5 順番は逆が真実 夢聞き屋
あの子は 私たちと因縁があるんだよ。
そう言ったボスの言葉が、単なる予感なのか、何か
知っていてのことなのか、興味をそそられるよ
うになって来た。僕はボスに、ただ、うまく
乗せられてしまったのだろか。
あの子との再会は予想通りだった。
昨日は、高校生か中学生かわからないような感じの
姿だったが、今日はどう見ても中学生という感じに
しか見えなかった。
「時間を少しわけるって、こういうことだったの」
半べそをかきながら女の子は店に入って来た。
「私が、あの箱に入った物を欲しいと言ったから
こんな風になっちゃたの」
店の入口で、大声でこちらに向かって怒鳴っていた。
「それは違う。順番が逆だ。
お前さんが、そうなることはお前さんが何をしよう
とも、そうなっていたんだ」
登場の仕方が今ひとつ分かりづらい、ボスだった。
禅問答みたいな話だな。
だが、そう言われた直後から、女の子は静かになった。
あんな説明で理解ができたわけもないだろう。
「そうね。本当は私も知っていたのかもしれない」
どういうことなの。女の子が知っていたかもって。
僕だけが、会話に、この話に取り残されている。
「ここに3時間程過ごしているだけで、歳が2歳も
もどってしまうことが、どういう意味があるのか、
15歳だった私は、今は13歳位に、明日は11歳位に、
あさっては9歳位に、その次は7歳、そして5日後に
は5歳。ここからは、またもどって増えていくのよね」
女の子は続けて言った。
流れはそうなんだろうけど、どういう意味があるんだ。
「それは、その歳のお前さんが、やらなくてはいけない
ことがあるからなんだ。
そして、ここに来たから、そんな風に肉体だけが時間
をもどっていくわけではない。ここに3時間いないと、体
自体が崩壊してしまうからなんだよ。
言わば、この店の中が生命維持カプセルのような働きを
しているんだよ。
そして、やらなくてはいけないことっていうのは、お前
さんは、過去に5回、命を救われているんだが、本当はその
役割は、お前のご先祖様がしなければいけないものなのだが
お前さんのご先祖さんの間で、消せなかった因縁
が残り続けたせいで、その力がなくなってしまったんで、そ
の代わりに、こうして自分で過去の自分を助けに行くことが
できるようにと、ご先祖様がここに力をかき集めてくれたと
いったわけだ」
それじゃ僕も、女の子と同じように、過去の自分を助けに行
くために、こんな風になってしまうわけなの?
ボスに僕はたずねた。
あれ、1分は待ったけど、あとの話がないなと思ったら
心の中で思っただけで、口に出すのを忘れていた。
あわてて、同じことをボスにたずねた。
「ツカサは、その子とはちがうが、その子といっしょに行っ
てやるという義務があるからなんだ。その義務も、ツカサの
ご先祖様たちの願いごとでもあるわけなんだ」
ボスのその言葉にホッと胸をなでおろした。
「2人で行けるなら、少しでも明るい日のあるうちに、行った
ほうがいい。ツカサもその子と行ってみれば、疑問に感じてい
たことの多くが、見えてくるはずだ。 だから2人とも、心配
や不安に思うよりも、まず行って、そこで感じた通りに何でも
やってみればいいんだ。間違っていようが、間違ってなかろう
が、2人がそこへ行っただけで、ずべてはうまく回転するよう
になっているんだから」
とにかく、その子と僕が協力をしろってことだよね。
「ひとつだけ注意がある。
カラスが2羽来て、鳴かずに笑っていたら、それはその場所
からすぐに離れろっていう合図だから、それだけは忘れるな」
ボスの言うことには、何の意味もなさそうでいて、興味をそそられる。
女の子と僕は2人で、店の外へ飛び出した。
どこへ行っていいのか、何をしたらいいのか分からないままだけど
感じた通りでいいからと、ボスが言っていたことだけ、何度も心に
繰り返した。




