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雪の日  作者: ぷりてぃ
12/17

初雪

――昨日、町に初雪が降った。


「ここまで積もると、自転車に乗っては帰れないね」


初雪は深夜から降り続く結構な大雪で、僕の足首くらいまで積もった。僕は、このまま商店街の坂が平らにならないかな。と馬鹿みたいなことを考えながら、自転車を降りた。


「そうだね」


寒さのせいか、いつもより大人しい由が息を吹きかけて自分の手を温めていた。


いつも通りの二人の帰り道も、一面が真っ白に染まると、いつもとは違って新鮮だった。


僕が寒そうにしている由の手を取ると、由は一瞬驚いたような顔をしてから、すぐに表情を和らげて「ありがと」と一言漏らした。


歩く度に鳴るサクサクという音と、空に上っていく白い息。あとは、お互いの手の温もり。


それだけを感じながら、僕達は長い帰り道を歩いた。


「私ね。やっぱりあの景色のが好きだな」


商店街の坂の真ん中で、由が空を見上げながら言った。


「あの景色って?」


「君の自転車の後ろから見える景色」


「別に、同じ道なんだし変わらないよ」


「違うんだな、これが」


そう言うと、由が急に手を放して自転車の荷台に飛び乗った。


僕は自転車が倒れないように咄嗟に両手でハンドルを支えるけど、グラリと揺れて危なかった。


「視点が少しだけ低くなるの」


「それだけ?」

急にここまでして、言う言葉がそれか。そう思って、僕は呆れながら言葉を返した。


「違うわ。この坂道では風だって感じられるし、田んぼのあたりにくると、地面がどれだけゴツゴツしてるかが体に直接伝わってくるの」


すごく楽しそうな顔で言う由の顔は、相変わらず空を見ていた。


「それに、君に背を向けて乗ると、背中から君を感じられるし、君に向かって乗ると、目の前に君の背中があるもの」


いつの間にか、商店街の坂道が終わっていて、白い服を着た山々が、僕らを遠くから見下ろしていた。


「そんな景色を教えてくれたのは、君だもの。本当に感謝してるわ」


「なんだよ、急にそんな事言って」


由が、空を見るのをやめて、僕の目を見つめてきた。


「私ね、もう未来が見えないの」


それは、突然の告白だった。


「どういうこと?」


僕は、本当に意味が分からなくて、頭が混乱していた。


「そのままの意味よ。何か見えるかなって時も、映像が頭の中に出てこないの。真っ暗なまんま」


由は笑いながら言っていたけど、その顔を保ちながら言える由は、誰よりも強い人だ。今になって僕はそう思う。


「見えないって事は……」


「そう。私には未来が無いの」


サクっと雪を踏みしめる足音を一つ残して、僕の足が止まった。


「冗談、だよね?」


「私、洒落にならない冗談は言わないでしょ?」


笑顔で言う由に、どうか冗談であって欲しいと心の中で懇願する僕。


「質問を、質問で返さないでよ……」


「ごめんね……」


その言葉は、何を指していたんだろう。


質問を質問で返した事への謝罪なのか、大事な事を黙っていた事に対する謝罪なのか。


「許さない」


どちらにしろ、僕は許す気は無かった。


「……そっか」


残念そうに言うその顔は、こっちまで悲しくなるくらい寂しげで、今にも泣き出しそうな感じすらした。


「許すわけ無いじゃないか。あれだけ人の事を好きだ好きだって騒いでおいて、そんなすぐにさよならなんて、絶対に嫌だ」


僕の熱の篭る言葉に、由は俯いたままでいた。


「責任、取ってよ。僕もここまで君の事、好きになっちゃったんだからさ。隣にいてよ、自転車に勝手に乗って、鞄を籠に突っ込んでよ。いつもみたいに」


「……ごめんね」


由が悪いわけじゃない。そう分かっていても、僕の暴走は止められなかった。


「謝るくらいなら、ずっと傍にいてよ!」


らしくも無い叫びが、遠い空に木霊して、慣れもしないことをした僕の息は荒くなり、白い息が口から塊になって何度も漏れ出した。


「……ごめん」


一言叫んでようやく冷静になれた僕は、俯きながら由に謝った。


「……今日はさ、私の家に来ない?」


由は、それに答えるでもなくそう返した。


僕は、ただ白い息を吐いて、頷いた。

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