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夢聞き屋   作者: 伊都 空色
1/10

看板

 学校帰りの途中で、なぜか、昨日よりも今日はさらに気に

なってしまい、その前で立ち止まった。

「職業相談所」と書かれた看板の下に「夢聞き屋」という

もうひとつの名前が書いてあった。

職業相談所って、仕事を斡旋あっせんしてくれそうな風

ではなく、占いなんかよりも、もっと胡散臭うさんくさ

そうな感じだったが、夢聞き屋の方は、足がそちらに向いて

しまうような、妖気ようきのようなオドロオドロしさが

あった。肝試きもだめしで墓場に行くような感じかも。


 ネコたちが、その夢聞き屋の周辺に集まって来ていた。

 僕に気づくわけでもないのに、一匹が僕の方を見た後、他

のネコたちに合図をすると、蜘蛛くもの子を散らしたよ

うに消えてしまった。

 すると、今度は、小学生位の女の子が、そこへ入って行っ

た。小学生?と、いぶかりながら見ていると、僕の視界が

まるで、ズームアップされたように、夢聞き屋の入口の前が

目の前にあるような感じになった。

 

「どうぞ」

女性の声、女の子の声、ネコの声?

遠くから離れて見ていたつもりだった僕は、気づかないまま

入口の前に立っていて、自分の意思ではないように、入口か

ら中へ入って行った。


「やっと来た」

さっきの小学生の子だ。

「やっと来たって、僕が来ることがわかっていたわけ?」

「来るのはわかっていたけど、いつ来るかはわからなかった」

「いつ来るかわからなくちゃ、来ないのと同じじゃないか?」

「同じじゃない。お前は、人間が、いつ死ぬのかわからない

のなら、死なないのと同じだと言っているのと変わらないぞ」

理屈りくつぽいガキだ。

「わかった。訂正する。同じじゃない。

 だけど、僕はここに来るつもりもなかったし、何しに来た

のかわからないから、帰らせてもらうよ」

そう言って、入口の方へ向きを変えるまではできたものの、

今度は逆に、足の方が前へ出なかった。

「お前は、口で言っていることと、体がやっていることが逆

じゃないか。それが、お前がここに来た理由なんだろうな」

何をわかったようなことを一人で言ってるんだ。

「わかった。それじゃあ、どうしたら僕の足が僕の思ったよ

うに動かせるようになるのか教えてくれよ」


「わかってないな、お前は。

 自分の足だから、自分の思った通りに動かせるだなんて思

うことの方が間違っているんだ。自分の思ったとおりなんて

いうのは小学3年生位までの机の整理のレベルの物量の話で

しかない。絶対量が少ない環境要素の中で生きていくのなら、

自分の思った通り、予想下通りの世界もあるかもしれないが、

思った通りなんていうのは幻想の世界だ」

こんなガキに説教されたくない。早くここから出たい。


「教えてやろう。

 お前の思った通りの意識に焦点を当てるのではなく、動か

したいって感じたお前の感情の方に焦点を当てることだ。

 お前は、自分のすべてを自分で動かしていると思いたいん

だろうが、心臓は勝手に動いていないか? 呼吸は無意識で

やっていないか? 自分の意思でできることが100%じゃない

けど、70%位は自分の意思で動かせるって思っているかもし

れないが、自分で動かしているように思い込んでいるだけで、

それを信じられないというヤツ程、それなら、自分は自分の

意思なんか関係なしに、何かから動かされているなんて言い

出すんだ」

意識でなく、感情の方に焦点を当てる?

動かしたいっていう意識の方ではなくて、なぜ思ったように

動かないんだってっ、イライラしている感情の方に焦点を当

てて、どうにかなるって言うのか?

イライラなんかしたくない、感じたくないって思っていたの

と逆に、それを肯定する見方をしろってことなのか?


「そら、動いただろう。

 お代は要らないから、ちょっと手伝いをしてくれ」

ウソのように、固まっていた体が一気に開放された感じだ。

「手伝いって?」

「まあ、お前の勉強になるし、お前が今、身につけておか

なきゃいけないことでもあるから、授業料を払わなくても

済む分、得かもしれんな」


こうして僕は、夢聞き屋で仕事をすることになった。 

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