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輪転。  作者: ス喜一


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揺らぐ

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tags:

- 106号室

- 幸せ

status: 経過観察

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# 揺らぐ

朝日が眩しい。

隣には寝息を立てる君。


声を掛けても、起きる気配は全く無い。


身体を揺する。

機嫌悪く起きる君。


「おはよう」と確かめる僕。

腹を抱えながら照れ臭そうに笑う君。


ぐちゃぐちゃのその髪型さえ愛おしい。


二人仲良く並んで歯磨き。

小さい洗面台の取り合い。


互いに歯ブラシを口元に突っ込んで語らう。


何喋ってんだか全く分からない。



だけど、伝わる。



賞味期限切れ間近のお勤め品コーナーに置いてあったノーブランドの食パンを、好みのジャムを塗って一口、二口。


視線が合う。


互いに確かめるように顔を見て、微笑み合う。


まるで何もなかったかのように。


いつも通りのありきたりな日常。

些細な幸せ。


二人だけの幸せ。



――目を閉じる。



腹を抱えて嗤う君に、僕は気付いた。


僕だけが視えていなかった。

君の事を。キミの気持ちを。


彼女の輪郭が揺らぐ。

羽音が空間を満たす。


涙を流す君。

ゆっくりと動く口元。


聞こえないけど、伝わる。


眼前に迫る爪先。


彼女はそれを、ゆっくりと深く沈めた。



――朝日が眩しい。



何も見えない。

痛みは無い。


感触と、音だけが僕に残された。


頑張ったね、えらいね。


君のいつもの口癖を、機嫌の良さそうな声で繰り返すキミ。


確かめるように目元に手をやる。


深く刻まれた傷。

窪んだ穴が、二つ。


瞼を開ける。

キミと僕だけが視える。


キミを通して。


『おはよう』


幾重にも重なるキミの声。

幾重にも連なる君の姿。


蠢く羽根が僕を呼ぶ。

キミと君。


伸びた爪先には、僕の肉片が付いている。


まるで何もなかったかのように、

互いに確かめるように、

腹を抱えて微笑み合う。


愛おしそうに視線を外すキミ。

視界が揺らぐ。


照れ臭そうに僕の疵を撫でる。


そのキミから視える僕の後ろ。


背後に羽音が聴こえる。


『頑張ったね、えらいね』


互いに確かめるように手を重ねて、カーテンを閉じた。

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