王道転校生
王道転校生視点
目の前の大きな門をつい口を開けながら見上げる。
「…さっきも門あったよね?」
わたしはこれから通う学園に佇む門を前に、乾いた笑い声を上げる。
敷地に入るための門だけでいいのに、敷地内にも校門があるなんて……必要あるのか、不思議だ。
とりあえずここで待っているように言わるているから、人が来るまで待っていよう。
待っている間、遠くを見てみると校門の奥には校舎には見えないような大きな建物が沢山建てられている。また、反対を見れば同じぐらい大きな校舎と、寮だと思われるマンションの様な立派な建物が何棟か立っている。
(は?……で、デカすぎるっ!)
お金持ちの子息が沢山居ると聞いていたから、今までの学校と違うだろうとは予想していたけど、その予想を敷地内に入っただけで軽く凌駕するスケールに、これから通うと思うと期待よりも不安が募る。
何故ならば、本来ならわたしが居るべき場所ではないから……。
ーーーー数ヶ月前、わたしは両親を不慮の事故で失くした。
帰る場所を失くしたわたしを養子に迎えてくれた人は亡くなったパパの兄であるこの学園の理事長だった。
パパに兄弟が居たことは一度も聞いた事はなく、両親共に親類の類は居ないと言っていた。だが、養父によればそれは嘘らしく、パパの両親はご健在で、 身寄りの無い孤児院育ちのママとの結婚をパパのご両親が許可しなかったから駆け落ちしたのが真実だと、伯父から養父に変わった人に言われた。
自分に伯父が居たことに嬉しい反面疑ってしまう。パパの実家がお金持ちで、普通の高校生のわたしでさえ聞いた事のある全国的に有名な学校の経営者一族なんだと突然言われて、はいそうですかと全てを信じることは出来ない。
かと言って行き場の無いわたしが養父と暮らすことを拒否することが出来るわけもなかった。
この鳳凰学園のことは養父のことがなくても全寮制の超エリート校として人気も高く、わたしの周りでもよく話題に上がってたことから前々から知ってはいたけれど、引き取られてしばらくは養父が鳳凰学園の経営者で、理事長をやっているなんて知らなかった。パパや他の大人たちとは纏う雰囲気が違う思っていたけど、ただの会社の偉い人かと思っていた。
わたしは事故後暫くは頑張って学校に行っていた。けど、そのうち事故のショックや溜まったストレスで学校に行けなくなり家に引きこもるようになり、最終的に学校に行かなくなってしまった。
わたしを庇って死んだ両親。パパとママが居なくなった喪失感。わたしを庇って死んだ二人が、こうやって現実逃避し、堕落していくのを望んでるわけ無い。わたしを引き取ってくれた養父や亡くなった二人に申し訳なくて毎日泣いていた。
養父が懸命に心のケアをしてくれたおかげで学校にまた通いだしたが、元々通っていた学校は頭が悪かった訳では無いが、少しだけガラが悪い人が多く、わたしが仲良くしていた人も中身はすごく優しいが見た目がそういう人達が多かったからか養父は心配し、優しく転校を勧めた。事故の後心配してくれていた友達と離れるのは悲しかったが、それは養父もわたしを思って進めてくれたんだろう、とわたしは転校の件を受け入れた……
ーーーー所まではいい。
お養父さん。わたし、女だよ?
「はぁ……」
私立鳳凰学園が人気な由縁は超エリート校で全寮制だからもあるけど、もう1つ有名な理由がある。
……それは鳳凰学園が男子校であること。ここに転校することになるという事は、つまり………そう。わたしは今男ものの制服を着ている。当たり前だ。いや、当たり前じゃないけど、当然鳳凰学園には男子用の制服しか無いんだから。
しかも違和感しかない分厚い眼鏡とかつら付き。
意味が分からない。ここに来た時にはこうなっていた。
勧めてくれた学校がまさか男子校で有名な鳳凰学園なんて。
養父さんはわたしを心配して自分が理事長をしている学園に転入させたんだろうけど、男装させてまで通わせるなんて。本当に心配するならもっと別の方法が良かった。
そもそもわたしを娘として養子に入れたつもりは無かったのかな……。それとも、こうする程心配してくれてるんだろうか。
養父さんに迷惑かけたくないから言われたことに従って男装しているけど、女のわたしが男子校と言う相反した場所に今飛び込もうとしてる。
「………はぁーーー」
不安から堪らずため息が出た。
まだ校舎に入ってもいないのに帰りたくなってきた。
この話を迷惑とか考えず、本気で断ればよかったと後悔していると後ろから足音が聞こえ、反射的に振り向く。
同時に強い風が吹き荒れ桜吹雪で姿が見えなくなり、付けるのに慣れてないかつらがズレて飛びそうになったのを咄嗟に頭を押さえながら、どうにか目を凝らして足音のした方を見る。
少しずつ風が止んでいき、見惚れる程満開に咲く桜が散る中現れたのはーーーー
「……サングラス?」
学力では他校の鳳凰と同じぐらい有名な学校の制服を着た星型のサングラスを掛け、光に当たってキラキラとした深い紫色の髪をした男だった。
相手もわたしに気づき、口を開く。
「あれ、君も転校生?」
少年のようで女性のようにも聞こえる中性的で綺麗な声が桜が舞うその場に響いた。
語り手は少女漫画のヒロインに居そうな設定の女の子です。主人公では無い。