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切れるまでが長いおばさんの話  作者: 恭子@新参者(旧PN:三宮 奈緒)
第一章かずこさんと彼らの出会い
7/18

7・佳津子とかずおの、説明をしよう。

佳津子さんとかずおが、どうしてこんなんになっちゃってるのかの説明回です。

いつにもましてグダグダです。

 佳津子とかずおの違いは、何というか説明が難しいものになっている。

 言葉を飾らずに言えば、かなりの割合まで融合が進んでいる第二人格同士、というところだろうが、しかし本来はかずおの方がメイン、先に存在したのだ。佳津子をメインにする、と決めたのは小学生当時の佳津子で、……ああもう、本当にややこしいが、つまりアレだ。

 

 佳津子がかずおを作り、かずおが佳津子をメインに据えた、のだ。

 

 ……やばい、本格的に自分が行方不明だ。モラトリアムとかじゃなくて。

 幽体離脱だったとか、そんなオチだったらむしろ愉快だったのに。

 

 かずおは気に入ったリーリアの茶をもう一口飲んだ。自己紹介しておいて目をそらすのもマナー違反だとは思うが、人の名前を聞いて困ったように微笑むのも、それならマナー違反だろう。なんだろう、自分の名前はこっちでは卑猥な単語だったりしたのか? ん?

 

 とりあえず向こうが困惑している間に自分を、つまり、かずおと佳津子の関係を立て直しておいた方がいい。かずおが混乱すれば佳津子が絶望してしまう。

 ふむ、と内心でかずおは頷き、時系列で自分たちの歴史を並べてみた。

 

 1.小学生の時に、佳津子は自分が周囲から浮いていることを自覚する。

 

 2.観察した結果、もう少し『女の子らしい態度』を『佳津子として』取ろうと決意する。

 

 3.しかし、どういうのが『女の子らしい態度』なのか誰にも相談できる相手がいなかったため(ちなみに親は当てにならなかった。何というか…浮世離れした人たちなのだ。親族揃って)、しょうがなく、冷静沈着で今の自分に限りなく近い言動と思考を持つ、出来るだけ感情を省いた『かずお』を自分の中の第二人格として作り出し、常に相談しながら『年ごろの女の子らしい行動をとる』役目を佳津子に振り分けた。

 

 4.結果、佳津子は普通の女の子からは多少逸脱しているものの、変人のレベルで収まる人間となり、かずおは佳津子がパニックを起こしたり周囲の感情その他をどうしようもなく悪化させたときに出てくる、いわば佳津子専門のトラブルメーカーになった。

 

 5.かずおを『人』として定着させるわけにはいかないことは佳津子もかずおも理解していたので(どう考えても二重人格に匹敵するだろう、コレ)、かずおからプライド、恋愛、娯楽の感情を省き、不快な状態を嫌い、わからないことがある状態を嫌う、といった設定をつけた。表面では悪態をつかない、面倒そうなことはさっさと解決してその場から逃げたがる、というのもその一環だ。そうしておけば、後の入れ替わりがスムーズになる。

 

 6.何度かそうやってトラブルを解決したことから学習し、佳津子のパニックが収まるまではその場での事態が沈静化しようともかずおと交代しない、つまり、佳津子からはいつでもかずおにスイッチできるがその逆は出来ない方がいいだろうとした。

 

 7.それから時は流れて20台も半ば、えーい正直に言えば29歳になった現在、滅多にかずおが出てくるようなトラブルは発生しておらず、佳津子の対人スキルも上昇したことで自信が生まれ、最近では佳津子とかずおの境目は非常に曖昧になっている。というか、この歳の社会人ともなれば大体のところ、どれだけ変人でも仕事面も付き合いも含めて『こなせる』ものだ。…………いや、変人の評価は変わらず不動でいただいてるけれども、だけれども。安定はしている。

 

 8. だから。

 だからそのつまるところ、だ。この体の中にいるのは確かにかずおと佳津子の二人だが、その境界は極めて曖昧、むしろ、そろそろ同一人物になろうかとしているところなのだ。思考も記憶も趣味も嗜好も、性癖でさえかずおの方が辛口でありながら共有している。学生時代ならならともかく現在に至っては要するに、ちょっとだけ行き過ぎた仮面なわけだ。○○さんに向けてはこういう風にした方が受けがいいかもって奴の、極端な例だと自分では納得している。

 佳津子の思考はあまりにも空転が多く、人の感情に無頓着なわりに情緒が豊か過ぎた。さらに、女性にあるまじきことながら感情面での共感が苦手なのでかずおが変わって観察した結果、なんとなく経験則として女性らしい態度をとるようになったのだ。……まったく、苦労の連続だった。特に学生時代。

 

 9.かくのごとくの苦労を二人して分け合いながら来たが、しかし佳津子の本来の個性は今に至っても子猫のように(我ながら痛すぎる表現すぎて嫌になる)好奇心が旺盛で、周りを顧みず、実に動物めいている。そんな人格に対して、女性として外面を保つためのカウンセラー、それで言い過ぎなら、アドバイザーが、かずおなわけだ。

 

 ……さて、こんなところだろうか。

 超高速で自分と佳津子の関係性を構築し直したかずおは、ようやく落ち着き伏し目がちにしていた顔を上げる。同時に、どうやらずっとかずおを見ていたらしい年下組とがっちり目が合い、思考が上擦った。

 

 なんなのこいつら、外人は目を逸らさないって聞いてたけどホントなの? っていうか、これ、いつからボクが見られてたの? 思考はもう共有されてないって言ってたけど、じゃあ何で見られてるの? 何か面白いの? ボクが。

 ……ああ、珍獣みたいな扱いで? それで?

 

 かーずーこーさーーーーん、と呼びかけだけまたしておいて、かずおは見えない片手を心の中で握りしめた。

 ちょっと急いで現況を整理しておいた方がいいかもしれない。主格として存在しないように気を付けてきたかずおには、人間関係全般が荷として重すぎる。ましてや状況が異常なのだ。トラブル解決係としての短時間で女性ならまだかずおの範疇に入るが、男性ともなると、さらにその異性がこちらに関わる気マンマンだとすれば、親切心からだろうと好奇心からだろうとその厄介さは天井知らずに引き上げられる。

 そう、そのことは中学高校の時に学んだ。異性関係にまで気を回す余裕がなかったせいで、かずおが男性からの接触をいなせる経験値はほぼない。むしろマイナスレベルになる。佳津子にも劣るのだ。

 ……異性と付き合ったことがなければ、そういう意味で手も繋いだことがない、異常な29歳女性、佳津子にすら。

 

 ……面倒な予感を無視する方法なんぞない。

 少なくともかずおは、これまでの佳津子との共存で、それを身に沁みこませてきた。

 そして先ほどからのこの思考の空転具合と、口調が一定していない脳内ひとり言形態。佳津子が表に出てくるリミットはきっと、もうすぐだ。

 早いところかずおが気になる部分、魔法を簡単に他人にかけていいのかという部分と佳津子の立ち位置、これからの大雑把な問題点を聞いておかないと、佳津子のことだ、流されるままにどんなことになるか想像もつかない。

 

 ちなみに、こんなふうに心の一部を、一時的にとはいえ切り離せる人間が、そうそういるとは佳津子もかずおも思ってない。もちろん、ある部分で非情な人物が実は温厚だったとか、そういうことなら大勢いる。そうではなく、スイッチをここまできっぱりと切り替えられる人間が、という意味だ。

 

 昔、ゴキブリも殺せない佳津子が、目の前で轢かれてしまった子猫をかずおとして生ゴミと一緒に処分したことがその端的な例になる。かずおは、自分が飼ってるわけでもないことを理由に、子猫の死骸を、家ではなく学校の焼却炉に生ゴミとして捨てた。雑巾代わりのタオルで何重にも包み、焼却炉に火が入ってることを確認して念仏を唱えながら、それでもゴミとして扱った。

 その行為は人間としてどうかと思うが、そうでもしなければ佳津子が大パニックを起こし、帰宅どころか道路で吐きながらぶっ倒れかねない状況だったのだ。

 

 ゴミを処分し、それでもまだ佳津子が怯えきっていたのであの日はかずおとして家に帰る羽目になったことまで芋づる式に思い出す。家人でさえもかずおのことは察知しておらず、黙ったままのかずおはただ単に何か落ち込むことがあったのだ、くらいに思われたらしい。

 暖かい風呂に入り、ホカホカで清潔で安心できる環境になりようやく、洗面台で鏡に向かった。

「今日のことはただの事故で、佳津子さんがどうこう出来たことじゃなかったんだよ。これ以上は気にしちゃダメだ」と何度も言い聞かせて、「子猫、かわいそうだったね」と優しく声をかけたときに、夕方からこっちで初めて涙が出てきた。それからしばらく泣いて、タオルの端が絞れるほどになってようようのことで佳津子と交代できたはずだ。

 

 ともかく、それが一番残虐な出来事だったが他だって似たり寄ったりだろう。他人に興味が薄いわりに情緒が過多で、異常なほどの好奇心を持つ佳津子はトラブルに巻き込まれることも多い。ついうっかりと知らないままに高校生の時、学校のアイドルと仲良くなってクラスの女子から吊るし上げを食らったこともある。

 ちなみにその時は本人が心のままに返答したせいで周囲の女子の雰囲気がどこまでも悪化し、しょうがなくなってその場でかずおが交代、「なんだ、ライバルかと思いきやただの変人か」と納得してもらったのもいい思い出だ。

 

 そういえばその時の男の子とは今でも仲がいい。出会ってからもう、出会うまでの時間と同じだけが過ぎるほどだ。佳津子にとっても唯一といっていい男友達で……あいつ、どうしてるんだろうなぁ。あの後、大学も学部も会社も同じになったし、今では何か月かに一度は二人で飲みに行く仲になったんだけど……こうなったら、もう、会えないんだろうか……。

 

 このイレギュラーすぎる状況について色々と聞き出さなければ、そう決心しながらも、いわゆる外人の異性とガッチリ目が合ったことに動揺して再びうつむいてしまったかずおはどうやら自分の思い出に入り込んでいたらしい。誰かと話しているときに思考の一筋としてではなく、こんな風に記憶に入り込むようなことも稀で、集中力が欠け始めているのだとようやく自覚した。

 なら、佳津子のために少なくともお互いの名前なんぞよりも立場を確認しておかなければ。

 

 ……壮年組とは、佳津子の方が相性がよさそうだが。

 

 


…………彼らの言ってる意味が、お分かりになられますでしょうか。

この回、最後まで入れるか削ろうか迷った場所です。入れずに上手に説明ができませんでした。が、……うん。

読みづらかったのなら、大変に申し訳ないです。

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