夏休み
10分ほどして倫久と逸貴がやってきた。
歌いながら春樹がまるで「遅い!」と言っているように顔をしかめたので、逸貴が「咲良に“商店街のスーパーでお菓子買って来い”って言われて、買いに行ってたから遅くなったんだよ」と言うと、咲良が“ちょうだい”と手を出した。
春樹が歌い終わったとき、買ってきてもらったお菓子を広げていた咲良が言った。
「なんかセンスな~い」すると逸貴は「はぁ?」と咲良に喧嘩腰で聞き返した。
「もう少し考えて買いなさいよ」と咲良も負けずに喧嘩腰で逸貴を睨みながらさらに続けて
「しょっぱいのばかりじゃない!甘いのも買ってきなさいよ!女子がいるんだから」
と言うと、今度は倫久が
「だから言ったじゃないか。逸貴はこれでいいんだなんて言ってたけど、女子がいる時はやっぱり甘いものも必要なんだよ」と言った。
逸貴は不機嫌そうに「嫌なら食べなければ良いだろ」と言った。
そのやり取りを見ていた春樹が呆れたように
「逸貴はホント、子供だなぁ。そんな風に自分のことばかりだと、女子に嫌われるぞ」と言うと
「別に女子に好かれたいなんて思ってないし」と逸貴はさらに不機嫌そうに返した。
朱里は優しく微笑んで逸貴に言った。
「でも、凄く優しいよね。咲良が買ってきてって言ったからって、わざわざ反対の方向なのにスーパーまで買いに行ってくれるなんて、斎藤くんは優しいよ」
乙衣がそんなやり取りを見て茶化すように言った。
「さすが校内で人気のG3は違うよね」すると逸貴が
「何だよそれ。だいたい“G3”ってのも一体何なんだって話だよな」とまたも不機嫌そうに言った。
「でも人気があるのは事実だよね。他校の生徒の間でも噂になるほどなんだから」と咲良が言うと春樹が
「そんなの全然、嬉しくないけどね。見せ物みたいでさ」と言った。すると朱里が
「そんなことないよ。高橋くんのことを見せ物だなんて思ってないと思う。ただ見かけるだけでも嬉しいと思う子の気持ち、私には分かる気がする。女の子なんてそういうものだから」と言った。
朱里の言葉を聞いて逸貴が
「そんなもんなんだ」と言うと、倫久が優しく微笑んで「そういうものなんだね」と言った。