蛇足
そう言えば、と私はふと疑問を思い出して尋ねた。
「どうしてここにいることがわかったの?」
「えっ」
劉生は私を見下ろして、素っ頓狂な声を上げた。
「どうしてって……えっと……愛?」
やけに歯切れが悪い。
「言いにくいことでもあるの?」
「えーっと」
「あたしが説明させていただきます」
ほとんど雑草みたいな植木の影からハルちゃんが現れた。言葉にすると単純だが、事実として目にするとなるとわけが違う。髪の毛に葉っぱをからませながら、まったく自然に会話に入ってくるハルちゃんに対して、私はしばらく声が出なかった。
呆気にとられる私たちは気にせず、ハルちゃんは話し出した。
「日ごろからお姉さんをつけまわす劉生さんは、あの女に気付かないわけがありません。それで心配になって、劉生さんはお姉さんをストーカー……もとい、身辺を無断警備していたのです。最近は講義もさぼりがちでしたね」
「ちょ」
私と劉生、同時に声が出た。考えていることはたぶん同じだ。なんでハルちゃんがそんなことを知っている。
答えはもちろん、ハルちゃんだからである。彼女は規格外の生物だ。人間というよりも、ストーカーに服を着せて歩いたようなものなのだ。
「今日も警備に精を出していた劉生さん。お姉さんが人気のないところへ行ったので、ちょっと距離を取って背後を守っていたんです。そこへあの女が、お姉さんに話しかけたんです」
「そこから見てたの!?」
私が腕を掴まれたところから? ……でも、割って入ってきたのはしばらくしてからだったような。
うろんな瞳で劉生を見上げる。劉生の顔は蒼白だった。
「劉生さんは物陰で様子を見ながら、しばらくやり取りを見守って、カッターが出てきたところで走り出しました。そこから先は知ってのとおりです」
つまり。
「タイミング計ってたのかよ!」
「いや、だって、仲良く話しているなら悪いし、えーっと」
お前にはあの光景が仲良しに見えるのか!
私は頭を抱えてうなだれた。ヒーロー登場のタイミングには理由あり。
劉生に感謝した私が馬鹿みたいだ。