第三話 邂逅
~side 彰人・アルネイル王国祭壇~
しばらくゆったりとした下降が続いた後、彰人は祭壇のような場所に降り立った。
「なんだ・・・ここ・・・」
辺りを見回してみると、あまり手入れがされていないのかそこらじゅうに雑草が生えている。
石段のようなものが三ヶ所に伸びていて、その内の一つは途中で崩れているのが見えた。
「これって・・・」
そう、どこかで見たことのある景色だった。
彰人は覚束ない記憶を頼りに、近くに建っている石板に触れた。
その瞬間──
「勇者さま!!ようこそいらっしゃいました!」
「うわっ!?」
何かが──というより誰かが背後から飛び付いてきて、彰人は前のめりに倒れた。
「あつつ・・・」
「姫さまっ!!いきなり飛び付くのは危ないのですよ!」
「あっ、ご、ごめんなさい!」
呻いている背後で先程とは違う声がして、その後すぐに重みが消える。
どうやら女の子が二人程のようだ。
「あの、大丈夫・・・ですか?」
「え?ああ、うん」
実際には驚きでこけただけの所もあったので、なんとも気恥ずかしい。
とはいえ、いつまでも醜態を晒すわけにはいかないので身体を起こした。
少女達の方を向くと桜色の長髪の少女はオロオロとしており(たぶんこの娘が飛び付いてきた方だ)、茶髪のツインテール少女が苦笑を浮かべている。片や可愛らしいドレスで片や白衣であるため、混乱が極まってここはどこのコスプレ喫茶だ?といった考えが脳裏をよぎる。
「ここはアルネイル王国なのですよ、勇者さま」
「・・・アルネイル?」
「はい、勇者さまの住んでいる地球で言ったところの異世界なのです」
ツインテ少女が彰人の疑問を読んだかのように答えた。
ここがコスプレ喫茶どころか地球ですらなかったことに唖然としつつも、どこか納得のいく答えではあった。
目の前を飛ぶ豚のような何かやドレスの少女がつれている犬のような不思議な物体は、どう考えても地球上には存在しないものだ。
「えっと・・・ここは?」
何かのドッキリかとカメラを探すが、そんなものは見当たらない。くどいように同じ質問が口から繰り返された。
「ここは、アルネイル王国の私の領地です。ユキ=アマレット=アルネイル、と申します」
「私はルル=ビスカッタ=エティレなのです!よろしくお願いしますです、勇者さま!!」
やはり、少女達が嘘をついているようには思えない。
アルネイル?と首を傾げるも、そもそも異世界の地理なんて分かるわけがなかった。
どうやらここは異世界の国の一つで、ユキ、ルルと名乗った少女たちはそこを治める領主であるようだ。
とりあえずはそんなものだろう。
「僕は如月彰人。よろしく、ユキ、ルル」
そして、先程からルルが言う"勇者さま"というのが恐らく自分のことだろう、と混乱しながらも彰人の頭は状況を整理していく。
突然異世界に放り込まれたにしてはやけに落ち着いていたが、それもこれもよくプレイするゲームのお陰かもしれない。
「はい!勇者さま、まずは国内の案内・・・の予定だったのですが、少し困ったことがありましてですね・・・」
「困ったこと?」
「はい・・・内乱です」
ユキが憂いのある表情で続けた。
話によると、ここアルネイルは他の国に比べて随分最近に成立したらしく権力争いが絶えないらしい。
その中で目を付けられたのが勇者召喚の儀で、各勢力はこぞって異世界から条件を満たす者を召喚していった。
召喚に失敗した勢力は力を失っていき、逆に成功した勢力はそれらを呑み込んでいった。
そして今、彰人はアルネイル家の勇者としてここに召喚され、主人であるユキと彼女の幼馴染みであるルルが迎えに来ている──なるほど、分かりやすい。
「でも、何で僕なんですか?こう言ってはなんですが、ニートですよ?」
「・・・にーと?」
自分で言ってて悲しくなってきたが、学校にロクに通わず、かといって働くこともしない彰人は誰がどう言おうとニートそのものだ。
幸いユキは言葉の意味を知らないらしく可愛く首を傾げていたが、ルルには通じたのか若干の苦笑を織り混ぜた微笑みを返してきた。
「でも、そのような人の方が逆に都合が良かったのですよ」
「そうなの?」
「はい、勇者さまもやっていたと思うのですが・・・コレなのです」
「あっ・・・それは!」
ルルがあるものを取り出すと、彰人の中で燻っていた歯車がカチリと噛み合った。
どこかで見たことのある景色。
どこかで聞いたことのある声。
そして、先程の無意識の行動──
「ここって、始まりの石室・・・なのか?」
「はいっ、そうなのですっ!」
彰人のお気に入りゲームのスタート地点──その名を告げると、ルルはパアッと表情を輝かせた。
そう、自室であのメールが届くまでPCで起動させっぱなしにしていたあのゲーム。
アレのスタート地点と驚くほどに似ていた──いや、そのものと言ってもいいくらいだ。
「とりあえず、私達のお城へ案内しますね。パーティーの準備もバッチリですよ♪」
「詳しい話はまた後で、です!」
彰人の世界では中学生にもならないだろう幼い少女達に手を取られ、真ん中の道を歩いていく。
途中で何度か小型モンスターに遭遇したが、ルルの風魔法で片っ端から飛ばされていた。
「僕、必要なくない?」
そう思わせる程の破壊力があった。
ただ、ルルは首を横に振りながら溜め息を吐いている。
「あのゲームと一緒なのですよ、勇者さま。素手より魔法、魔法より剣、なのです」
「ああ、なるほどな」
確かにそうだった。
あのゲームでは全員がオリジナルの剣(時には刀)を与えられ、魔法は後付けで覚えていく仕様になっていたはずだ。つまり、この世界では剣技が一番重要視されているのだろう。
「私達には剣の使い手があまりいないので・・・」
「その分、魔法は研究が進んでいるんですけどね」
ユキとルルは仲良く彰人を引っ張っていく。
彰人も抵抗はせず、案内されるままに歩いた。
森を抜け、城下町で一休みを入れて再び歩く。
そして、一行は巨大な城の門前にたどり着いたのだった。
誤字脱字なんかがありましたらごめんなさい!
そういった指摘やアイデアの提案、感想なんかも頂けると嬉しいです。




