飯塚
「おい、お前。市川……だっけ?」
初めて由と話してから、すぐに僕には二人目の友達が出来ることになる。
「市村だよ」
最初は、苗字を間違えてきたこの馴れ馴れしい男に少しイラっとした。
「あぁ。わりぃ。んで市村さ、お前、百瀬由と知り合い?」
「百瀬?」
「今の女の子だよ。お前仲良さそうに喋ってたじゃねぇかよ」
「あの人、そんな名前なんだ」
「……なんだよ。まさかお前、百瀬由の事、何も知らないとか言うんじゃねぇだろうな」
この男に常識知らずと言われているようで、なんだか頭にきた。
「ま、その様子じゃ知り合いじゃないみたいだな」
「そんなに凄い人なの? 彼女」
「当たり前だ! あの人はな、未来視、完全記憶を持ってる特別な人だぞ」
その一言に僕は本当に驚いた。
「え……。それって」
「そう、パンドラだよ」
「そ、そうだよね……」
パンドラ……未来を見ることができて、自分の持っている記憶を100%覚えていられる特別な人間。
これを持っている人を、その時僕は初めて見た。
本で読んだことや、テレビで見たことはあるけれども、実際のパンドラに同級生として会えるなんて、思いもしなかったから。
「とにかく、あの人を知らないとか言ったら馬鹿にされんぞ」
「ありがとう。えーっと……」
「飯塚。飯塚晃だ」
「ありがとう、飯塚くん」
「おう。んでもってよろしくな、市村」
少年のような笑顔で手を差し出す飯塚に、僕も手を出して握手をした。
今思うと、飯塚と最初の会話が由の事だったなんて、なんだかおかしい。
でも、その会話のお陰で、飯塚とはそのまま親友になれたから、由には感謝しないといけない。