02・5話 入学式準備の生徒会役員1
「姫乃ちゃん?なんか正門の所で新入生間の揉め事が有ったらしいから、至急応援を求むって受付嬢からの知らせだって。一応揉めてる生徒の名前は送られて来てるから、何かあればその生徒の名前を公表しないと行けないから、読み上げるわね?」
「分かりました。一応端末にデータを入れときます。……どうぞ?」
「……ん、絡んでいる生徒が、1年2組の井上智。絡まれてるのが1年1組斎藤慶太。「……!!」それの近くにいるのが……って、どうしたの?」
学園の新入生の入学状況を確認する生徒会の実行委員である生徒会長の白雪姫乃と、副会長の一人、立石菫は、ただいま生徒会室に缶詰状態だ。
他の生徒会役員もそれぞれの準備で忙しい。
その様な時に正門での新入生による揉め事。
これに生徒会員が眉根を寄せるのは当然の事だろう。
そう思って菫も「会長になった途端、姫乃ちゃんも気の毒に」……と、内心同情しながら対象の生徒の名前を読み上げるのだが……途中で姫乃の様子が可笑しくなった。
「……姫乃ちゃん?」
「……」
さっきから暫く(1分ほど)ずっと目を虚空に漂わせたまま、ピクリともしない。
なので、菫は姫乃のその控えめな胸に最終手段として奥義……制服の中へ手を突っ込んでのダイレクト(直接)乳揉みを繰り出す。
フニフニ……
「……んん……、って、何やってんですか!?菫先輩!」
「……だって、呼んでも反応が無かったんだもん……」
「もん……って、子供ですか!?」
控えめなのを気にしている姫乃は、巨乳の先輩菫の乳揉みを受け、咄嗟に抗議をする。
無論、その乳揉みの力加減が妙に絶妙なので、無理に体を捻ったら手を突っ込まれている分、制服が無駄にシワになりそうで迂闊に逃れられない。
そうしてる間に言い合いをしているが、何故か菫は子供の様な言い訳をする。
「……まあ、それはどうでも良いとして……、何か有ったの?急に目が遠くを見てたけど?」
「!そういえば、昨日私が寮の管理人の貴子さんとした会話って、聞いてますか?」
「?うん、そりゃ~ね?規則だから」
姫乃の質問に一応首肯する菫。
あまり一般生徒には知られていないが、寮生の管理人との管理人室での会話は重要機密扱いとして保存されている。
それは管理人室で生徒を招いて会話する事自体が珍しいからだ。
普段は寮のエントランスホールで、雑談交じりに管理人と会話してカウンセリングのような事はよくあるが、密室と言うべき個室での管理人との会話は、ある種の密談になる。
その為何かあった際の重要参考証拠として録音されるのだ。
そして、それは生徒会役員は義務として拝聴をするようになっている。
まあ、学園の生徒を管理する立場の者だから、無闇なプライバシーの侵害は無いだろうという信頼の為だ。
そして、管理する立場の者が「何も知らされていませんでした」という状態は避けなければならないので、これは義務になっている。
これは部活動の管理分野や、各種研究施設等にも取り入れられている制度で、皆相応の信頼を勝ち得ている者だけがその義務を負っている。
「その会話の中の謎だった私の行動を全てさっきの生徒……斎藤慶太さんの名前を聞いた事で思い出したんです」
「……へ?……ちょ、ちょっと待って?最初から説明してくれる?」
「はい、実は……」
それから姫乃は、昨日暴漢に襲われた事、その後ここの生徒になる予定の少年に助けられた事をあるがままに話した。
その間、菫は「信じられない……」と初めの助けられたと話した後に一言だけ言って、それから完全に聞き手に回っていた。
そして、粗方説明を終えた姫乃は、菫に意見を求める。
それに対し、菫は……
「ひ……」
「ひ?」
「姫乃ちゃんに春が来たーー!」
やんや、やんやと思わず手放しで喜ぶ菫。
その行為は姫乃が「は~?」アングリと口を開けっ放しにしたまま一分程続けられ、その後やっとの事で気を回復した姫乃が頭にチョップをカマスまで続いた。
「黙りなさい!」
「あ痛!」
そして、チョップを脳天にかまし、動きを止めてから姫乃は続けようとした……が。
「それで?せん「それより姫乃ちゃん!早く王子様の所へ行きなさい!何かあったら後悔すわよ!?」……分かりました。直ちに取り押さえてきます。取りあえず、暴れている人達を静かにしたら良いですよね?」
「うん、それで王子様は大丈夫よ!」
「だから、そういうのじゃ……まあ良いです。それじゃ、行ってきます」
そう言い残し、姫乃はその場を後にした。
✩
「って事なの。だから今から皆の端末に、姫乃ちゃんの王子様……斎藤慶太君の顔写真と端末IDを送るから、入学式のメインイベントの時、それぞれが独自に行動して標的(斎藤慶太のアバター)を発見し、皆に居場所を知らせて?姫乃ちゃんには、競技が終わればその前の会話から全てを聞かせて内容を伝えて話に遅れないようにさせるから、皆は邪魔しないようにね?」
「「「ラジャー!!」」」
入学前の正門での騒動の際に目標を見つけなれなかった(居たがそうとは思わなかった)姫乃は、流石に表面上は取り繕っていたが、付き合いの長い菫には気落ちした様子がアリアリと伝わっていた。
なので、先輩として人肌脱ぐべく、生徒会役員の自分の仕事が粗方終わっているメンバーに声を掛け、姫乃の初恋成就を支援しようと菫は各員に命令を飛ばした。
「……これで雑多な男共からやっと開放される姫乃ちゃんを見れるわ……。流石にカンナちゃんでは彼氏の代わりは無理だし、同じ生徒会の子達は近すぎて今一姫乃ちゃんのハートを揺さぶる事が出来ないみたいだったし……。これで漸くお姉さんの肩の荷も降りるってモンよ……」
「良い仕事したな……」と、生徒会室で伸びをしながら吉報を待つ菫。
しかし、彼女は知らない。
可愛い後輩……白雪姫乃の恋には、結構高いハードルが存在することを……。
仮に姫乃が菫の思惑通り告白した所で、慶太が周りの反応を気にしたら成就は不可能だし、何より慶太自身に色々と秘密が多くて、そう簡単な恋に成らないのだということを……。
「……っし、後はお姉さんが王子様の好みとかを色々調べて上げれば、姫乃ちゃんからの好感度はうなぎ登り。そして、行く行くはカンナちゃん達も加えた女の園でのウハウハな生活が……じゅるり……」
誰も聞いてないことを良い事に、自分の野望(願望?)を声に出して呟く菫。
その顔は、カンナが姫乃に対してした怖い顔とほぼ同じ顔であった……。