非王道転校生 3
長くてごちゃごちゃしてます。軽く読み飛ばしてくだせぃm(_ _)m
進級から二週間も経たず前の学校から転校した理由。
ーーーそれは三日前に遡り、転校を前の学校の校長に呼び出された日の話。
「いやぁ、今日は突然呼び出して済まないねぇ」
目の前の小太りな校長は適温に調節された室内で汗をかきながらそう言った。
「いえいえ、呼び出されるのはいつもの事ですし、慣れてますよ」
僕自身が何か悪さをしていた訳じゃないが、ある一件から校長室に呼ばれるのは初めてじゃない。寧ろどの生徒や先生達よりも此処に通っている自信がある。
普段来ない校長室に入るのに普通の生徒だったら少なからず緊張すると思うが、既に慣れ過ぎて校長とは無駄話するぐらいに仲良くなってしまった。結構な頻度で理事長も居るが今日は居ないみたいだ。
校長室に来るのは大抵いい理由で呼ばれる訳じゃないが、僕の場合は迷惑をかけられている側なので堂々と来る。
学校で起こる問題は大体僕が絡みだろうから、学校一の問題児だろう。それでも一つ一つの問題と僕への対応でわざわざ校長室に呼んでの謝罪など細かいのは、校長にとっては僕の保護者が権力者なために適当な扱いができないからだろうが。
それ程にこのおっさんの顔とこの室内は見慣れている。今や常連である。
因みにこの学校、青嵐学院は中高一貫校で昔とは中等部時代の話である。
いや~、懐かしい。先週の入学式では高等部からの外部の新入生もいて、緊張してる感じが初々しかった。
「……でも最近は何も起きてないですよね?」
少なくともこの一週間は。
「……君の感覚は麻痺しているのかね?周りの生徒が気づくぐらい特定の人から"ラブレター"とストーカー行為をされているようじゃないか。私のところまで噂は来ているよ」
「あぁ、そのことですか」
"ラブレター"……即ち思春期真っ盛りの男女は貰えば相手を知らなくてもドキドキ(笑)してしまう魔法の手紙。太古の昔から相手に興味があると伝えるための文。奥ゆかしい、恥ずかしがり屋に多く使われる手法。
だがその意味合いであれば可愛らしい"ラブレター"は僕の場合気持ち悪い"怪文書"になってしまう。
理由で言えば……僕は、自分で言うのもなんだが美形である。それは生活に支障をきたす程に。
初対面で相手と顔を数秒合わせると鼻血を出されるのはよくあることで、酷い場合には少し微笑んだら手を合わせて拝まれたり鼻血を出されながら気絶されたことがある。それで自分の顔が不細工で気持ち悪いから…と鈍感な勘違いはしない。けどここまで反応があると、ある意味この顔もブサイクと同じである。本来美形だったら何かしらの恩恵を受けるはずなのに……。イケメンぐらいが丁度いいのか(?)
付いたあだ名は『美し過ぎる顔面凶器』。CMがきっかけで話題になるモデルや女優みたいなあだ名である。また中等部の時の親友からは『華咲く世界の奇公子』と呼ばれていた。そいつでさえ一分以上顔を見て会話出来ないらしい。曰く「お前の言うことを何もかもを投げ出してでも叶えたいと思っちゃう…////」とのこと。
僕は中等部から青嵐にいるが、この容姿のせいで起きた問題は小さいのも含めれば数を数えるのも億劫になるほど。
小さいので言えば生徒や外部の人間によるストーカーや如何わしい脅しや呼び出し。僕に関わった教師は離婚したり、刃傷沙汰も起きた。また恋をした他生徒が報われない恋の苦しみに耐えきれず自殺未遂を起こしたりと例を挙げるとキリが無く、学外で起きたことかと思えば学内の人間も絡んでいたというのはざらにある。逆も然り。
自分で言うのも嫌だが「魔性の男」と言うには度が過ぎてる。もはや呪いの域である。
それがあって校長室と校長を見飽きてるんだが、小さいことであれば基本僕一人で解決していた。つくづく自分の家が金持ちで良かったと思う。
だから、モテるという言葉は生暖かく、知らない人からラブレターは貰うしストーカーも日常的にあっていた。幼い頃から芸能事務所やプロダクションからもスカウトされたり、SNSに知らぬ間に撮られた写真を投稿されそうになるが、それは家の力で捻り潰している。最近ではSNSなんかもあるし、これらに関しては家柄に助けられている。
狂った手紙なんてのは僕にとっては日常である。
モテる理由で言えば家が金持ちで一般人でも1度は聞いたことのある会社の息子なのが外見的にあるが、一番は容姿があるみたいで、よく顔を見ながら話せないと言う人が普通に(?)書いた手紙がある。その手紙に少し恋愛感情の混ざった文があったらラブレターになる。ある意味ファンレターみたいなものか。そういう人間の中には 勘違いか何か妄想に取り憑かれて問題を起こす奴がいるのだ。
ラブレターやらその他諸々の手紙を貰う中、一定の期間で怪しい手紙と言うのは混ざっている。実害は赤い字で同じ言葉の羅列が紙いっぱいに書かれた怪文書から始まり、幼稚にも手紙に細工で刃物が入っていたり、髪や身体の一部が入っているなんて事もあるがそれは見分けられるから気にしない。
怪しい手紙の場合は大抵同時進行でストーカーや呼び出しをされることが多い。行かなければいいが、行って終わらせることもある。
校長が言っているのはその長く続いてた怪文書とストーカー行為を言っているんだろう。
「あれなら終わった話ですよ」
親の権力を振りかざすのは好きじゃないけど、こういうのは相手の親に迷惑掛かる。相手の親がとんでもない人間だったりする事もあるけど、今回はストーカーくんの親が僕の家の子会社のとこの子供だったからすぐ解決出来た。相手に重圧かけた時点で迷惑かけてるがこの際ほって置く。前に同時進行で複数人にストーカーされた挙句、またまた別の人が監禁しようと誘拐してきた時よりマシだな。
僕自身、親も僕の見た目のせいで何か問題が起きれば権力使えと言われてるし、立場上使った方が僕や家にもダメージが少なく済む。常に家からのストーカーも居るから解決も早い。
それにそれなりに喧嘩も出来る。男には拳で語らなければならない時もある……という訳では無いがそれで収まることもある。それで変な性癖の人が信者(笑)になって気持ち悪かったが、それで大人しくなるならいい。
家の力で僕を好きになっちゃったことに対する同情による鉄槌を下しました、とにこやかに言えば校長は顔を赤らめ後にため息を吐く。
……自分が理由なのは分かってるけど、おっさんに顔赤らめられても嬉しくない。可愛くない。
いつもの事だけど、慣れろよおっさん。惚れられないだけマシだけど。
「ハァー……今回は君の転校についてだ」
「……はぁ、それは急ですね。でも、僕まだ二年に上がったばかりですよ?」
上がってからまだ一週間経ってないんじゃなかろうか?入学式もついこの前だったじゃないか。
「両校で突然決めたことだからね。急な話ですまないが、君は高校を鳳凰学園を希望していただろう。決して君にとって悪い話では無いだろう」
校長は僕が途中で学校を変えることに躊躇してると思ったのか未だに流れ続ける汗をハンカチで拭きながらそう言う。
僕の家柄的に中途半端な時期に理由も無くというのはあまり良くないが、転校先が鳳凰学園なら話は違う。
この青嵐学院と鳳凰学園の学力は同等ぐらいで、全国模試で上位にその名が書かれないことは無いと言われているし、事実だ。それに青嵐学院は私立ではあるが進学校なので比較的一般家庭の子供が多いが、鳳凰は男子校と性別の括りはあるものの、全国から権力者の子息が集まる全寮制の学園のため学費がとんでもなくかかるので、特待生ぐらいしか一般の人は居ない。青嵐より外部生も来ないので持ち上がりばっかだ。
確かにこの話は僕にとって悪い話ではない。
僕が鳳凰学園を希望していたのは弟が鳳凰学園に通っているのと、中等部時代の親友が鳳凰学園に入ると言ったから。………他にも理由はあるが、かつて僕は鳳凰学園を志願していた。
家柄的には鳳凰学園の方が向いていたが、幼馴染や兄、弟からの猛烈な反対があって青嵐になったのだ。
校長が僕に話すということは父にも既に話は行っているだろう。理由だって僕のせいでないようで僕のせいな問題が多数起きたからと予想はつく。だから転校について断るつもりは一切無い。
だが、
「どうして今なんですか?」
急なのはいいとして、転校するなら一週間前の進級の際のほうがいい筈だ。それでも遅すぎるし、色々タイミングが悪過ぎる。
「それがだね……」
校長の話によると、なんでもかなり前から僕の転校の話自体はあったらしい。だが学力や僕の家の外見に見合った学校が鳳凰学園しか無かった。鳳凰学園の方はある意味問題児だが家柄と学力共に悪くない僕を受け入れると言っていたらしい。今回も鳳凰学園からかなり力強くどうかと話が来たみたいだ。
青嵐も偏差値が高く頭のいい学校だ。僕は中等部から成績上位をキープしている優秀な生徒の部類だったのでいくら同等の学力に加え日本の政界に口出し出来るような家系、政治家の子息が集まる超有名な他校であっても渡したくなかったのだと。僕の家からの謝礼を含めた寄付金があるからなのは校長は流石に言わなかった。
「だが、君の進級前に起きた件があるだろう?」
「田中のことですか?」
田中は僕の物を盗んだりしていた変態だ。只今停学中である。
「違う、山中先生が起こした事件だ」
「…随分前のことですね」
思い出しながら僕がそう言うと校長は一瞬フリーズした後、呆れたように口を開いた。
「…君の感覚は麻痺している。まだ起きてから三週間経っていないぞ」
それもしょうがないのか、と校長は諦めたように言う。
「あはは、一週間に2、3個は何かと起きるんで忘れちゃうんですよ」
もはやいじめだ。神からの試練か……。と言っても次はどんなことが起きるか楽しみにしていたりする。どんな方法で相手を潰すか考えるのを楽しんでいるのでいいが、まともな友人が居ないのは学生としてはきついものがある。
「それで、山中先生の件と転校が何が関係あるんですか?」
大体は予想はつくが。
山中先生とは青嵐の高等部の教師であった。
"あった"とは僕を中等部からストーカーし、ストーカー程度であれば良くあることだからとほっておいていたが、高校一年の最後に行動に移してしまったせいでクビになったからだ。
「中等部時代から成績優秀だった安曇くんを手放すのは忍びないが……余りにも君は周りの人間を魅了する力が強過ぎる」
そうなんです。僕魅力のスキル持ちなんですよ、と内心ふざけながら話を聞く。
「全て安曇くん自身のせいではないし、思春期の子に言うことではないがその容姿に魅せられて問題を起こして停学、退学する生徒。挙げ句の果てには教師まで……。君は高校の進路希望で仲の良かった夏目くんと同じ鳳凰学園を志望するぐらい夏目くんと仲が良かっただろう?」
「夏目くん」とは中等部時代の親友である。鳳凰学園中等部に双子の兄が入ったのに何故か青嵐に中学受験した変わり者だ。僕も弟が鳳凰学園中等部に入ると知っていながらこちらに入ったが、それは周りの説得があって渋々であるが、あいつの家柄は変わっているので、話を聞いた時はなんでこっちに来たんだ?と思ってしまった。安曇家と関係があるだけ余計に。あっちだって僕が居ることは知っていただろうに。
まぁ、その話は今度だ。校長の話に耳を傾ける。
「こう言ってはなんだが、君には本当に信頼出来る親友と呼べる様な生徒は居ないようだしね。あちらの方が夏目くんも居るし、同性の友人も出来るんじゃないかね」
まあ確かに表面的な人間関係ならそれなりに築けそうだが、それは青嵐にいても変わらないのでは?
僕の容姿や家柄を怖がり、近ずけ無かったり、意識されたり、変に気を使われたりして授業に影響が出ることが多いが、それでも行事や集団行動するには困らないぐらいの人間は居るにはいる。しかし決して多いとは言えず、その人たちもまともに顔を見ないようにして僕と接しているようだし。
他の男女とも話は出来ても顔を見て話せないしぎこち無い。ただ話しかけただけなのに鼻血出されたり気絶されたりして安易に話せないのだから困ったものだ。
夏目と呼ばれた男は何方かと言えば僕と同類の人種ではあるが、それでも僕の顔を長時間見るのは無理みたいだった。でも鼻血を出すことも気絶することもないし、馬もあったので自然と仲良くなった。他に校内で仲がいいのは一つ下の学年の幼馴染の静留だけだ。あれ、静留居なかったらある意味ボッチじゃないか?しかも静留のあれは幼馴染というより崇拝……あれ?(涙)
校長は僕の交友関係を心配していたようだ。
「校長も友人ですよ」
ニヤリと笑いながら言う。
校長は僕の顔に見惚れはするものの、僕のことを一生徒として心配してくれる教育者の鏡のような人だ。ただ単にそういう趣味、性癖が無いだけだろうが。
校長は照れながら困ったように笑った。
子供より大人の方がタチが悪い。それが権力者であれば見た目を気に入れば無理矢理手篭めにしたがり、強引にすることがよくある。それだけの我儘を通せる財力と権力があるからだ。
僕自身家が名家の養子ではあるがそれでも安曇家の息子のためパーティ等の社交に出るべきだが出ていない。それは上に書いたように容姿のせいで変に目をつけられないように、そして父が公言している"養子をとった"という言葉から出た邪推。"愛人じゃないか"とか"人に晒せることが出来ないほど学が無い"などの噂をわざと一人歩きさせるためだ。
単に父親から出なくていいと言われて甘受しているのもある。出ろと言われれば出るが、出たら騒がれてややこしくなるし、解決、と言うのか。終わらせたい私情もある。
その要因があちらに居る。だから鳳凰学園に行きたいのだ。
「悔しい限りだが、あそこはうちに比べて警備も多い。それに鳳凰学園の理事長は人格者で、教師陣も優秀だ。
あそこは男子校で、家柄のいい子息が多く居るから、問題も起こりにくいだろう」
「君を安心して預けられると思ったんだよ」と言いながらまたハンカチで汗を拭く。
「………」
(鳳凰学園に行けるのは嬉しいけど、このおっさん気づいてないのか?)
今まで華世の魅力にやられ行動に出た者は男女共に異常な数ではあるが、その中でも多く過激な行為に出た者は僅差であるが、割合として男が多い。
つまり幾ら育ちのいい人間の集まりでも過去の事例がある限り男子校である鳳凰学園は共学の学校より危険なのだ。何より善良そうな人間でも欲に塗れれば権力を利用し、何としてでも手に入れようとするだろう。
あちらから誘いが来たのだから問題児の華世のせいで学園で何か起きてもいいように対策しているんだろうが、顔を晒している限り問題は絶対起きるのは安易に想像出来た。
(まぁ、なんとかなるでしょうよ)
いつの間にか雑談に移行していた校長の話に適当に相槌をうっていた華世は一瞬昏い瞳をした後、校長の話を真面目に聞こうと耳を傾けた。
「ーーでね、教え子が鳳凰学園で教師をやっているからよろしく言っておいてくれ」
「えぇ、会う機会がありましたら」
「名前は藤原と言うんだがね……」
その後放課後だった事もあり長々と校長は話だし、華世は内心(長い話は嫌われるぞ、校長)と思いながら時々返事をしながら聞き手に回り、一時間以上経ってからやっとこれからすべき手続きなどについて話したのだった。