お気に入りのタオル
孤児院は、長方形の積木を横にして置いただけの形で、何の面白みも工夫もない建物だった。
その建物の中を突っ切って外に出ると、中庭がある。その中庭も何の変哲もない、ただ所々雑草が生えた砂地の広場があるだけ。遊具も無ければ砂場や池があるわけでもない。これまた何の面白みもこだわりもない中庭だった。
本の読み聞かせをしたり勉強を教えるエマ・ジョンソンも、冗談一つ口にしない真面目な性格で、ほとんど笑わない。決められたことを無駄なこと一つせずにこなす。それが彼女の生き甲斐だった。前髪はいつも眉の上で切り揃えられ、肩につかない程度のボブヘアーは、それ以上短くも長くもなったところを見たことがない。いつも同じ。
それに加えて毎日同じことの繰り返し。朝食を食べたら掃除をして、それから自習や本の時間をこなしたら昼食。それが済んだら広場で遊ぶ時間で、その後は本を読む時間や物を作る時間もあって、最後にお風呂に入って夕食を食べたら就寝。いつもやることは同じで、少しだけ中身が違うだけ。
だから子供たちは、とにかく「変哲」に飢えていた。少しでも変わった話や遊び、そういったことに飛びつくのが早くて、それでいて大好きだった。しかしそれは、時には残酷だった。
そしてその餌食になったのは、リゼ・ブラウンという小さな男の子だった。
リゼ・ブラウン。彼が物語の主人公だ。彼は同い年の子からすれば背は小さく、金髪のさらさらとしたオカッパ頭は余計幼く見える。幼く見えるだけで至って普通の彼は、一つだけ特別なものを持っていた。それはお気に入りのタオルだ。いつもそれを肌身離さず持っていて、寝るときにはそれを抱きしめて眠る。
もちろん他の子供たちだって「お気に入り」の一つや二つはあった。例えばハートに見える石だとか、小さな日記帳。ビーズでできたブレスレットやウサギのぬいぐるみ。しかしみんなと違うのは、「いつも肌身離さず」持っていること。まさしくそれだった。それは他の子供たちの求めている「変哲」であって、格好の餌食だった。
いじめっこのボス、ダニエル・クック。彼の日課は、数人の部下を連れて中庭にいることだった。中庭の隅の木陰にたまって、いつもニヤニヤしながら周りの子供たちを眺めている。ニヤニヤすれば怖く見える。そう思っているらしかった。実際、体格はこの院の中で一番大きかったし、たぶん喧嘩も一番強かった。上にも横にも大きくて、悪く言えば太っちょだった。
いつだったか誰かが、「丸いどんぐりみたい」そう言ったことがあった。そしたら次の日見かけた時には、目の周りに大きな青あざがついていた。ダニエルは自分の背格好のことを言われるのが嫌だった。コンプレックスというものらしい。
とにかく、リゼはそのダニエルからタオルを馬鹿にされること。それが日課だった。
その日、リゼは中庭で、しまった! そう思った。ダニエルというハイエナ集団がいつもそこにいるのは分かっていた。いつもは見つからないよう細心の注意を払うが、今日は違った。エマに話しかけられ、そのまま連れ立つように中庭に出たのはいいが、話の終わったエマはそのまま去っていく。中庭の真ん中にぽつんと取り残される。その姿を見つめる集団。エマの姿が見えなくなると、これ見よがしにすっ飛んでくる。