽く謝りながら何故か爽やかな表情で姫川に近づいた。


「……今まで、私にここまでハッキリと言ってくれる人はいませんでした。皆言うのは私を賞賛する言葉か理想の押し付けでした」


 いや、天野が言ってた通り今までも言われてたけど、お前がいい様に脳内変換していただけだろ。ただ、もじゃ男の初対面のインパクトにやられただけなんじゃ…。

 突然始まった鈴井の独白に三人止まると、鈴井はもじゃ男にもっと近づき呟いた。


「……気に入りました」


 ーーーちゅ。


「!!!!!」


「うっわ」


「ぉ、おおおおおぉっ!!」


 僕はそれについ苦笑いになって引き、天野は期待していたシーンを見れて喜びに口元に手を当てながら震える。段々ニヤけてくる口元は隠しきれていない。


 それとなきこうなる事は予想してたけど初対面同士、しかも片方は不意打ちでのキスは現実で見ると同情する。勿論不意打ちでされたもじゃ男にだ。

 天野と僕に加えてそこら辺に隠れている野郎に鑑賞されていたこともドンマイとしか言えない。


「へ?……??………~~~~~っ!!??」


 もじゃ男は驚きに長い間止まっていたが、暫くして何されたか理解したのか顔を真っ赤にしながら声にならない叫びをあげる。きっと涙目に違いない。

 鈴井を見るとしたり顔なのが中々気持ち悪い。


 あー、これは鈴井殴られるな。


 予想道理、もじゃ男がわなわなと震えながら拳をあげた。高い声で叫びながら腕を大きく振りかぶった。


「こんの、……変態ッッ!!!」


「ぶッ!!?」


 避けることが出来なかった鈴井はゴキッと凄い音とともに吹き飛んだ。


「ナイス~~」


 天野も腐男子的には望んでいても鈴井の突然のキスは気持ち悪いと思っていたようだ。……かなり矛盾してるが。



「あちゃー、こりゃ気絶してるわ」


 数秒たっても動かない鈴井に近づいた天野が鈴井をつつきながらそう言う。すると、もじゃ男は頬を羞恥で赤くした後、はっと顔色悪くして慌てだした。


「ど、どうしようっ!!おれ、殴っちゃった!!!」


「無意識だったんか」


「いや、殴ったのは問題ではあるけど今のは副会長が悪いよ」


「うぅ~~」


 蹲って顔を両手で覆って悶えるもじゃ男の頭を撫でる。そしてこっそりとずっと気になってたもじゃもじゃの髪を整える。……うん、この妙な軋み具合、やっぱり鬘だ。人に頭触らせるなんて無防備だなこの子。



 ーーー目の前の光景を冷静に観察していても本心では何処か違うと、こんなのは知らないと思いながら頭の片隅で思考する。

 そんな思考を隠すように笑みを浮かべて気絶して倒れる鈴井に近づく。


「ーーうん。じゃあ僕が持つんで、天野先輩は保健室に案内してくれませんか?」


「で、でも持てるの?」


 もじゃ男は心配そうな視線を送ってくる。僕が細くて持てなさそうだからだろう。それを言ったらもじゃ男の方が背も小さくて細いから人一人持てなさそうだ。

 いくら人を一撃で気絶させられてもそれは無理だろう。


「いや、転校生に持たすんは、すまんから。俺も持てへんし、ソイツ(鈴井)置いてってエエで?」


「大丈夫ですよ。放ったらかしにしても可哀想ですし」


 細く見えるが、これでもそれなりに鍛えている。


「優しんやな。こんな奴置いてっても………」


 わざとらしく頬に手を当てて言う。どんだけ鈴井を置いていきたいんだ。嫌いなのか?


 お姫様抱っこは流石に嫌だったので、片腕で鈴井を持ち上げ肩に乗っけて俵担ぎをする。うん、それなりに重いけど持てる。


「あらまぁ!華奢な見た目しとるのによく男前に持てんなぁ。ほんまは俺が運んだ方がいんやけど、ごめんなぁ?」


 柳眉を下げながら天野は謝ってくる。気絶させたのは天野じゃないので空いてる手を振り大丈夫だと伝える。

 それより天野は「非王道万歳」とでも言うと思ったから、本気で申し訳なさそうに謝ってきたのには意外だった。


「ずっと鈴井持っとんのはキツいやろうし、早く行きましょか」


 頷いて歩き出すともじゃ男ーー姫川が「せめて鞄だけ持たせて。本当にごめん…」と言ってきたので、言葉に甘えて持ってもらう。


「借りひとつできたね」


 ニッコリと笑いながら小声で言うと姫川は何故か顔色を悪くした。


「ハイ。お礼させて貰いマス……」


 鈴井に目をつけられたせいで近いうちに面白いもの見れるんだろうと、笑みがでた。


「フフ………?」



 不意に近くの草むらから視線を感じてそこを見ると驚いた顔をした男と目が合った。

 僕と目が合ったからか、面白い顔をしている。制服を着て、姫川と同じ色のネクタイを付けていたから同学年だろう。敢えて笑い、口パクでまたねと言うと男は慌てて草むらに隠れた。


 ーーあの時、校長から転校の話をされた時から何かが変わると、また変わったのだと感じた。そして、これはチャンスだと。


 道中天野と姫川が話すのを右から左に聞き流しつつ、頭を占めるのは目の前の二人の()()()に付いてのことだった。

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