ほんの少し毛が多いだけ
はじめまして、そうでない方はこんにちは。
このお話は西洋ファンタジーなコメディです。
オークに間違われて魔王軍に連れて行かれた主人公、ちょっと毛深いだけだったのに。
優しいオーク達に囲まれて、人間とバレないか?ヒヤヒヤしながら彼らと交流していきます。
人と魔物のハートフル物語。
後々でラブもある?かも?
俺は他の人と比べて、ほんの少し毛深かった。
ほんの少しだけだったが女性からの評判はよろしくなかった。
男友達からは
「男らしくていいじゃないか」
「お前の顔は悪くないから」
「体は逞しくてかっこいいのに」
「お前の良さはもっと大人の女性にわかるんだよ」
「きっとお前が好みだって人も出てくるよ!」
いつもそう言って慰めてくれた。
「ありがとう、俺みたいなのが好きだって人がいたら教えてくれ。」
俺も期待もせずに返事していた。
俺が住むのは、片田舎の村だ。のんびり暮らしている。俺自身もこの村を気に入っていて、こんな俺でも好きになってくれる人を見つけて、村で暖かい家庭を作るのが将来の夢だ。
そんなのどかな村だが、最近は色々な所で魔王軍の進軍があるらしく物騒になってきていた。魔物すら見た事が無い田舎でも村の男達が力を合わせて周囲に柵を作り始めていた。
「魔王軍が来たぞー‼︎」
見ると森の方が火が上がってる、まだ囲いの柵は途中だったが、みんな村に逃げ込んだ。
家の戸締りする人がいれば村から逃げ出す人達もいる阿鼻叫喚とはこの事だ。俺自身もどうすればいいのかわからない。手にはまだ作業中だった柵の杭があった。
火の手を後ろに魔王軍の姿が見え始める。全身を毛で覆われた大きな身体が見える、本で見た事がある。棍棒を持った逞しいオーク達だ。村人達はあっという間に殺されてしまうだろう。
戦おう。
敵うはずも無いが、少しでも時間稼ぎは出来るかもしれない。俺が戦えば、村の誰かは生き残れるかもしれない。
手に持っていた杭を握り直し、俺は魔王軍へと向かって行った。
気がつくと真っ暗な夜だった。村を焼いたらしい火も消えている。俺はすぐに倒されたようだ、体のあちこちが痛い。生きている。
「おめ、大丈夫か?生きってか?」
親切な人が俺の手を引っ張ってくれた。
毛むくじゃらの手、俺より毛深い奴がいるんだな。ぼんやりと考える。
ほんの雲の切れ間から月が照らされて、周囲が明るくなった。
親切な彼はオークだった。
俺は息を飲んだ、今度こそ殺される!
「生きってな、良かったな。さ、仲間のとこさ帰ろ。」
俺はちょうど壁の影になっていて、顔は見えなかったらしい、どうやらまだ気付かれてないようだ。
もしかして、俺が毛深いから仲間だと思われてる???
新しい絶望感に襲われそうになったがチャンスだ。まだ殺されないで済むかもしれない。
「あ、あ、ありがとう。助かった。」
そう言って周囲に手を伸ばすと指先に冷たい物があった。壊れかけた鉄仮面が落ちていた。
これだ!
俺は慌てて鉄仮面を被ると、痛む体を引きづりながら、オークの後を付いて行った。
助けてくれたオークは親切だった、よろよろと歩く俺に肩を貸してくれる。
「おめ、毛が少ねぇな、燃えたか?顔もどうした?」
「昔、大火傷したんで、全身薄いんだ、顔も火傷が酷くて恥ずかしいから被ってるんだ。」
とっさに嘘をついた。
「そっか、痛かっただろ。その仮面かっけぇよ。」
なんだよ、オークいい奴だな。敵同士じゃなかったら良い友達になれそうだ。
連られて行った先はオーク軍の夜営だった。ここから逃げ出すなんて無理だ、また絶望感に襲われそうになる。なんとしても俺が人間だとバレないようにしないと。
他より立派な兜を付けたオークが俺に近づいてきた。
「お前か、ニックが連れてきた男は。俺は隊長のオルクだ。何という名前だ?」
親切なオークはニック、隊長はオルクという名前らしい。
「はい、そうです。名前はクリスです。」
俺は下を向きながら返事をする。
「ん?ん〜〜〜〜〜?」
オルクはまじまじと俺を見つめた。生きた心地がしない。
「ちょっと付いて来い。」
オルクに強引に森の奥に連れ込まれた。
もうダメだ完全にバレた。もう俺は死ぬんだ。
泣きそうになっているとオルクが俺の肩をガシッと掴んだ。
「お前、ハーフオークだな?」
「はい?」
ハーフオークとは人とオークの間に生まれた者を言うらしい。伝説上の生き物で俺も見た事は無い。
オルクの顔を見ると、目に涙を浮かべている。
「大火傷を負ったそうだな。人間にいじめられたのか?可哀想に。」
まだ殺されないらしい、俺を仲間だと思っている。
「俺も初めてハーフオークを見たが、火傷だけでこんなに薄くなるはずがない。しかし安心しろ。俺の隊にいる間は俺が守ってやるからな。」
肩をバシバシ叩かれる。
「しかし本当に毛が薄いな!」
「は、はは。よく、言われます。」
こんなに毛が薄いと繰り返されたのは、生まれて初めてだった。
魔王軍の行軍は予想以上に過酷だった、道なき道を延々と進む。
俺は何度か倒れそうになったが、その度にニックや他のオーク達が気遣ってくれた。
早く逃げ出さないといけない。わかってはいたが、体が思うように動けないのと、彼らの優しさを裏切るようで辛かった。
何日目かの夜営は満月だった。
俺は焚き火を囲んでオーク達と談笑していた。
「クリスゥー、おめはホント毛が薄いな。そんなだとモテねぇだろ?」
「はは、そうだなぁ…」
力なく答えた。
人間だった時は濃いからとモテなくて、オークだと薄くてモテないのか。俺はどこに行ってもモテないのかもしれない。
「こりゃオラだけでねぇと思うが、実はよぉオラ人間の事は嫌いじゃねぇ」
一人のオークがボソリと言う。
「そだな、オラもだ」
「オラも」
「森でよ、たまーに会うと歌やってよ、一緒に踊った事あったんだぁ、楽しかったべな」
「そだそだ、そう会う事も無かったしな」
楽しそうなオーク達を見ていて、俺はつい口を滑らしてしまった。
「なんで戦争になったんだ?」
しまった!と思ったが疑問ではなく独白だと思われたらしい。
「あいつらが仕掛けてきたんだぁ」
ニックが焚き火を突きながら教えてくれた。
昔は人間も、オークやそれ以外の魔物とも、割と上手く付き合ってたらしい。数年前から国王が魔物の殲滅を宣言し、戦争が起こったそうだ。
「そうだったのか」
知らなかった。田舎で情報が入って来なかったし、国王の宣言も知らなかった。何より俺の村では魔物を見た事は無かった。戦争の前はお互いに距離を置いて生活していたのだろう。
「まぁ仕方ねぇべや、あいつらオラ達を全員殺すって言ってんだもの。」
焚き火を突いてたニックは寂しそうに言った。
本拠地の魔王城に近づいてきた。魔物の住処らしく空は黒い雲が覆い空気は冷えて重苦しかった。
オーク以外の魔物達も続々と到着し増えている。そろそろ本当に逃げ出さないとまずい。ずっと鉄仮面を被っていたが、もし外してバレてしまったら?
騙されたと知った彼らに、殴り殺されるかもしれない。
考えるだけで寒くなった。
「おい、クリスちょっと来い。」
オルクが俺を呼び止め、ガッシリと俺の肩を組んで小声で話し出す。
「ハーフオークのお前には行軍でも厳しかったようだな。よく頑張ったぞ。」
「しかしな、人間によく似た毛の薄いお前をよく思わない奴らがいる。お前には俺の隊以外の仕事を紹介してやる。付いて来い。」
俺はオルクの面倒見の良さに感動していた、絶対に人間だとバラさないようにしよう。俺はもうハーフオークとして生きて行くのも良いのかもしれない。
魔王城の隣にある森に連れて行かれる。森の奥深くまで進むと、庵が見える。そこだけ空を切り取ったように日が差している。暖かな陽だまりが小さな可愛いらしい庵を照らしていた。
「ここにいるお方は魔道士だ。魔王軍でただひとり回復薬を作れるお方だ。昔から助手を欲しがっておいででな。恐ろしい方だが、よく尽くせよ。」
「話は通してある、いつかお前の顔も体も治してもらえるといいな!さぁ行ってこい!」
背中をバシッッと叩かれる。
まるで家族を見送るように、オルクは俺を送り出してくれた。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。次回は明日の夕方に投稿します。
次のお話では新しい登場人物が増え主人公に関わって来ます。短期連載でサクサク進む予定なので、また読んでくださると嬉しいです。
よろしくお願いします。