第一話 始まり
~side 彰人・自室~
自分以外に物音をたてるのはPCとゲームのBGMだけな部屋。夜だというのに電気はついておらず、チカチカと点滅する光がプラネタリウムのごとく壁を照らしていた。そう、そこが僕の居場所である。
ベッドに寝転がり、お気に入りのゲームをプレイしながら思い出したように寝返りをうつ。喉が乾いたので何か飲もうと辺りを手探りで探すが、ペットボトルは一向に見つかる気配がない。仕方なく、溜め息を吐いて身体を起こすことにした。
「あっ、痛──」
既に何時間もベッドに横たわっているものだから、背中が痛くて堪らない。首や肩も凝り固まってしまっているようだ。どう身体を動かしても物凄い音が鳴った。
窓の外では雨が地面を叩き、閉め切ったカーテン越しにもその音はうるさく聞こえてくる。
「はぁ・・・・」
憂鬱なことこの上ない。思わず再び溜め息がこぼれた。
雨は嫌いだ。本は湿気るし、外に出れば傘に関係なく濡れるし、かといって雨合羽を着ると暑いし蒸れる。
ほら、いいことなしだ。
「はぁ・・・・」
もう一度ため息を吐く。これで何度目かなどもう数える気にもならなかった。
先程から携帯がやかましく鳴っているが、そんなことは僕にとってどうでもいいことである。
いつものように食事が用意されたのであろう。つまりは、マストメールならぬマスト通話といったところか。
「食べないと・・・死ぬもんな」
適当に自分を正当化する言葉を呟きつつもそもそとベッドから這い出て、部屋の鍵を開けた。
如月彰人16歳、 引きこもりやってます。
如月家はそこそこの一般家庭で、裕福でもなければ貧しいわけでもない。
実際僕のような引きこもりが悠々とPCを使っていたりするのだから、平均よりやや良いといったところか。
「それにしても──」
ちらっとPCのディスプレイを眺めると、そこにはあるゲームのホームタウンが映し出されていた。
最近流行りの体感型VRMMO──視界が3Dグラフィックで実際に物を持った感覚が楽しめる、リアルを徹底的に追求したとあるゲームであるが、僕はほぼ毎日1日中ログインしてプレイしているためか、他のプレイヤー達より異常にレベルが高い。
しかし、それはある意味当然のことであった。このゲームの主なプレイヤー層は若い学生たちで、彼らは昼間、もしくは夜間に学校やバイトがある。構造上、携帯ゲーム機のように気軽に持ち運び出来るものでもないし、何より視覚と触覚がそのゲームの中にあるため動けないのだ。
そんなこともあって、このゲームは大人気ではあるが高レベル層は廃人クラスのやりこみをしている者達だけであるのだ。
「ん?」
扉を開けてすぐの廊下に置いてあったカップ麺(おそらく妹が用意した)をすすっていると、PCの画面がメールが入ったことを知らせるものに変わった。
「おかしいな・・・アドレス変えてからは出会い系にもいってないはずなんだけど」
今のPCのメールアドレスを知っているのはゲーム会社(アカウント作成時に入力するため)くらいなはずで、家族も携帯の方しか知らないはずだ。
新作のお知らせか、もしくは間違いメールか・・・一応確認するだけしてみよう。そんな軽い気持ちで開いてみると、発信者は不明となっており、用件には不思議な文字が並んでいた。
「な、なんだ?」
本文を見てみると、そこに表示されているのは呪文のような文字の羅列だった。文字化けなんてレベルじゃない。中には、文字でさえないものまであった。
「お、おいおい・・・」
これはヤバイと一度は消しそうになったが、最後の一行に並んだ文章に気付いた途端手が止まった。
"ワタシたちヲ、たすケテくダさい"
私達を、助けてください──そう、必死に打たれた言外の意志が伝わってきて、偶然じゃないのか?などといった疑いが消えていく。
「──どうする?」
おそらく、この添付ファイルを開けば自分の中で何かが変わってしまう。そんな予感がした。ただ、ネット社会に生き、性格上そういった類のことに対して警戒心が人一倍強い僕だからこそ、この助けを求める声は本物だと思ったのかもしれない。
「ま・・・なるようになるか」
エンターキーを叩くと、目の前に巨大な結界が現れた。
できるだけ早く更新していけたらいいなと思います。
よろしくお願いします。