第1話 転生
72歳で子供と孫達に囲まれながら大往生。
走馬灯のように、今までの人生が脳裏をよぎる。
次の瞬間、俺は暗闇で泣き叫んでいた。
目をこらしても、何も見えない。
ただ、温かいぬくもりが俺を包んでいた――
*
神童だと呼ばれていたのは、20歳まで。
今の俺は、ごく普通の神聖魔法使い。
俺は、エリック・ヴィー・ルーシル。
レーナス国某貴族の第2子だ。
前世では出来なかった事を現実として遺したいと願っている。
前世の俺はクズだった。
婚期を逃しそうになって焦っている女を捕まえて、散々貢がせた。
肩書きと金をチラつかせて、浮気も堪能した。
多分、俺は寂しかったんだ。
唯一の嫁は頭が弱かった。阿呆だった。
「好きだ愛してる」と囁けば、いくらでも貢いでくれた。
俺の事を大好きだと言って、身を粉にして働いて死んだ。
俺は嫁が死んで男泣きに泣いた。
多分、俺の前世を見た他人は羨ましいと思うだろう。
女達は俺をクズだと罵るだろう。
だが、死ぬまで俺は本当に寂しかった。
何故なのだろう。
*
転生先の世界は日本に比べると過酷だ。
魔族というものがあちらこちらの国に出て、村や街を荒らし全滅させる。
レーナス国は、特別な国だった。
神聖魔法使いという特別な魔法使いがいる。
そして、神聖魔法使いだけが魔族とかろうじて対峙出来る。
男ならここが踏ん張り処だ。
俺は十代でそう思った。
「レーナスの貴族には魔法使いとしての義務があります」
淡い鳶色の髪の美しい母の鳶色の瞳が俺を見つめる。
「国を支え、民を守るのです」
女神のように美しく毅然とした母の言葉が俺の心を震わせた。