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第六話 勇者契約

~side 彰人・アルネイル城内パーティー会場~


相変わらず会場内はガヤガヤとしていたが、この城の主の立場であるユキがステージに立った瞬間波が引いていくように静けさが包んだ。

ユキの隣の席にはルルやユノ、頭に帽子のような物を被った国の重鎮であろう人々が座っていて、それを挟むように騎士のような格好をして手にランスを構えた人が立っていた。


"それでは、勇者契約の儀を執り行います"


周りが完全に静まるのとほぼ同時に、タイミングを図っていたかのように司会者(始まりからマイクを持っていたから多分そうだ)がそれを告げる。

彰人は予めユキ達から伝えられていた手順通りに立ち上がり、ステージの上へと上がった。

階段を十段ほど上がり、ユキと向かい合うように立つ。

生まれてから十数年表彰すら受けたことのない彰人は、表情をひきつらせながらも震える膝に鞭を打ってせめて後ろには格好がつくようにと耐えるので精一杯だった。

ユキが心配そうに小声で話しかけてきてくれるが、頭が真っ白になってしまっていて「大丈夫」としか答えられない。

幸いなのは緊張が極限を超えたからか既に棒立ちで、身体の震えが酷くなかったことだろう。

時間よ早く過ぎろ──そんなことさえ思い始める勇者だった。


~side ユキ~


「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」


後ろから見上げる人々には分からないであろうが、ユキからは彰人の青ざめた表情が丸わかりである。

ただ、不思議なことに顔から下は通常と変わらないように見えるので、表情だけが本当のアキトさんを表しているのかななどと自分でもよく分からない事を考えていた。

アキトさん──如月彰人は本当に不思議な人だ。

まだ出会って間もないが、彰人の人柄──特に性格のようなものは何となく掴めてきていた。

人見知りで、注目を集めるのが嫌で、よくある引きこもりタイプそのまま・・・かと思えば、困っている人は絶対に放っておけない優しくて過度なお人好しの一面もある。

いきなり異世界に召喚され、しかもこれからすることやその後のことなど全てを一度にされたら自分だったら堪らない。

しかし、「困ってるんだよね?」の一言で全てを了承してしまうのだ、彼は。

ルルなんかは二重三重に用意していた策を使う事がなく、肩透かしをくらったような表情をしていた。

これをお人好しと呼ばずして何というのだろう。


「・・・・」


いや、優しい人なのは出会う前から知っていた。

静まり返った会場で、ユキは彰人をじっと見つめる。

実の所、ユキは彰人のやっていたゲーム内で勇者のスカウト活動もしていた。

他の家臣からは危ないからと何度も止めるよう言われていたのだが、こればかりは譲れなかったのだ。

だって、勇者と契約するということは──。


「アキトさん、大丈夫ですか?」


少しでも緊張を和らげてあげようと囁き声で声をかけると、彼は首を何度も縦に振った。

どう見ても大丈夫そうには見えなかったが、本人が大丈夫と言い張るなら信じよう。


「すぐ、終わりますからね」


一度目を閉じて再び開いた彼女の目には、決意の色があった。


"では、アルネイル王国王女ユキ=アマレット=アルネイル姫様、勇者アキト・キサラギ様を心より愛し、共に生涯を添い遂げることを誓いますか?"


司会役の少女が文章を読み上げると、その言葉はゆっくりと宙に浮いていき、そのままユキの胸元に移動していった。

勇者契約の大前提である『結婚』。

その意志を確認する問いに、ユキは空く間もなく答える。


「誓います」


その言葉を言い終えると同時に、彼女の身体の中へと文字列が溶け込んでいった。



~side 彰人~


"心より愛し──添い遂げる──"

『誓います』


さっきの司会とユキのやり取り──それは、彰人の知る限り現実世界(あっち)での結婚式のものだ。

少なくとも、出会ったばかりの男女がこんな公式の場で遊び半分でするものではない。


"──さまっ!アキト様!"

「!?」


マイクを通さない小声で名前を呼ばれ我に帰ると、彰人の目の前には先程のユキと同様文字列が浮かんでいた。


"誓いますか?"


司会の少女は仕切り直しといった様子で再び彰人に問いかけた。

これも先程話に出て、尚且つ自らの答えを既に言ったというのにどこまで呆けているんだと溜め息を吐きたくなる。


「ち、誓います」


慌てて用意していた言葉を告げる。

若干上擦った声になったが、文字は問題なく身体に融けていった。


実際には、ユキと結婚することになると伝えられてはいたのだが・・・やはり、大勢の人(人に見えないやつもいるが)の前に出たことで気が動転していたのだろう。

もちろんユキのような美少女が妻になってくれるのは嬉しいし、それに一夫多妻と聞くこの世界で結婚というのは今回ほど大きな意味を持たないのかもしれない。

ただ、自分が勇者でいいのだろうかという疑問があったし、何より一生ものだ。

即決出来るものではなかったのかもしれない。


席の方を見ると、ルルとユノは座ったままほぅ、と息をついていた。

きっと、先程と二人の答え方が反対だったせいだろう。

彰人は反対する理由などなくすんなりと答えたのだが、ユキが「最後に少し考える時間がほしい」と答えなかったのだ。

彰人にユキの心は読めないが、やはりどの世界でも『結婚』というものはそれほどの意味を持つのだろう。

特に先程二人が契約として交わしたのは魂を縛る言霊だ。

どちらかが死ぬか、お互いが合意の上で再び同じ儀式を執り行うまでソレが消えることはない。

勇者契約は、ただの結婚とはその重要度が違った。


「アキトさん──」

「ユキ──」


そして最後、契約執行のサインが──唇を軽く触れ合わせるキスによって押される。

これによって契約は正常なものと認められ、その効果を発揮しはじめた。


「わっ!?」

「きゃっ!!」


突如広がった白い閃光に、二人の驚きの声が重なった。

彰人は胸から、ユキは左手の甲から──不思議な白い紋章が眩いている。

それらはそれぞれネックレスと指輪に姿を代え、やがてその光は収まっていった。


「契約完了・・・です、アキトさん」

「うん・・・これからよろしく、ユキ」


はにかみを交えた微笑みを交わす王女姫と生まれたての勇者の姿に、会場が大いに沸いた。



今回でようやくプロローグが終わったかな?といった感じです。


次回からまた話がガラッと変わったり変わらなかったりするので、お時間があればお付き合い頂けるとうれしいです!


感想なんかもいただけたら嬉しいなぁ・・・なんて思ったりします(笑)



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