場末の銀行員さん、何で恋愛小説なんか書いてるんですか!? 昔のアナタはもっと尖っていたのに!
三十代、妻、子供あり。
世間的にも、なろう的にも、いい加減いい年した大人の彼は、
なぜ小説を書こうと思ったのか?
九割五分の真実と、ちょっぴりのウソを交えた自分語りと歌姫との出会い、創作秘話。
果たして、需要はあるのか?
*注意 最後は希望を持って終わっているつもりですが、途中、鬱展開があります。苦手な方はご注意ください。
どうも、詩野紫苑と申します。恋愛小説書いてます。よろしくお願いします。いつもは、「私」で通してるんだけど、より自分が出しやすいように、「オレ」で行かせてもらいます。口調もすいませんが口語で……。
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そこそこ名の通った大学を出て、
都市銀行とかじゃないけど、だいたいの人は名前を知ってる銀行に入って
結婚して、子供が生まれて、
ローンがあるけど家も買って
オレの人生、このまま順調に行くと思ってたんだよね。
銀行でだってさ、営業成績良かったのよ、オレ。
もちろん、拙作『歌姫と銀行員』の佐伯くんのように「頭取賞」とは行かないけど、
地区の渉外の中で、トップ5に三年連続で入ったこともある。
「オレが日本経済を回している」
とまではとても言わないけど。
「この支店はオレでもっている」
それくらいは思っていたな。
当時の支店長だって、オレの機嫌取ってたよ。オレの言った方針とか、だいたいすんなり通ってたし。
調子に乗ってたのよ。
妻だって美人だよ。
人に紹介したら、だいたい「綺麗な奥さんで羨ましい」って言われるから。
なんせ、顔で選んだからな(笑)
子供産んでも、全然体型変わってないからね。
大丈夫、もうすぐ、「リア充ざまあ」が始まるから。
転機が訪れたのは、子供が産まれてからだった。
自分の子だよ。猿みたいだったけど、そりゃあ可愛いさ。
結婚して授かるまでに二年以上かかって。
香川県の善通寺にまで、子授け祈願しにいったからね。
妊活……結構辛かったな。
妻が産休取って、一年くらいは、なんとかやれてた。
で、去年の春、妻が仕事へ復帰。
なんとかイクメン頑張るぞ!
ってオレも意気込んでたわけよ。
妻も仕事をしているから、職場が近い方のオレが毎日保育園に送っていって、一応週に一回はお迎えも行っていた。
妻も時短勤務取ってるけど、もともと激務の職場だから結構仕事溜まってるみたいで、せめて週に一回は残業させてやりたかった。
そうなると、今まで、夜の時間、新規開拓等に当てていた時間を、どうしてもやり繰りしないといけなくなる。
子供が風邪を引いたら、突発的に銀行を休まなければならない日もある。
そうなると、どうしても、仕事に全力を出せない。
ちょうど変わったばかりの上司は、ネチネチいびってくる系の奴だった。
営業職やったことある人ならわかると思うけど、毎日続くネチネチとした詰め……
これはほんとにじわじわと心にくる。
子供のために仕事を休むのに理解もない。
日本の企業って、ほんとその辺遅れてるよな……
なんかうまくいかなくて、営業成績も下がってきた。
子供のせいにするつもりはないよ。
要するに、オレのキャパの問題だからね。
子供も、一歳半過ぎて、やんちゃだ。
言うことなんて、聞きやしない。
まあ、当たり前だけどな。
父親としても、ようやく二年生……
そんな余裕なんてないのよ。
夜も、なかなか寝てくれない。
夜泣きもする……
自分の子なのに、「ムカつく」と思ったこともあったな。
ほんとに妻は、よくやってくれたと思う。
仕事の問題と……家庭の問題?
そして、オレは……ついにうつ病を発症した。
うつ病……なったことない人に、どう説明したらいいんだろうな。
……
……
……
やっぱよくわかんないや。
結局、二ヶ月ちょっとで復職したから、軽い方だったんだと思う。
もっと苦しんでる人なんて、いくらでもいるからな。
最初の二週間くらいは、テレビも見る気力がなくて
だって、みんなが活き活きと社会を営んでいる姿が出て来るんだよ。
強烈な自己嫌悪に陥るね。
まあ、でも、なんとかテレビくらいは見られるようになって……
そんな時、オレは歌姫様に出会った。
拙作『歌姫と銀行員』、ヒロインのminaのモデルになった人だね。
若者に人気で、長い黒髪がトレードマークで、小さい体でギター片手に元気いっぱいに歌う。あの方だ。ま、minaって名前もほぼその人から取ったからね。
子供を保育園に送って、オレはぼーっとテレビを見ていた。
教育テレビとか、あの辺が、害がなくていいんだよ。
民放とかテンションの高さが逆に辛いし。
ちょうど、テレビで、小学校高学年向けの道徳番組をやっていた。
様々な困難に立ち向かった人が、何を考えて、どんな行動をしたのか、そんなことを追いかけて、みんなで考えてもらう、みたいな番組だ。
歌姫様はその番組のナビゲーターをしていたんだな。
確か、サメの研究に一生を捧げた人とか、そんなテーマだったと思うんだけど、オレは、研究者よりも、真摯にその内容を語る、歌姫様にだんだん釘付けになっていった。
一応、歌姫様の存在は前から知っていた。
主題歌を歌ったテレビドラマとか、何作か見てたし。
でも、ちょっと前のオレはこんなことを思っていた。
「顔だけで、売れてるんじゃね」
「大学生で卒業しとく曲だわ」
「そのうち、消えるだろ」
自分でも思うけど、人間のクズだね!
こんな風になっちゃダメだよ。
でも、教育テレビを見ていたオレは……なぜか歌姫様に惹かれていったんだよな。
この人、なんでこんなに熱く、真面目に……他人の人生を語れるんだろう?
復職してからもオレは歌姫様のCDを借りたり、動画をちょくちょく見たりしていた。
まあ、だんだんハマっていったんだな。
元々容姿はストライクど真ん中だ。
長い黒髪、アーモンドアイの綺麗な瞳。小ちゃくて元気一杯な所もタイプだね。
まったく現金なヤツだよ。
復職したけど、みんなオレのことを腫れ物のように扱うし。
銀行の人事では、一度バッテンが付いたらおしまいだ。
それまでは、出世コースだと思ってたんだけど、まあ、まず無理だろうね。
まあでも、自分の置かれた環境に、言い訳してたんだろうね。
なんでオレはこんなことを、とか、上司が悪いとか、商品が悪いとか、客が悪いとか……
そんなある日、歌姫様のドキュメンタリー動画を見た。
五年くらい前に放送されたやつで、当時二十一歳だった歌姫様が悩み、苦しみながら歌詞を書いたり、楽器の練習をして、最後ライブで成功していくとか、そんな内容だ。
ライブで今でも盛り上がる、人生を応援するアップテンポな曲を書きながら、その曲のコンセプトを語るんだけど、
「今を嘆いてウジウジ言い訳している人に、理想の未来は来ない!」
バチーンと! 歌姫様に強烈な平手打ちを喰らった気分だったね。
お嬢様育ちらしいけど、この人、絶対苦労してるわ。
それも、並大抵じゃない、文字通り血の滲むような苦労をね。
二十一歳だよ、これで。すでに三十代のオレの心にこれでもかってくらいに刺さったわ。
高校生の時から大人に交じってライフハウスで演奏して、厳しい芸能界で揉まれて、大学生活と芸能生活の両立で悩み苦しんで……そんな人知れぬ苦労を味わってきたんだろう。
たぶん、だから、歌姫様の言葉は、歌は、心に響くんだろうね。
でも、歌姫様は「今まで苦しかったとか、辛かったとか、あんまり言いたくない」派らしいので、普段は明るく、元気にふるまってるんだな。
オレは、今までの自分の行いを恥じた。
まあ、今でもグチとか普通に言ってるんだけどね(笑)
人間ってそう簡単に変わらないのよ。
オレは、結局人生で何がしたいんだろう?
ちょうどそれくらいの時に、オレのことを歳の離れた弟のように可愛がってくれた叔父が、まだ若いのに急性白血病で、二年間の闘病の末、亡くなった。
人生で一番悲しい葬式だった。参列者、みんな泣いてたよ。
オレのばあちゃんなんか、ひどく取り乱しちゃってな。
でも、落ち着いた時にふと思ったんだ。
叔父さんは、「人生、何が起こるかわからない。だから、日々、悔いなく生きろ!」
そんなことを最後に伝えたかったんじゃないだろうか?
オレの、やりたいこと?
ノートにばっーと、思いつくままに書き出してみた。
「モンサンミッシェルに行きたい!」とか「ハワイにもう一回行きたい」とか、「孫を抱きたい」とか、色々書きなぐっては消していった。
それで、残ったのが、「小説を書きたい」だった。
高校生の頃の夢は、小説家だった。
本好きだったし、会社行かなくいいし、なんか楽そう……
でも大学入って、本を色々読んだんだけど。この人達よりすごい本を書ける自信がない。そんなこともあって、堅実な道を選んだんだな。
日本で活躍してるとある外国人芸人がいるんだけど、この人はIT企業の副社長をやりながら、芸人やってる。その人が言うには、
「別に、二足のわらじを履いてもいいじゃない。仕事で生活の基盤を作りながら、好きなことやったらいいじゃない」
と、そんなことを言っていた。
まあ、そういうこともできるよな。
オレは、なんで小説を書きたいんだろう?
夢の印税生活……それは確かに胸踊る。
一応義母の知り合いに小説家がいて、本も何冊か出してるんだけど、でも生活とか結構大変そうなんだよな。
自分の名前が冠した本が書店に並ぶ。
それはワクワクするな。
「小説家になろう」は三年くらい前から知っていた。
「無職○生」とか、よくスマホで読んでいた。
やった、更新されてる! ああ、今日の話もう終わっちゃうの? 早く続きが見たい! そんなことを思いながら読んでいた。
そうか! 単に名声を得るだけじゃない。
日々の更新が楽しみでワクワクするような。
それで、歌姫様のように、みんなに勇気を与えて、人々の背中を押すことができるような、そんな小説が書きたいな!
どうやったら小説って書けるの?
おれは「なろう」の中で、「小説の書き方」みたいなヤツを2つくらい熟読してみた。
プロットの存在も初めて知ったな。
それまで「みんな、こんな長い話を頭の中で思いつくがままに書いてすごいな」って本気で思ってたからな。
プロットを作って。それを元に文章を起こして、小説を書いていく。
うーん、なんだかマラソンに似ているな。
去年、十年越しの夢であった、フルマラソンをついに完走した。
あれは一年がかりで計画を立てて、時には修正もして、一〇キロ完走、ハーフマラソン完走、そしてフルマラソンって感じでコツコツとやっていったからな。
営業の仕事からも、まず計画を立て、それをコツコツと実践する。そして時々振り返り、修正して、次に活かす。そんなことを学んだ。
コツコツと取り組んでいけば、いずれは完成する。
経験を積んだ今だからこそ、小説が書けるのだろうか?
で、どんなジャンルを書こう?
ファンタジー? 世界観を一から作るのは無理だな。
歴史物? 確かに書いてみたいな。
上杉謙信とか。
でも、結構書き尽くされてるんだよな。
時代考証とか、いきなりはハードル高い気がする。
恋愛物? ふむ……
二十代の一時期、趣味はガールハントってくらい女性のことは研究してたな。
人生最初で最後のモテ期も味わったし、
振られて枕を濡らした夜もあった。
これなら、勝負になる、とは言わないが、なんとか形にはなるかもしれない。
じゃあ、どんな設定にしようか?
大好きな歌姫様を書こう。
書いてて自分が楽しいし(笑)
相手はどんな奴かな?
うーん、銀行員にしちゃうか。
小説の中で歌姫様と恋愛してしまおう!
銀行の裏側とか書いたら少しはウケるかもしれない。
しかも実体験だから書きやすい。
主人公は鈍感系がいいよな。
なかなか、ヒロインの好意に気づかない、恋愛ヘタレな銀行員。
弱点があるといいって、「小説の書き方」に書いてあったな。
うーん過去に挫折していることにしよう。
それを、歌姫様の歌のチカラで一緒に乗り越えていく。
いいじゃないか。
歌姫様は……
外観はそのままもらっちゃおう(笑)
対比があった方が、キャラクターが立つって書いてあったな。
恋愛押せ押せ系にしよう!
昔のオレと一緒だ。だって、オレって顔が残念だから、自分から行かないと振り向いてもらえないじゃん。
実在の歌姫様は、奥手な方らしいが、構うもんか。
二人とも奥手だと、話が進まない。
他の設定は……
歌姫様は有名大学卒だけど、主人公佐伯もたぶんエリートだろ。
エリート同士の会話なんて、見ててつまらんよ。
そもそも書けないし。
高卒で下積みで苦労したことにしちゃおう。
ついでに、デビュー年も遅くしちゃえ。
歌姫様は紅白歌合戦、四年連続出場のキャリアをお持ちだけど。
minaはまだ発展途上で、紅白初出場を一つのキーにしよう。
これだけ変えとけば、事務所から訴えられんだろ。
まあ、法廷ででもいいから、歌姫様にお会いしたいけどな。
他のキャラクターねえ……
やっぱ、女性が多い方が楽しいな。
minaは可愛い系だから、セクシー系?
ミニスカートにハイヒールのお姉さま。
そんなやつ銀行にいねえよ!
空手の有段者で、気に入らない男には容赦なく関節技を見舞う。
下ネタも女性キャラに言わせれば、ちょっとは軽減できるだろ。
若い頃に銀行のお姉さまから逆セクハラを受けていた経験を活かそう。
人気キャラ雨宮さんが誕生した瞬間だった……
ちなみに、雨宮さんのお名前はセクシー女優さんから一部拝借したのは、内緒だ。
あとは、可愛い系、セクシー系とくれば……
グラマーな女の子も欲しいな。後輩にしちゃおう。
ついでにドジっ子。
minaの友達でちょっぴり恋のライバルだ。
そんなわけで、オレは小説を書き始めた。
最初は誰も見てくれなかった……
そりゃそうだよな。
でも、だんだんPVとか増えてきて。
それでも、みなさんに比べれば、底辺もいいとこだけどな。
活動報告とかで構ってくれたり、感想や、なんとレビューをくれる人までいた。
あれは感激したね。
ちゃんと指摘をしてくれる人もいて。こういうのってうれしいよね。
自分一人で書いてたら、どこが悪いのかわかんないからね。
最近は、自分からレビューを書くのにも目覚めてきた。
目指せ、レビュー職人だ。
作者さんが喜んでくれて。
それであとでこっそりPV数を覗いて、数字が跳ね上がった時はもう……カ・イ・カ・ンだね。まあ、自分のPRの場にもなるしね。
お気に入り登録してくれている人は、オレの変化球交じりのレビューが飛んでくるかもしれないから気をつけてよ。
他の人も、レビュー書いてくれってリクエストも、こっそりメッセージ送ってくれたら受け付けるよ。
社畜銀行員業務と、家族サービスと、たまに接待ゴルフもあるから、すぐには対応できないかもしれないけど。あと苦手なジャンルもあるからな、あなたの他の短編にさせて、とか言うかもしれない。
あなたの小説、高く売ります!
営業の仕事に通じるものがあると思うね。
一話書くくらいの情熱をぶち込んで、レビューしてるから。
単にオススメです! とか書いてもつまらないだろ。
まあ、オレ、飽きっぽいから、いつまで続くかわかんないよ(笑)
でも最低限、今書いてる小説は、何ヶ月かかっても完成させようと思っているけどね。
妻は、見守る半分、ひいてる半分って感じだ。
子供は、オレと一緒に歌姫様のライブビデオを見て喜んでいる。
ヒロインのminaって名前さ、もちろん歌姫様から取ったんだけど。
妻の名前の一部でもあるのよ。
やっぱりオレは、ヒロインを描く時、どこかで妻を思い浮かべてるんだよね。
さて、そろそろ締めるか。
最後に歌姫様の言葉をみんなに贈りたい。
「夢は、ひとつ叶えて終わりじゃない」
「いくつ持ったっていい」
「いつまでも抱いていたっていい」
デビュー、武道館のライブ、憧れの海外アーティストとの共演……次々と夢を描き続け、陰で人並み以上の努力をし、ひたむきにそれを叶えてきた歌姫様だから語れる、最高の言葉だと思う。
働きながら小説を書く。そんなことがあってもいいんじゃないかな。
生涯で自分の名を冠した本が一冊出せれば……そんなことを思う。
いつか、歌姫様にお会いして、きちんとお礼を言いたい。
あなたのおかげで、私は夢を持つことができた。
そして私もあなたのように、誰かを勇気づけるような、そんなものを創りたい。
だからオレは、小説を書くのだ。
いつの日か、悩んでる、迷ってる、誰かの背中を押すことができれば……
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
よろしければ、私の妄想を書きなぐり、情熱を注ぎ込んだ
『歌姫と銀行員』もお読みいただければうれしいです。
現在、『歌姫と銀行員 第二幕 ~二人の恋の協奏曲』という続編を連載中です。
お前、どんだけ歌姫様好きやねん! って感じですが。
お試し読みでいきたい方は、『私の白馬の王子様は、両刀使い!?」
というヒロインminaの下積み時代を描いた、二万文字くらいの中編もあります。
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あらすじでも触れましたが、上記の自分語りはちょっぴりウソが交じってますからね。
あまり真に受けないように。
今後共、どうぞよろしくお願いいたします。
詩野紫苑