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6話 放課後のお食事会(主(では無い)人公達の自己紹介)

「おう、慶太。自分、部活の体験は何処や?ワイは第3希望のバトリング部になったわ。……まあ、本命とはちゃうけど、体験やから問題なしや」


「ねえねえ、慶太君の部活体験は何処?あたしも一応第3希望にしてたバトリング部になっちゃったんだよね~。まあ、昇の言うように、体験だから別に良いんだけど……」


「……僕は入りたい部活は無いっていうか……家の事情で忙しくて……多分部活をやる暇が無いんだ。……だから、ゴメンだけど僕は一緒に行けない」


「「そうなんだ(や)……」」


 お昼のチャイムが成った途端、紅が作業の終了を言い渡し、それで本日は新入生のみではあるが、終了となった。


 なので、部活体験を設定し終え、お昼を共にしようと考えた昇と楓に誘われる形になった慶太と、3人で話し合いをしだしてからの開口一番の言葉が二人の今のセリフだ。


「ま、まあそういう事なら仕方ないやろ。……それと、慶太と楓は寮生活か?それとも自宅通いか?……因みにワイは学園の近くに個人住宅を一軒丸々貰って、そこに昨日から住んどる。朝は早うなるし、不便も多いけど、自由度は比べもんにならんさかいな?」


「へ~、いいな~?あたしも外だけど、学生寮っていう訳でないだけで、学園都市内の住宅街にお姉ちゃんと住んでるから、それ程自由って感じじゃないよ~。そりゃ~、お姉ちゃんは大学の方で忙しいから、家は殆どあたしの自由だけどさ?」


 等と二人が揃って口々に言う。


 これからお昼を摂るという事で、何処で食事をすれば家族や友人に心配させることが無いかを遠まわしに聞いているのだ。


 なんせ、今日の日程が終わった今、後は各自自宅で食事にするもよし、外食も学食も自由。


 勿論、外食も学食も金が掛かるので、寮生活の者は殆どが寮の食堂でお昼だ。


 それから各々学園都市を散策するのが普通。


 だから、二人は明日一緒に行けない分、今日3人で学園都市を色々と見て回る計画を立てる。


 まあ、今日の今から行くのだから、行き当たりばったりになるのが目に見えているが……。


「それでは、今から端末で検索してはどうです?私も丁度これから友人達と夕方辺りまで学園都市を散策する予定ですし……、よろしければご一緒いかが?」


「……ヒィ!」


「「「……(何時になったら慣れるん(だろ、やろ、でしょうか))……」」」


 突然背後からエリカに声を掛けられた慶太は、お馴染みの過敏な反応で周りを苦笑させる。


「お、確か……御剣さんやったな?……お誘いは嬉しんやけど、おたくの友人とやらは慶太の事見て何とも思わへんのんか?もし、処分対象になった……熊谷?ってガキみたいに見た目で判断するんやったら、女やいうてもワイは殴るで?」


 慶太の反応に苦笑しつつも、先ほど担当教師の紅に連れて行かれた熊谷建太の事を例に出して、偏見の目で見たら容赦しないという言い方をする。


「そうそう、あたしも色々あって慶太君の事気に入っちゃたから、悪く言うなら容赦しないよ?これでもお姉ちゃんに相応に鍛えられてるから、そこいらのチンピラ程度の実力なら相手になんないよ?」


 そして、楓もまた、昇と同様に慶太を擁護する意見に賛成の意を示す。


 しかも、序でに目にも止まらない足技を披露して、周囲の下衆な視線を集めていた。


 因みに女子の制服は見た目短めのスカートとセーラー服なので、運動にはあまり向いていないのだ。


 そんな事もお構いなしに、次々と足技を披露して観る者を魅了する姿に、自然と慶太も礼を述べる。

 

「……二人共、ありがとう……」


「「気にしないで(すんな)、困った時はお互い様よ(や)」」


「ふふふ……入学初日でそこまで仲が良くなると言うのも羨ましい限りですわね。……まあ、心配なさらずとも、私の友人にはその位の配慮が出来ない輩は居りませんわ。安心して下さいな?」


 二人の意見に感動している慶太と、そんな3人を微笑みながら見ているエリカは、安心しても良いと、自分の友人の事を誇らしげに語った。


「ほ~か?なら、ムカついた時は遠慮なく殴っちゅう方向で……慶太。楓。ご一緒させて貰おか?」


「うん」


「いいよー」


 二人の同意も得た昇は、エリカに向かって……。


「ほな、そういう事で……先ず合流しよか?」


 と先を促した。エリカもまた……。


「ええ、場所は校舎の正面入口で待ち合わせしてますから、行けば分かると思いますわ」


 そう応え、一行を先導して校舎の正面へと向かった。




 ✩



「あ、エリカ来た……けど、誰か友達も出来た見たいね。……って、男連れ!?……あの人見知りが!?」


「エリちゃんにしては珍しいな……。しかも……男……二人?さては……どっちか……茶髪くんにでも惚れやがったか?っていうか、黒髪の子って何処かで……」


「ん……?分からないけど。仲が良いのは良い事。っていうか、あのポッチャリくん。何処かで……?」


 校舎の正面には三人のいずれ劣らぬ美少女が周囲の視線を受け流して立っていた。


 会話順に和葉、双葉、紅葉の異母三姉妹。


 真っ赤な髪をショートカットにしたボーイッシュな髪に、長身でありながらも凹凸のハッキリしたプロポーションの和葉は、慶太らを見止めた瞬間に、驚愕しながらも面白そうな笑みを浮かべた。


 そして、背丈と顔がソックリの髪の色だけが違う双子の双葉と紅葉は、それぞれ珍しいと言った反応。


 特に双葉はからかいのネタになると半分笑っていたが、二人共黒髪の男子には何処かで見覚えが有った。……まあ、実際見ているはずなのだが、慶太の存在感の薄さで覚えがないだけだ。


 因みに双子は中学1年生でも通用しかねない程の低身長のロリっ子だ。


 双葉はエメラルドグリーンのハーフロングな髪に、気の強そうな青の瞳。


 紅葉はその名の通りオレンジがかった同じくハーフロングな赤の髪に、こちらは無表情な同じく真紅の瞳。


 そして、そんな風に3人に観察されているとは知らない慶太らは、既に合流地点に到着しているとエリカからどの生徒かを聞いて分かっている為、分かっていないであろう3人に、代表してエリカが手を振っている。


「和葉さ~ん、双葉さんに紅葉さんも……待ちましたか?」


「待ってないけど……いい加減長い付き合いなんだし、さんは要らないって言ってるじゃん……まあ、偶に出るだけだから、そこまで気にしないけどさ?」


 エリカの呼び方に苦笑しながらも、こればかりは本人の性格なので仕方ないと言った顔の和葉。


「それより、エリちゃん。紹介してくれか?どっちが彼氏でも良いけど、名前が分からないと対応に困るぞ」

「エリリンの性格的に、堂々としてる茶髪くんが本命?」


「いや、案外古風なエリカだから、黒髪の方かも?ダイエットさせれば、顔立ち自体は良さそうだし?」


 双葉の意見に、紅葉も興味深々でエリカに訪ねていた。


 それに追従して、和葉が慶太の顔にズズィーっと、その顔を寄せる。


 その顔は興味深々と言いたげだ。


「……う……顔……ち、近いです……」


 と、慶太自体はその行動に多少逃げ腰。しかし、この和葉の行動に慌てたのは慶太だけでなく、周りで三姉妹を見ていた観衆もまた騒然とした。


「おい、あんな綺麗な人達が、あんなデブと親しげにしてるぞ?……待てよ?あいつ入学式で会長に誘われて無かったか?……中学での何かのチャンプか?」


「いや、俺は知らねえ……。ってか、何であんなのがあんな美人達と仲良くなれんだ?間違ってるだろ??!」


「「「……」」」


 と、言った感じで昇や楓と言った美男美女が居るにも関わらず、入学式での会長(姫乃)と話していた時と似た状況になっていた。


 そして、周囲の観衆の意見で、双葉はどこか見た事のある顔だが、ハッキリとは思い出せなかった慶太の顔を、今はっきりと思い出した。


「あ……、ああ、何か見た事あるな~って思ったけど、入学式の時に噂の万能会長にデートに誘われてた彼か……。なるへそなるへそ……、ムフフ……面白くなってきたぞ~?」


「双葉?悪巧みの顔。考えがバレバレ」


「おっと、双葉様としたことが……っし、大丈夫」


 紅葉に注意された双葉はペロッと可愛く舌を出しながらおちゃらけた後、両頬を軽くパンパンと叩いて気を取り直した。


「それで?エリちゃん。勿論紹介してくれるんだろ?エリちゃんが男子に声を掛けるなんて、珍しいってもんじゃ無いからな?」


「人見知りのエリリンにしては、奇跡」


「うんうん。お姉さんに相談してみ?取り持ったげるよ?」


「ば!……ち、違いますわよ!?これは……え……っと、……もう!取りあえず予定していた学園都市内のお勧め店に向かいますわよ!?付いて来なさい!!」


「お~お~、照れちゃって……可愛いの~」


「エリちゃんは黙ってれば可愛いんだぞ~!」


「エリリン、ガンバ……」


「「「……ははは……」」」


 友人全てに慰められているエリカに、些か同情を禁じえない3人であった。




 ✩



「それでは、先ずは1組側から紹介しますわね?」


「お~、パ~フ~パ~フ~」


「双葉、調子に乗りすぎ」


「お、こりゃ失敬」



 場所は変わって、学園都市の案内にある中でも、最高評価を受ける5つ星レストラン【エルグランゼ】


 そのレストランの長机に7人がテーブルを囲んで座っている。


 片方に慶太、楓、昇。


 もう片方に和葉、双葉、紅葉。


 長机の真ん中にエリカといった配置だ。


 そして、何故学生の筈の、しかも入学したての新入生である慶太達がこんな有名なレストランに来たかと言うと、ココがエリカの親である御剣泰三が学園内で出資している学生専用の格安レストランだから。


 勿論、格安とは言っても、普通の学生からしたらバカ高いのだが、そこは将来への投資という事で、学内での試験の上位50人に入っている者については、食事代を半額にする等の各種サービスを行っているのが評価の高い理由だ。


 例えば、学内で優秀な息子のいる家族には、学生家族割引もあったりして、お子様ランチになると、ワンコイン(100円)で食事ができる価格破壊の食事代。


 勿論中華や、フレンチと言った数々の国の料理を扱えるシェフも学内研究機関に所属している為、日々進化した物が提供される。


 その代わり、来店の際にIDの提示が毎回必須なのだが、そのリーズナブルさと面倒を天秤に掛けると、どうしても安さが際立つのだ。


 しかも、安さだけでは客も逃げるが、その味は専門店と比較しても何の遜色も無い味なので、逃げるどころか客が客を呼ぶ繁盛ぶり。


 例え高い金を払っても食べたいと思わせる味なので、一般生徒やその家族も利用している。


 そして、それ程のサービスを提供する肝心の店側(御剣グループ)の見返りは最優先でのBSD卸売市場の情報とお得意様の獲得権。


 何を隠そう、今や御剣グループはそのBSDの国内販売シェアが関東だけを言うならばトップで、全国的にも有数の、世界にも店舗を持っている大企業だ。


 勿論、慶太の使っている物は、専門のスタッフが独自に開発した物を使っているため知らなかったことだし、エリカにしても慶太の持つ端末やBSDは未知の代物だが、それ以外の端末等でエリカの知らない物は少ないのだ。


 現に今いる7人の中でエリカの記憶に無いBSDの制作会社の物を使用している者は慶太のみ。


 長い説明になったが、エリカは所謂大財閥のご令嬢なのだ。


 この点では、姫乃とはライバル(勿論BSDの開発関係)になる。


 閑話休題。


 因みに今回慶太が注文しているラーメンは餃子とセットで400円。


 昇は牛丼大盛りで300円。(奇跡としか言いようが無いが、昇は総合順位(脳波学他の知識問題は下から数えた方が早いが、脳の反応速度が新入生でダントツのトップ)で新入生200人の50番目に入る試験結果だったらしい)


 エリカと柊三姉妹はカレーとデザートにチョコレートパフェで400円。


 楓は牛丼並で200円。


 それぞれが食事を終えて、腹も膨れた所で自己紹介が始まった。


「先ずは私御剣グループの娘で、御剣エリカです。エリカでいいですわ。……そういえば、斎藤さんには自己紹介しましたが、お二人にはまだでしたよね?」


「ああ……いや、説明してくれたで?……なあ?楓?」


「あ……うん、ちゃんとしてくれたよ?あたしらは……したっけ?」


「……まあ、したかどうか忘れたんで、またしとくと、ワイは霧島昇。慶太と楓には言うたが、大阪でたこ焼きの屋台やら、なんやらをチェーン展開しとるトコの長男や。その関係でBSDも買えたって事で安心しとったら、なんやインターネットの中で競技をする用に面白い遊びがあるやんかって事で、この学校の試験を受けて、奇跡的に受かった、霧島昇言います。あんじょーよろしゅうに」


「昇……あんた、あたしらにした説明と、ほぼ同じ説明してんじゃん……関西人を自称するなら、少しは捻りってないわけ?」


「捻り……やて?」


 楓のツッコミに、関西人の昇は訝しげに反応した。


 しかし、自己紹介でそれぞれ別の情報を説明したのでは、そもそもなんで最初にそう説明しなかったのかという矛盾が生じる。


 なので、慶太や楓に説明したのと同じ説明をしたのだが……どうやら一言付け足さねば目の前の少女は納得しないらしく、昇はしばし考える。


「……そうやな……何やインパクトのある紹介ってあるかいの~?」


「……別に、今の説明でも問題ありませんが?」


 必死で面白い自己紹介を考える昇に、エリカは苦笑しながら別に必要ないというのだが……。


「まあまあ、エリカ。ここは関西人のツッコミどころ満載のボケに期待しましょう」


「賛成だぞ~」


「右に同じく」


「……く……ちょい待ちぃや?……おお、そういや、好みのタイプを云うてなかったな?……よう聞けよ?皆の衆!」


 昇はそう言うと店のテーブルに靴を脱いで片足を置く。


 その際食器が揺れるが、全て食事は終わっているので惨事は免れた。


 まあ、周りの客が「なんだ?何が始まるんだ?」と、遠巻きに見ているが、昇は一切気にしていない。


 そして、昇はそれから右手を天に突き上げて……吠える。


「ワイの好みは巨乳や乳や色白の美少女や!色白巨乳好きで、関西では、その道で知らん奴は居らへん、関西地区ボクシング大会中学生チャンプ、霧島昇とは、ワイの事やーー!!……って事でどないでっしゃろ?」


「「……プ……」」


「フフ……」


「っククク……」


 くだらない。


 あまりにもくだらない宣言。


 そのくだらなさに思わず笑いがこみ上げるエリカ達女性陣。


 しかし、店の中の観客には大層受けていた。


「よ!いいぞ、兄ちゃん!巨乳好き大いに結構!その潔さでその子達を見事落とせ!応援するぞ!」


「そうだ!男はそのくらい堂々としてる方がモテるぞ!頑張れよ!兄ちゃん!」


「あっはっはっは!……確かに、くだらなさすぎて、いっそ清々しいわ!頑張んなさい!あたしも応援したげるよ!」


 と、店中の観客が笑いながらも昇の事を暖かく励ましていた。


 そして、その応援に反応するのが関西人の努め。


「おおきにー!皆さん、おおきにー!」


 そう歓声に手を振って応えながら、ドッカと席に座る昇。


「ふ~……どや、これぞ関西人や」


 席に座って落ち着いた後の第一声が、親指を立てた状態のこれである。


「ははは……負けたわ。流石関西人。何処をどう突っ込んで良いのか分からないくらい、ツッコミどころが有り過ぎて、逆に清々しわ」


 そう言って両手を挙げて降参のポーズをする和葉。


 そして、次に自己紹介をするのは楓。


「……これに比べたら、あたしは普通の自己紹介しか出来ないわ……。まあ、しない訳にもいかないから、一応しとくね?……コホン。慶太と昇には言ったけど、あたしは遠藤楓。楓で良いわよ?……あたしのここへ入った動機は、プロのウォーターブレイナーになること。そして、その早道が去年全国脳力者競技会で、一年生でウォータバトリアルを制した生徒会長、白雪姫乃先輩に指導を付けて貰うことだと思って試験を受けた。……そして、今は更に目標が出来たわ」


 そう言って慶太の方を見据え……。


「迷惑じゃ無かったら……なんだけど、慶太くんに色々と勉強を教えて貰いたいの。今日話しただけでも、慶太君とあたしの知識に於いての壁は物凄く高いと実感した。……だから、在学中に慶太君の得意分野っていう大気圧の事だけでも、慶太君と張り合える様に教えて欲しいの。……ダメかな?」


「おお?これは、もしかして告白ですかな?……いや、少し違うか?……弟子入り宣言?……では、最後にその慶太くんに自己紹介を兼ねて、返事を頂きましょうか?」


「和葉、楽しんでる?」


「勿論!こんなに楽しめそうなメンツ、久々じゃない?」


 紅葉の問いに、本当に楽しそうに頷く和葉。


 そして、慶太の返事及び自己紹介の番が来た。


「え……っと、僕は、斎藤慶太。……昇と楓ちゃんには言ったけど……一応脳波学のプログラミングを少しと、大気圧の分野を好きで勉強してる。……だから、それに関連した専用のBSDを持ってる。……今この時も……大気圧をコントロールして……自分の周りの大気を軽くして……この体でも日常生活に支障が無いように……脳のトレーニングを兼ねて……使用してる。これがそのBSD……」


 昇と楓にも説明た内容を説明して、入学式ではあまり見せられなかったリストバンドにしか見えないBSDを見せる。


「……は?これが……BSD?……ちょっと、良いかな?」


 それを見た和葉は、目を見開いて慶太に貸してくれと目で訴える。


「……うん……はい」


 その意に了承した慶太は、予め設定していた取り外しの指紋、網膜、静脈認証を行い、バンドを緩めてから和葉に渡す。


「……ありがと。……これは、端末は何処にあるの?……まさか、この極小の中に、全ての機構を詰めてる訳じゃ無いんでしょう?」


 その和葉の質問は、奇しくもエリカの質問と同じだったが、これまでの流れで結構皆に心を許している慶太は、普通に答えてしまった。


「……うん、マキシムの機構はこっちの……腕に付けてるアームバンド型の端末に入ってる」


 そう言って慶太は己の右上に目線を移して応える。


「……それも、見せてくれたりは……?」


 和葉は恐る恐る尋ねる……が。


「ごめん。こっちは……僕の知り合いの開発者の新製品で……迂闊には見せるなって言われてるから……、本当にごめん。本当はBSDも似たような物なんだけど……こっちはその人にとっては本当に実験的な物だから、言われてないだけ」


 慶太は本当に申し訳なさそうに頭を下げて詫びる。


「あ、いや……別にそこまでして見たい訳じゃ無いから。……こっちの方こそ、無理なお願いしてごめんなさい……」


 和葉も流石にこれには謝った。


「……」


 だが、エリカにしてみれば今回って来た、手首用の極小サイズのBSDだけでも驚異的な技術の粋を凝らしていると判断できる作品だ。


 見れば大気圧の回路式と風圧の回路式を纏めた基盤の回路を中心に、それぞれ邪魔に成らない程度に干渉出来て、それぞれ最大限に脳力を使える様に組み上げている。


 更にこれにプログラミングで大幅な容量的な縮小が可能ならば、プロのプログラマー数人分の技術をその機械一つで熟してしまえる程のBSD機構を作り上げていた。


 そして、これ自体は知り合いの新作だと言った慶太の意見だが、機構が優れているだけなら驚異では無いが、実際に誤作動を起こして居ない事を考えると、プログラミングを完璧な制度で行わなければならない分、慶太自身のプログラミング能力も、底が知れないという事になる。


 ますます慶太が欲しくなるエリカだった。


「まあ、斎藤君の技術か、お知り合いの技術かは兎も角、斎藤君がそういう技術者と知り合いっていうのは事実な訳で……エリカ?こういう時こそ、交渉してみたら?」


「それよりそれより……、双葉様はさっきの告白の返事が気になるよ~。どうですか?斎藤先生。楓殿を弟子にする気はありやがりますか?」


 和葉の意見より、自分の好奇心を優先するらしい双葉は、返して貰ったBSDを付け直している慶太に手マイクを持っていき、インタビュワーの如く質問する。


「……え……っと……」


「……(ゴクリ)」

(……って、えええ!!?なんで皆して聞き耳立ててんの?これじゃ、慶太君が答えるに答えらんないじゃん!……今日は答えを聞くのは無理だな……)


 ヤケに己の唾を飲み込む音が大きく聞こえると思ったら、周りも何故か慶太の反応を待っている。


 それを見た楓は、つくづく人の色恋に関心のある学園都市住民だと嘆息したのであった。


 しかし、楓の予想を裏切り(勿論、いい意味で)、慶太は渋々ながら楓の質問に答えた。


「……学園に居る間だけなら……それから、二人だけの時なら……良いです……。丁度……入学して少しの間は、図書館に篭る予定だったか「ホント!?分かった!図書館行く時は言って?!あたしもなるべく時間作るから!」……分かった……」

(……まあ、ハッキングのシステムを設置するだけなら、一週間もあれば出来るだろうから、問題ないかな?)


 返事をした後、慶太はのほほんと考えていたが、彼の周囲ではとんでもない身振り手振りの会話が繰り広げられていた。


(やったな、楓。言質は取ったし、後は押せ押せダゼ!)


(やったな、楓。序でにワイも時間が作れたら邪魔者排除に協力するさかい、頑張りや!)


((教えて貰った知識は、我々にもご教授願います(わ)!!))


 分かるとは思うが、順に双葉、昇、和葉&エリカだ。


 慶太の思いとは裏腹に、もう既に市販の物とは隔絶した機構のBSDを見せた時点で慶太の知識の異常性をこのメンバーは薄々感じ取っていた。


 その上での連携プレイである。


「……っていうか、楓ちゃんは……図書館の利用時間帯はどうなってるの?僕は取りあえず……自宅にいる間以外の……殆どを利用できる様にしてるんだけど……」


「ああ、そこは大丈夫。あたしはお姉ちゃんのお陰で、大学在住者の家族特典があるの。なんでも、大学に家族が在学中の場合、同じ学園都市内に限り、研究施設及び蔵書関係の施設は出入りの時間帯は登録不要なんだって。だいぶ以前の説明だから違う部分もあるかもだけど、大学に進んでいる位の学生の家族が、自分達の学園の秘匿事項を外部に漏らす様な愚かな行為はしないでしょ?……って説明だった。だから以前にもこの学園の図書館を利用した経験があるし、図書館の主って言われてる年齢不詳・性別不明の超絶美形な管理人も何度か見てるよ?」


 あの人は格好良かったな~……と、天井を仰ぎ見て物思いに耽る楓。


 そんな楓の様子に、周りは苦笑しつつも、穏やかに時間は流れ、今度は2組の和葉の自己紹介の番が来た。


「……では、順番的に3組の私ね。私はヒイラギ和葉カズハ。和葉で良いわ。私と、後から自分で説明すると思うけど、このそっくり姉妹は異母姉妹。因みに何の私らとエリカは全員都内の御剣グループ所有の億ションに4人で暮らしてるから、暇があれば遊びに来たら良いわ。……ね?エリカ?」


 柊和葉がそう言ってエリカに話を投げた所で、和葉の自己紹介は終わった。


 まあ、この店の料理を格安価格で食べれた事で(実は注文時に端末でお会計は支払い済み。今の時代、小銭やらを持ち歩くのは端末を待たない(持てない程生活が苦しい)最下層の貧困層位のものだ)その実力はどちらか(頭脳か身体能力)は分からないが、新入生の中でも上位に位置するのは分かるから、あまり言うと自慢話になるから丁度良いと思ったのだろう。


 「え、……ええ……。それは構いませんわ。折角出来た友人です。色々と切磋琢磨しあえるかもしれませんし、良い刺激にもなりますしね」


 エリカも投げられた話を上手く受けきって、話を終えた。


 そして次は4組の双子の双葉に紅葉。


 双子は運良く同じクラスだ。


「では、双葉様が内気な紅葉の分まで自己紹介してやろう。ってか、そんなに紹介の必要性は無いか?クラスが4組ってことだけだし?この双葉様と紅葉は和葉と同じ家の姉妹として育ったし、今でも実の三姉妹として育ってるしな?因みに双葉様の方が妹様だぞ。どうだ、可愛いだろ?」


 そう言って少しシナを作った後、付け足すように。


「……あ、それと。一応双葉様の得意分野としては大気の摩擦を利用した静電気をBSDを使うことによる増幅効果での一時的な高速移動だな。そんで、紅葉は水分を利用して薄い膜を作っての防御ってとこだ。……こんなとこか?序でにいやぁ~和葉は万能型だ。まあ、万能って言っても器用貧乏ってやつだけどな?」


「それは言わないで良いわ!」


「おっと、危ない」


 突っ込んだ和葉の上から拳骨を、双葉は見もせずに首を傾けて避ける。


「甘い!」


 と、違う方の拳で和葉は横からも拳骨を放つ。


 すると当然ゴツンと頭が横に飛び、隣に居た紅葉の方に頭を埋める結果となる。


「きゃ!」


 そして、案の定受け止めきれなかった紅葉と一緒になってその場に倒れこむ。


 幸い紅葉の方は倒れた直後にスカートを抑えた(そのお陰で受身が取れなかったのだが)のでパンツは見えなかったが、突っ伏した双葉の方の純白の下着はバッチリと大丈夫かと心配して覗き込んだ男性陣に見えた。


「……お~、見事な迄のエロハプニングやな~。和葉、狙ってやったんか?」


「んな訳無いでしょ!」


 思いもかけないエロハプニングに、昇も苦笑気味。


「……大丈夫?……」


 慶太は唯々心配げだ。


「……O……K……だぜ……旦那……。後は……頼む……ガクッ」


 わざとらしく気を失う振りをするが、パンツが見えたままでは些か格好が悪かった。


 そこへ和葉が追い打ちを掛ける。


「自業自得よ。……まあ、これに懲りたら余計な事は言わないことね。……って事で、自己紹介も終わった事で、今度はどこ行こっか?」


「そうですわね~……ああ、少し斉藤さんの回路の目利きが気になるので、学園の外ではありますが、私達の行きつけのBSD回路専門販売店に行きましょうか?勿論、ウチの系列のお店なので部品の格安発注も出来ますし、もし注文するなら専門家の説明を受けられる様にも出来ますし」


「こらー!無視すんなーー!双葉様はご立腹だぞーー!!」


 立ち上がって直ぐに、さっきのフリは何だったのかというほどの暴れっぷりに、双子の姉の紅葉も……。


「……双葉、うるさい。少し黙る」


「あ~ん、紅葉まで~?……双葉様ガックリ……」


「……まあ、元気な様子で何よりやけど、観客もまた聞き耳立て始めたし、エリカの言う店屋に行ってみよか?遅くなっても楓はワイと慶太が、4人は団体で帰れば安全「……!」やろうし……な?」


 昇の「団体で帰れば安全」の一言でエリカの表情が明らかに変わった。


「……そう……ですわね。……幸い斎藤さんは兎も角、霧島さんは襲われてもただで襲われそうにありませんもの……」


 そして、何か単独では間違いなく襲われるかの口ぶりだ。


「……?どういう事や?」


「……え?……い、いえ……」


 昇の言葉に口篭るエリカ。


「ん?何かあるの?エリカ」


 そして、楓も不安げにエリカを見る。


「ああ、最近優秀な脳力者や、金持ちの子息令嬢が何者かに攫われて、何時の間にか解放されているという奇怪な事件が相次いでいると、知り合いの警察に注意されているの」


 中々話さないエリカの代わりに、楓にそう言ったのは和葉。


 それに頷きがなら……。


「……そうです。幸い私達は常に4人で行動しているので、未だ襲われていませんが、安心は出来ない……というのがその警官の忠告ですの」


 と、忠告めいた事を言う。


「ほ~?なら、尚更暗くろう成らん内に適当に回るか?慶太は帰りにワイ「あ、僕は大丈夫。だから楓ちゃんを送ったら……昇はそのまま帰れば良いよ。……友人相手にこう言ったら悪いけど……あまり家の場所を知られたく無いんだ……ごめん」……ほ~か?なら無理にとは言わんけど。……気い付けや?」


 慶太の言葉をあまり気にする様子もなく、「まあ、家の事情とかならしゃーないな」と、呟いて納得する昇。


「「「「……」」」」


 だが、昇以外の女性陣全ては、慶太の言葉に物凄く興味深そうに反応した。


 しかし昇の言うように家の事情や仕事で、裏社会の人間を相手にする様な特殊な家の子供も少数派が、居るには居るのだ。


 しかも、慶太の見せた常識外れの機構のBSDは、そういう輩を近づけるのに格好の餌だ。


 なので、興味は尽き無いながらも敢えて詮索をするのを諦める一同。


「……では、話も纏まった事ですし、暗く成らない内に行きましょうか?」


「「「さんせ~」」」


 そうして一行は店を出た。


 

ストックが尽きたので、今書いてる別のお話の目処が付くまで停止します。

っていうか、書き溜めて投稿しないで放った状態で放置してました。

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