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夢聞き屋   作者: 伊都 空色
9/10

9 『社長星』の女の子  夢聞き屋 第2シーズン-3

私は昔、占い師だった。

この店に来る前は、占いだけをやっていた。

遠い昔のようにも思えるが、ほんの2年前まではそうだった。


そうだ。思い出した。不思議な女の子を占ったことがあった。

変わった人間は多かったから、覚えている人間も大勢いるが

不思議に思ったのは、後にも先にも、その子1人だったな。


不思議に思った記憶は強く残っているが、何がそうだったのか

は、よくよく考えないと思い出せないようだった。

確かあの時は……


季節は、今と同じくらいだった。

暗くなるのが、だんだんと早くなって来て

雨も夕立みたいに、降ったり止んだりしていた。

もうすぐ、暗くなり始める頃で、そろそろ帰る準備をしようか

と思っていた時だった。


急に、何の気配けはいもなく現れた感じで、女の子が前に立って

いた。

「おばさん。私の運勢うんせいって、良くなるのかな」

そう聞いてきた。

手を見せてもらおうと、手をれた瞬間

あまりに強烈きょうれつな運気を感じて、めまいがした。


高校生か短大生ほどの年齢にしか見えなかったが

とても大きな何かを背負って、大きな役割を持って生まれた

ように感じたが、それをこの子は自覚しているのだろうかと

思いながら、女の子の顔を見上げて聞いた。

「あなた、今何をしているの?」

女の子は、何のためらいも無い様子で

「AV女優だよ。でも、まだ新人で、DVDも来月発売だしね」

「いろいろと大変じゃないの?」

「仕事だから、お金ももらうんだから気合は入れてやって

るよ。だけど、好きなんだろうね。自由に自分を表現させ

てもらえるっていうのが。監督さんにもスタッフさんにも

何でも言いたいことは言わせてもらえるし、自分はこうし

たいっていったことを尊重してくれるし、とても大事に扱

ってもらえてさ、今までそんなことってなかったからね」

女の子は本当に大変そうではなく、水を得た魚と言ってい

いくらいの感じにも思えた。

「でも、運が良くないって思っているの?」

私がたずねると、女の子は少し考えてから

「自分のことじゃなくてね、ビジネスをやっていく上で

どうなんだろうって思ってね。自分のことは自分だけが

何とかすればいいけど、ビジネスはそうはいかないだろう

からね」

私は、女の子の手相と、生年月日から鑑定したのを総合的

に見て答えた。

「あなたは、『社長星ぼし』を持っているから、ビジネ

スは向いているね。それに、来年から10年間はビジネスも

上向きになる運勢が出ているよ。でも、そのビジネスを手助

けしてくれる人が、大勢あらわれるから、あなたが頑張らな

くても、あなたの感性を信じてやればやるほど、想像以上の

成果があるって出てるね。ただ、大人の世界の礼儀は、普通

の人の3倍は気を付けるようにするのを忘れないようにね」

「へぇー、そうなんだ。だいたい私が予想していた通りのこ

とで安心した。悪い予想の方もしてはおいたけど、そっちは

実感がどうもわかないままだったけどね」

女の子は、しばらく間を置いて話を続けた。

「でも一番は、当たり前の話をしてくれなかったことが一番

うれしかった」


「料金は3000円だったね?」

女の子は財布を出しながら言った。

「あなた今、お金はいくら持っているの?」

私は、また来て欲しいと思い、割引をしてあげようと思った。

「これだけだよ」

彼女は財布を開いて見せたくれた。

カード類は入れてない、ほとんど何も入っていないような財布

だった。千円札が3枚と小銭が入っていた。

「3000円ここで払ったら、残りは小銭だけじゃない」

貯金はしっかりとする性格のようだったから、持ち金すべてと

いうわけではなさそうだが、財布にある全額を最初から払うつ

もりだったということだ。

「今からバンバンお金が入ってくるための、感謝の気持ちを先

に出させてもらうのに、お賽銭さいせんをあげるような感じで、おばちゃん

に渡せたら、いいかなって思ったからさ」

女の子はそう言いながら、三千円を私の手に乗せた。

「わかったよ。ありがたく、いただくよ」

そう言って顔を上げた時には、もう女の子は居なかった。

本当に不思議な子だ。『当たり前の話しをしてくれなかった』か。

その後、その子には何度か会うことになるが、まるで出世魚しゅっせうお

のように、会うたびに成長した姿は前とはまったく違っていた。

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