告白
僕の入学初日はそれだけじゃ終わらなかった。
「一緒に帰りましょ。桜くん」
百瀬由が、帰り際に僕の席の前にやってきて、そんなことを口走るからだ。
クラス中が静まり返り、全員の視線が僕に集まるのが分かった。飯塚に至っては、顎が外れんばかりの顔で僕のことを見ていた。
クラス中の人に見送られ、廊下にいる人たちに振り返られながら、僕らはやっと自転車の駐輪場についた。
由は昔からパンドラだと騒がれて視線に慣れていたのかもしれないけど、僕は全く慣れていなかったから、顔を真っ赤にして俯きながら歩いていた。
「……どうしたの?」
僕の態度がおかしいことに気づいた由が、怪訝な顔でこちらを振り返った。
「いや、だって、皆が僕たちのこと見てるし……」
「そんなの気にしなければいいわ。さ、帰りましょ」
そう言うと、許可もしていないのに僕の自転車の荷台に座り、鞄を籠の中に入れた。
僕は仕方ないので、リュックをお腹の方に来るように掛けなおして、自転車の鍵を外した。
「ねぇ。私のこと、何か聞いた?」
商店街の坂道を下っている時に、背中向きに荷台に座っていた由が僕に聞いてきた。
「何でそんなこと聞くの?」
「質問は質問で返さない」
思い当たる事があり、正直に返事ができない僕に、由は容赦なく突っ込んだ。
「やっぱり、聞いちゃったんでしょ?」
振り返っても、背中しかみえないため、表情は分からないが、その口調には少し残念そうな色が窺えた。
「……うん」
少し考えて、僕は正直に答えた。
「……そっか」
その声は、悲しそうで、注意深く耳を傾けていなかったら、きっと風にかき消されていたと思う。
「ねぇ、桜くん。私のこと、どう思う?」
「え? ど、どうって?」
商店街を抜け、桜のせいでピンク色に染まった山々に囲まれた畦道に出た頃、由が突然僕にそんなことを聞いた。
「好きか、嫌いか。どっち?」
「そ、そんなこと言われたって、まだ会ったばっかりだし、僕にはわかんないよ……」
「そう」
思いっきり戸惑う僕に、あっけなく一言で返す由。
「あ、ここでいいわ」
畦道の途中、川に突き当たって道が二本に分かれる所で、由が急に自転車から飛び降りた。
「うわっ!」
僕は急にバランスを崩されて、そのまま自転車ごとガードレールに突っ込みそうになったけど、懸命にブレーキを握り締めてこらえた。
「じゃ、桜くん。また明日」
笑顔で手を上げて、由は僕の家と逆方向を向いた。
「あ、そうそう」
けど、すぐに思い出したようにまたこちらを振り向いた。
「私は、あなたのこと好きだから。ちゃんと覚えておいて」
そう言って走り出した由と、それをポカンと見送る僕。
僕にとって、最初の異性からの告白。
こんなにあっけなくて良かったのかな? って今でも疑問に思う。