06
窓のない部屋で固いベッドに腰掛けてアンリはむすっと重く冷たい鉄格子を睨んでいた。
医務室で検査を受け終えた頃、アンリを訪ねてくる者があった。
リサがカイルを寄越すと言っていたので彼だろうと思ったが、現れたのは見知らぬ二人の男だった。
「貴様がアンリ・シルフォン空軍パイロット候補生か!」
「そうだけど…」
横柄な口調と高圧的な態度にアンリはムッとしながら答えた。
2人は第5基地に所属している正規軍人だと言った。
言わばアンリの先輩というわけだ。
その先輩がいったい何の用かとアンリは訝しんだが、次に男が紙切れを一枚突きつけながら言った言葉にアンリは耳を疑った。
「貴様に捕縛命令が出ている。罪状は軍、ひいては国の財産たる戦闘機FO-02の窃盗未遂及び訓練中の逃亡!…大人しく、ついてくるように。」
そうしてワケも分からぬままアンリはこの拘留室へ連れてこられた。
男たちは拘留室の守衛に2,3言付けるとすぐにどこかへ行ってしまったし、守衛は詰所から出て来ない。
無罪を主張する相手もおらず、アンリにできることと言えば忌々しい鉄格子を睨むことくらいだ。
拘留室は3方を分厚いコンクリートの壁に囲まれ、廊下に面した一方は一面鉄格子だ。
室内は快適な温度に保たれてはいるが、殺風景な灰色の部屋はどこか寒々しい。
アンリのいる部屋の隣にはあと4室同じ部屋が並んでいるが、今はどこも空室で音を立てるものはアンリ以外誰もいない。
そのアンリがじっとしているのだから拘留室は静寂そのものだった。
何も音がしない状態というのは、人間の意識を否応なく内へ内へと向かわせていく。
アンリは自分に降りかかった諸々の理不尽について深く再認識し、結果眉間の皺をより一層深くしていった。
ふと、詰所の方から誰かの話し声が聞こえた。
守衛は1人だけなので、そいつが独り言を言っているか、もしくは誰かが来たのだろう。
しばらくして詰所の扉の鍵が開けられる音がした。
拘留室にはアンリしかいないので必然的にそれはアンリを訪ねてきた者だ。
来訪者は憤然と足音を鳴らし、大股で一番奥のアンリの房へと近づいてくる。
そして鉄格子の向こうに現れた怒りも露わな顔に、アンリは嫌そうな顔を隠しもしなかった。
訪ねて来たのはフリードリヒだった。
わなわなと唇を震わせアンリを睨んでいる。
「航行中に行方不明になって何日も探させてやっと見つかったと思ったら今度は戦闘機窃盗と逃亡の容疑で拘留だと!?一体お前はどうなっているんだ!!」
「だーもー!んなもん俺が一番聞きてぇよ!」
開口一番浴びせられた怒声にアンリも溜まっていた鬱憤を爆発させた。
ここに戻る前、事故だったのだからよもやフリードリヒもアンリを責めたりはしまいと思いながら、それでもあいつは文句を言いそうだと思っていたが、やはりそうなった。
まさかこんな形でとは思っていなかったが。
しかし何と言っても事故は事故であり、あの状況では回避のしようが無かった
罪状だってアンリには1つも覚えはない。
アンリに何か非があるわけではないのだが、例え理不尽と言われようともフリードリヒはアンリに当たらずにはいられなかった。
「大体お前は日頃から態度も悪いしだらだらぼんやりしているからこんなワケの分からないことになるんだ!普段からもっとしっかりしていればまだ状況はましだったものを…」
「あー…それはまぁ、ちょっと悪かったとは思ってるけどさ…」
「だろうな。その点についてまで自分は悪くないなどとぬかせば即刻見捨ててモーガン大尉にももうかばう必要はないと申告してやる。」
そう言ってギロリとアンリを睨んだフリードリヒの目には疲労が色濃く浮かんでいた。
フリードリヒが責任を感じていたとカイルが言っていたのを思い出した。
根っから真面目がコイツのことだ、必要以上にアンリのことを案じて必死になって探してくれたのだろう。
よく見ると目の下にクマもできている。
それに気付いたアンリの怒りは徐々に小さくなり、代わりに申し訳なく思う気持ちがわいてきた。
フリードリヒの前に面会に来たリサも自分の無罪を信じ、おそらく今は必死に上官に掛け合ってくれているだろう。
カイルたち同期も心配してくれているはずだ。
しかし、普段のアンリの素行の悪さがこの状況で不利に働いているのは紛れもない事実だった。
「…とにかく、僕からも当時の状況を説明して弁明を図るつもりだ。絶対出してやるから、いいか、くれぐれもここで問題を起こすなよ。」
「こんな所で何を起こせってんだよ。」
「いいから大人しくしていろ。」
そう言い残してフリードリヒはさっさと立ち去ろうとした。
アンリをここから出すためにやるべきことは山ほどあって、こんなところで油を売っているヒマはないのだ。
その背中を見てアンリは反射的に立ち上がりフリードリヒを呼び止めた。
フリードリヒが振り向くとアンリは呼び止めたくせに何と言えば良いか迷っているような妙な顔をして、鉄格子に手をかけていた。
「その、悪かった。心配かけて…」
それはアンリなりの精一杯の感謝の意だった。
いつも口うるさいフリードリヒに探してくれてありがとうなどとは何となく言いにくかった。
「お前が素直だと気色悪いな。」
皮肉混じりに笑ってフリードリヒは拘留室から出て行った。
扉の閉まる重い音が響き、それが止むと房はまたしんとした静寂に包まれた。
アンリは鉄格子から離れドサリと簡易ベッドに腰を落とし、深いため息をついた。
正直、さっきまでは不安でしょうがなかった。
やっとみんなと合流できたかと思えば、身に覚えのない罪状で殆ど言いがかりのように牢に入れられた。
このままパイロット候補生の座まで失うのではないかという考えが何度脳裏をよぎったか分からない。
それだけは絶対にごめんだ。
しかしフリードリヒと話して少し気が軽くなった。
リサもフリードリヒも、カイルたち同期の連中も自分の無罪を信じてくれている。
アンリにできるのは彼らを信じてここで大人しく待つことだけだ。
(頼むぞ、フリッツ…)
アンリはもう一度深く息を吐いて祈るように瞑目した。
******
どれほどの時間が経っただろうか。
鉄格子の向こう、通路の壁にかけられた時計の針はとっくに外が夜であることを示しているが、窓1つ無い拘留室ではイマイチ時間の感覚が狂ってしまう。
アンリは腰掛けていた固いベッドにごろんと仰向けに転がってみた。
そこは壁と同じくらい面白みの無い天井があるばかり。
変化の無い景色はアンリの思考を悪い方へ悪い方へと転がしていった。
フリッツが去ってから拘留室を訪れる者は一人もいなかった。
リサやフリッツは上手くアンリの無実を主張してくれているだろうか。
リサは何か誤解があっただけだろうから、それが解ければすぐに出られると言っていた。
しかし実際まだアンリは解放されていないということは、そんな簡単な話ではないということなのではないか?
一体何がアンリをここに押し留めているのか。
目をつぶって考えては見たものの、あまりに判断材料が少ないので、コレといった答えも仮説も出て来ない。
諦めてそのまま不貞寝してしまおうかとため息をついた時、アンリは閉じた瞼の上にパラパラと何かが降ってくるのを感じた。
その不快感に顔をしかめ、アンリは身を起こして顔を拭った。
拭った袖口が黒く汚れ、一体何が降ってきたのかと顔を上げようとした。
しかしそれは叶わなかった。
顔を上げようとした瞬間、アンリは後ろから羽交い絞めにされ、黒いグローブをはめた手に口を塞がれたのだ。
「おっと、暴れるなよ脱走兵クン?あんまり手荒なマネはさせないでくれ、面倒だから。」
抵抗しようとするアンリに向けられた声は、この穏やかならぬ状況にそぐわないのんびりした印象をもたせる男の声だった。
しかしその腕はまるで鉄のようにガッチリとアンリを拘束して、上半身の自由をほぼ完全に奪っている。
唯一自由になる両足は空を蹴るばかりだし、ふさがれた口からはくぐもった音しか出ない。
音も無く背後に忍び寄ったことと言い、窓もない拘留室に侵入したことと言い、明らかに素人ではない。
何らかの訓練を受けた、しかも相当な手練だ。
アンリが一頻り抵抗し、俄かに大人しくなると男はアンリを拘束したまま器用に通信機のスイッチを押した。
「あーこちらラル。対象を確保。そっちはどうだ?」
『もう終わってるわ。』
雑音だらけの通信機の向こうの声は女性のように聞こえた。
男は「さっすが」と笑いながら返すと通信を切った。
「さて、もういいぞ脱走兵クン。仲間が守衛を眠らせたから大声で助けを呼ぶなり何なり、好きなだけやれ。」
「………っ」
そう言って男はアンリを解放した。
アンリは転がるようにその手から逃れ鉄格子を背に男と向き合った。
20代後半か30くらいに見える黒髪の男だった。
前身黒尽くめのタイツスーツがいかにも不審者らしい。
アンリは鉄格子に背中をぴったり付けて男から距離を取りながら視線だけでちらりと天井を見た。
通風孔の蓋が開いている。
あそこから侵入したのか。
さっきアンリの瞼に降ってきたのは、こいつが天井裏を歩いた時に落ちた埃だったようだ。
男は警戒するアンリに、もう何もしないと言わんばかりに両手を軽く上げてベッドの上に胡坐をかき、面白い生物でも見るように口元に笑みを浮かべている。
なめきったその態度にアンリは苛立ちを覚えた。
「おい、守衛!来てくれ、怪しい奴がいる!おい!」
アンリは男を警戒したまま大声で看守を呼んだ。
しかし返事はない。
鉄格子をガンガンたたいてみたりもしたが、詰所に繋がるドアは一向に開く気配はない。
「気がすんだか?」
男に声をかけられ、アンリは自分がいつの間にか男から目を離してドアを凝視していたことに気付いた。
慌てて男を睨みなおすと、男はやはり面白そうにニコニコと笑っていた。
「誰だアンタ。ここに何しに来た。」
アンリは身構えて言った。
対する男は房の中を見渡したり、アンリが手をつけなかった夕食をつまみ食いしたりと至極くつろいでいる様子だった。
「俺はラル。お前を助けに来た。」
「……は?」
男―ラルの答にアンリは一瞬呆けてしまった。
まさか素直に答えが返ってくるとは思っていなかったので拍子抜けしたと言うのもあるが、アンリを混乱させたのは何よりその内容だった。
助けに来た、だって?
「助けって…」
「ここから出してやるってことだ。」
こともなげにラルは言った。
アンリは天井を見上げた。正しくはそこにポッカリ開いた通風孔を。
つまりあそこから脱走する手引きをすると?嘘だろ?
へはっ、とアンリの口からため息とも笑いともつかない力の抜けた声が漏れた。
すると目の前でくつろぎまくっている男に一方的に警戒するのも何だかバカらしくなって、アンリは身構えるのをやめた。
「なるほど、分かった。」
「お、物分りが良くて助かる。」
「俺は行かない。お前は出てけ。」
ラルと通風孔を交互に指差してアンリはきっぱりと言った。
言われたラルはえー、といかにも不満げな声をあげる。
彼の予想では無実の罪で投獄された哀れな少年はどこからともなく現れたかっこいいヒーローに歓喜してついて来るはずだったのに。
歓喜どころか感謝の言葉も無い。
最近の子は捻くれてんだな。
そんな感想を抱いたラルにアンリは続けて言った。
「お前にそんなとんでもない方法で助け出してもらわなくたって明日には出て行ける。俺が無実だってことなんて少し調べれば分かるし、上司や仲間が上に話もしてくれてる。だから、お前は、お呼びじゃない。」
アンリはラルに指を突きつけながら一句一句区切って強調した。
そう、きっと明日にはこんな場所出て行ける。
冤罪なのだ。
今ここでこの怪しい男について行けば名実ともに脱走兵の汚名を賜ることになってしまう。
そんなのは断固ゴメンだ。
しかしラルはアンリの熱弁なぞ興味無いと言わんばかりに小指で耳をほじって取れた耳垢をフッと吹き飛ばしていた。
「ああ、そうだな。明日には出られるさ。」
ラルは何かを思い出しているように目を細めた。
アンリはそんなラルの様子には気付かず、ただ言葉を額面通りに受け取って「分かっているなら出てけ」と言おうとしたが、その前にラルが言葉を続けた。
「明日、朝市でお前は軍法会議にかけられるために軍用車でソラリナへ護送される。…が、車はソラリナには辿り着かない。途中事故か何かで車は大破、お前は事故死。新聞の片隅で小さく報じられてこの件は終わりだ。」
「は……?」
淡々と並べられたラルの言葉にアンリは頬を引きつらせた。冗談が過ぎると怒りたかったが、ラルの目は真剣でアンリに言葉を詰まらせる。
護送中に事故死だって?そんなのまるで――
「暗殺されるんだよ、お前。」
脳裏をよぎり、有りえないと頭の奥底に閉じ込めようとした言葉をラルは容赦なく引き出した。
暗殺、その冷たい言葉は先ほどラルが丁寧に挙げ連ねた明日の予定とあいまって、アンリの頭に具体的で生々しいイメージを刻み込んだ。
それはぞろりとアンリの胃を冷ややかな手のひらで撫で、落ちて体に染みていく。
アンリは動揺を目の前の男に悟られないように唇をぐっと引き結んだ。
しかしラルは畳み掛けるように言葉を重ねていく。
「少し調べれば分かる無罪なら、何故お前は何時間も拘束されている?お前の味方たちの言葉を上が聞き入れるという保証は?自分でも何かがおかしいと、本当は気付いているんじゃないのか?」
「……っ」
ラルの言葉はアンリの不安を正確に突いてきた。
それはラルが進入してくる直前まで1人でいたアンリの内側で悶々と渦巻いていたものたちだった。
煽られた不安は再びアンリの心に疑念を生み出す。
このまま事態は最悪の方向へ転がっていくのではないか、と。
アンリは通路の奥の詰所へ繋がる扉に目をやった。
扉は沈黙を守り、ラルの仲間が眠らせたという守衛が目を覚ましてこの状況を変えてくれることは期待できなさそうだ。
ましてや今このときにリサやフリードリヒが釈放の報せを持って駆け込んでくるなんてことは現実逃避の妄想でしかない。
アンリが相対している現実は、暗殺と言う物騒な言葉がチラつく牢獄と助けてやると手を伸べる怪しい侵入者。
その手を取ればこの不安で心休まらない状況から逃げ出せるのかもしれない。
しかし―
「…いや、ダメだ。やっぱり逃げるわけにはいかない。」
アンリは迷いを振り切るように俯いて首を横に振った。
「アンタの言うようにこの拘束は何かおかしい…でもここで逃げれば今度こそ俺は本当に脱走兵になっちまう。除隊も、免れない。」
アンリの脳裏に浮かんだのはアンリに飛行機の基礎を叩き込んだ第4基地の整備士達、カイルやフリードリヒ、リサ、そして空を飛んでいる時の体が青に溶けていくような、あの感覚。
手放すわけにはいかない。
アンリは俯いていた顔を上げ、ラルを真っ直ぐに見据えた。
「だから俺は、行かない。」
ラルは何も言わなかった。
その表情からは既に笑顔は消えうせ、見定めるような鋭い目がアンリを見つめている。
詰所から物音がした。
それはごく微かな物音でアンリは気付かなかったが、ラルの耳は確かにその音を拾っていた。
時間切れだ。
ラルはがしがしと頭を掻いて大きなため息をついた。
自分が迎えに来たこの少年は思った以上に強情なようだ。
「本当に分かってるのか?死ぬんだぞ、お前。命を懸けるほどの価値がこの場所にあるのか?」
ラルは決して声を荒げたりはしなかった。
ただ静かに、確認するようにアンリに問いかける。
アンリはぐっと鉄格子を掴んでいた手に力を込めた。
「命を懸けて、ここまで来たんだ。それに死ぬと決まったわけじゃない。アンタがウソをついている可能性だってある。」
「………」
「騒ぎは起こさないって、約束もしたしな。」
そう言ってアンリは口端を上げた。
笑ったのは強がりだったが、言った言葉は真実だ。
コネも無い、ましてや移民3世という色眼鏡で見られるというハンデを背負っても、折れることなく今日まで踏ん張って来たのだ。
全ては自らの夢のために。
軍人でいることに命は懸けられない。
だが夢のためなら命も人生も懸ける覚悟でその階を駆け上がってきたのだ。
易々と捨てられる物じゃない。
「…はぁ、無駄足か。まあいいさ、お前が決めることだし。」
アンリの覚悟が本物だと言うことを悟ると、ラルは盛大にため息をついた。
そしてごそごそと懐を探り何かを取り出す。
「ほらよ。」
ラルは取り出した何かをアンリに投げて寄越した。
反射的に受け取ったそれはアンリの掌に収まるほどのデリンジャーだった。
拘留室の粗末な照明を受け黒い体を不気味に光らせるそれを見て、アンリはぎょっと目を瞠った。
「なっ、こんなもん投げんなよ!暴発したらどうするんだ。」
「あーそりゃ困るな。それ弾一発しか入ってねえし。」
あっけらかんと言うラルにアンリは二の句が継げなかった。
しかしラルはそんなアンリの様子など意にも介さず、立ち上がって帰り支度を始めている。
アンリはもう一度デリンジャーを見た。
デリンジャーはアンリの普段使っている軍支給の銃よりは軽いが、その小さなボディの割りに掌にずっしり来る。
ラルは一体何の意図でアンリにこれを渡したのか。
顔を上げるとラルと目が合った。
「救いの手をみすみす跳ね除けるお馬鹿さんに餞別だ。意思を貫き通すってのも結構だが、それには力が要る。そのくらい持っとけ。」
「は……」
「見つからねえように隠しとけよ。」
そう言うとラルはニヤリと笑顔1つ残して、拘留室の中に1つだけ置いてあった椅子を踏み台にひらりと通風孔へと姿を消した。
アンリは音も無く閉じられた通風孔の蓋を、デリンジャーを片手に乗せたままただ黙って見ていた。
小さいくせに妙に重たいデリンジャーがその存在を主張するかのように照明を反射して光る。
アンリはもう一度それに視線を落とすと、それを視界から隠すように背中側のズボンのベルトに挟んだ。
そうすると上着に隠れ傍目には分からない。
これが必要になるなんて本気で思っているわけじゃない。
だが、手放してしまう気にもなれなかった。
しばらくして守衛が慌てた様子で見回りに来た。
アンリがちゃんと房で大人しくしているのを見ると、ごまかすようにゴホンと咳払いを1つして、威厳たっぷりに大股でゆっくり通路を歩き回ってから、詰所に戻っていった。
ラルの仲間に眠らされたことにも気付かず、ただ居眠りをしてしまったと思っているのだろう。
守衛の後姿を横目で見送りながらアンリはラルに言われたことを頭の中で反芻していた。
隠したデリンジャーは絶えずアンリにラルの声で語りかけてくる。
「暗殺されるんだよ、お前。」
アンリはその声から逃れるようにきつく目を閉じてベッドに横になった。
翌朝、アンリは起こしに来た守衛に、軍法会議にかけられるためにソラリナへ送られることになったことを聞いた。