恐怖の栗投げマン
ここはとある平和な公園、数組の母親と子ども達が楽しそうに遊んでいる。
公園のまんなかには大きな栗の木があった。
すっかり茶色くなった枝葉の中に光る不気味な目が2つ。
突然、子どもの叫び声が上がった。
「いたいようー!」
驚いた母親が近寄ると、子どもの額からは血が流れている。
「一体、何グゥアッ!」
駆け寄った母親が地に伏せる。
土の上に転がるイガにつつまれた栗2つ。
「ファハッハッハッハァ!」
辺りに轟く笑いにその場にいた母と子ら、道を行く人、近所の家の人が辺りを見回した。
「誰だ!」
誰とも無しに叫ぶ。
その瞬間、ざざざざざあ、例の大きな栗の木の上に1つの人影が立ち上がった。
赤と青と黄色の服を着た男がそこにはいた。
「貴様らには栗をやろう!欲しい奴には1つやる!要らない奴には2つやる!」
言ったが早いか、彼は実に的確にイガ栗を投げ始めた。
「ホイ、栗やるぞホイ、栗ホホイ、やるぞホイ。」
子ども達は完全な恐慌状態に陥った。
「うわー!」
「きゃー!」
「ひやーっ!」
「たすけてぇー!」
ヒステリーを起こした母親が「なんなんですか、あなたは!警察を呼びますよ!」と男に向かって叫んだ。
「おーっ!欲しいか?栗をやろおーっ!」と男が叫ぶ。
ヒステリーの女の眉間にイガ栗が叩き込まれた。
それを見た母親達は慌てて自分の子どもを小脇に抱えて公園を逃げ出した。
自分の子どもにも置いていかれたヒステリーの女は突っ伏して一人で何か叫んでいる。
ここで公園に1人のオジサンが入ってきた。
車の止め方がなんだの、ごみの捨て方がなんだのと近隣の住民に言いたがる正義感の強いオジサンである。
「オイ、あんたそんなふうに子どもを苛めたりして楽しいのか!?なぁ!?どうしてそんなことをするんだ!?エェ?ちょっと降りてきなさい!」といつもの調子で言った。
「えあーっ、テンテケトコトン、えあーっ!」と男が返事をした。
オジサンは「なんだと!?おまえは○○ガ○なのかぁっ!?」と激昂して、栗の木に近づいた。
その瞬間、オジサンの禿頭にイガ栗が次々とさく、さく、さく、さくと小気味良い音を立てて命中した。
すると、オジサンはあまりの痛さに半狂乱になってそこら中、走り回った。
それを観ていた近隣のみんなは手を叩いて喜んだ。
歓声止まぬうちにキキーと音を立てて公園の前にパトカーが止まった。
警官が3人出てくる。
「こらぁ、そこの人!木から降りてきなさァい!」とうち一人が叫んだ。
叫んだと同時に額を押さえてしゃがみこんだ。
「先輩!あいつ武器を持ってますよ!撃ちましょう!」と立っているうちの若い方の警官が言った。
「イカン、イガ栗相手に発砲したとなっては、私が上司に怒られる。」
そこに1人の老人が現れた。
「あれはのぉ・・・栗の木の精じゃ・・・みんながのぉ・・・栗を拾うばかりでぇ・・・栗の木に何もしてあげないからぁ・・・怒って出てきてのじゃぁ・・・。」
それを聞いた人々は口々に言った。
「そうだったのか・・・。」
「確かに拾われるばっかりじゃ、腹も立つよな・・・。」
「パパァ、栗の木さんかわいそう・・・。」
神妙な面持ちをした警官が栗の木の精に向かって「皆さん、よぉく分かったようですので、今日はどうか・・・。」と言った。
栗の木の精は「うむ。」と言って、木から降り、夕暮れの町を1人去っていった。
高校の文学部で「栗」をお題にして各部員が書いたときの僕の作品です。