2 ボスの姿 夢聞き屋
昨日は調子が悪くて、相手の言いなりになってしまった
気がするが、今日こそは大丈夫、体調も頭も万全だ。
学校帰り、そう思いながら、『夢聞き屋』の入口の前で
深呼吸を3度して、気合を入れて中へ入った。
誰も居なかった。
昨日居たガキの女の子は?
それにしても、ここは相談所というよりも、質屋か古本
屋と言った方が似合っているような古臭い感じ
が漂っている。
カウンターの雑巾掛けでもしとくか。
そう思い、バケツや雑巾のある場所を探した。
しかし、ガキの女の子は、しゃべることはエラくババくさ
かった。もしかしたら、見た目はガキのような感じでも、
本当は高齢者なのか、もしかしたら呪いか何かで
どんどん若返って、最後は赤ん坊になってしまうみたいな
そんなことはないか。
「おい、お前」
声がした方を振り向いたが誰も居なかった。
確かに、昨日と同じ声で呼ばれたんだけど。
そう思って顔を上げると、目の前のカウンターテーブルに
ガキの女の子が立っていた。
「コラ。スカートの中をのぞくな。ロリコン野郎」
「誰がのぞいたりするか。
そんな所に立つ方がおかしいだろう」
多分、ガキの女の子は、カクレンボをやって欲しくて隠れて
いたのに、僕が探しもしないものだから、怒って、ああやっ
て登場したんだろう。そう思った。
「まあいい。さっそく仕事をしてもらおうか」
そう言われわしたが、コイツの名前を聞いてはないし、いつま
でも、お前呼ばわりもされたくなかったので、それを言うと
「私の名を言えというのか?
そんなことは、お前のような分際が言える程、
気安いものじゃないぞ。 私の名を呼べるのは、私の夫となる
ものただ一人だけだ」
やっぱり時代錯誤だ。コイツは本当は平安時代か何かの霊
が子供にとりついたんじゃないのか?
「わかった。あやまるよ。名前じゃなくていいから、役職でもニッ
クネームでもいいから、なんて呼べばいい?」
まともに相手にしたら、こっちが疲れそうだ。
「ボス。ボスがいいだろう。ボスって呼んでくれ」
「わかったよ、ボス。それで、僕の名前を言ってもいい?」
「いいとも、かまわないぞ。本当は知っているんだがな」
後半は小声で聞き取りにくかったけど、知っているってのも怖い
気がする。
「つかさ。月が冴えるって書いて、月冴だよ、ボス」
以外に、ボスって言いやすくて、しっくりくる。
「そう。ツカサだったな。いい名前だ。
じゃあ、ツカサ。今度、この店に入って来るお客が、どんな
ヤツか言ってみろ」
ここは霊視か何かをマスターさせてくれる所なの?
もしかして、僕がこの店に吸い込まれたような気がしたのは
僕より先に、僕の何かがこの店に入っていってたからってこと
なのか。それを感じろってことなのか。
その話は、また今度、機会があった時に、思い出したらやる程
度でいいか。
それよりも、ボスの姿が、一定していないことを発見したのが
僕の今日の一番のオカルテッィクな出来事だった。
ガキの女の子だって思い込んでたら、幼くなってるんじゃなく
大人になっている。それも3時間程で、幼稚園生から小学2年
生になった位のスピードだ。
毎日3歳位の速さで大人になっていったら、1月で90歳になっ
ていくけど、多分これは、37歳位で、次はまた幼くなっていく
みたいなパターンかもしれないな。