非王道転校生 1
主人公入場
「ぐずっ、時々連絡してくれるわよね!?」
小学校の頃からの幼馴染、成瀬静留がそこら辺を歩いているサラリーマンが小さな傷でも付けたら修理費にその人の給料が殆ど取られそうな高級車の前で僕の手を掴みながら涙目で言う。
そんな静留の手を苦笑いで握り返す。
「そんな悲しそうな顔しないでよ。今まで一緒の学校に通ってたから悲しくなるけど、永遠の別れじゃないから」
「そうだな。静留、これ以上引き止めちゃだめだよ。華世も休みの日には帰ってくるだろうし、な?」
この場までこの車を運転し送ってくれた兄の安曇苑が、静留を諌めながら困った様に僕を見てくる。
この状況はかれこれ十分以上も続いている。
それはある意味しょうがないのかもしれない。この転校が決まったのは三日前。突然幼馴染の転校が決まったから寂しいらしい。
「すぐに長期休暇が来るから、その時会おう?」
僕のその言葉にやっと静留は頷き、兄はその冷徹そうな美貌の顔に笑みを浮かべる。
幾ら広い学園の私有地内の道路で車の通りが少なくとも流石に長時間道端に車を停めているのは駄目だろう。広い敷地がある学園なら駐車場に停めろとおもうが、それもこれもこれから僕が通う学園の校風が関係あるのだが。
するりと静留が掴んでいた手に一瞬だけ力を入れた後離す。
「じゃあ、そろそろ行くね」
「ああ、気を付けて行ってらっしゃい。凪によろしく言っておいて……夏目にも気をつけろよ」
兄の最後の言葉は静留には聞こえなかったみたいで、僕を涙目で見ながら口を開く。
「気をつけて!……あ、絶対"ソレ"外さないでね?華世は男にも女にもモテるんだから!」
彼女が言った言葉が自分には笑えな過ぎて、つい兄と一緒に無表情になってしまったが、次には苦笑いを作る。
「……うん、気をつけるよ。それじゃあ行ってきます」
「………っ〜〜!」
そう言って静留の頭を少し撫でてから後ろを向き歩き出す。
静留がどんな表情をしたかすぐに後ろを向いたから見えないが、今どんな表情をしながら僕を見ているのかは少し離れた後に聞こえた小さな悲鳴で安易に予想が付いた。
学園の門の所まで歩くと後ろから車の発進音が聞こえた。
ふと、でかい門を見上げ遠くの複数の馬鹿でかい校舎や寮だろう建物を見る。
「……またか」
……こうやってこの学園を見上げるのは何度目になるか。といっても"今回"来たのは初めてだけど、また同じことが続くのだろうか…?
ーーーー安曇華世は私立鳳凰学園へ転校生としてその場に立ち、顔を少し歪ませながら遠くの校舎を色んな感情の混ざった黒い瞳で見つめた。