「僕に相応しくない」と婚約解消を告げられたので
「婚約を解消しよう」
わたくしたちの婚約披露をするはずの夜、殿下から告げられたのは、真逆の言葉でした。
ざわりと周囲の様子が揺らぎ、わたくしへと視線が集まります。
「……理由をお聞きしても?」
それくらいは、最後に許されるでしょうと、わたくしが問うと、殿下は苦しげな表情をして、答えてくださいました。
「君は……僕には相応しくないんだ。だから……」
相応しくない、とはどういうことでしょうか。
わたくしは手を頬に当て、首を傾げて、殿下の言葉の続きを待ちます。
「だから、君を、僕から解放する……僕は王太子を降りて、第二王子を王太子へと推薦し、支える役目をするんだ。そんな僕に、王太子妃教育を優秀たと褒められるくらいの君は『相応しくなくない』んだ……すまない、第二王子と婚約を結びなおし、支えてやってはくれないか」
ざわざわと、先ほどの比ではないざわめきが会場中に広がります。
王太子と、王太子妃の婚約解消だけだなく、王太子─第一王子が自ら、その席を第二王子に譲る、そして王太子妃を第二王子と婚約を結ぶように──。
ばさり。
手にしていた扇を広げ、わたくしは言いました。
「そのようなことでしたか」
「そのようなことではない……優秀な君を、優秀な第二王子と婚約させ、二人でこの国を盛り立ててくれることを、きっと国民も求めているんだ……だから僕は……」
「それでしたら、何も問題はございません。わたくし、第二王子殿下とは、婚約を結ぶことはできませんの。だって、あの方は─」
「それは無理な話だよ、兄上」
わたくしが説明しようとするところに、第二王子殿下が登場されました。そして、その隣には。
「僕は、隣国の王女と婚約が決まったからね。お互い学園を卒業したら、この国から離れることも、陛下にも了承を得ているよ」
そう言うと、隣に立つ隣国の王女と視線を交わし、仲睦まじい様子を見せてくれました。
わたくしは学園内で、隣国の王女と交流がありますので、このことを存じておりましたが、最近お忙しい第一王子殿下はご存知なかったのですね。
「そ……そんな……では、この国は……」
混乱する殿下に、わたくしは近づき、その御手を取り、淑女の微笑みを絶やすことなく、大事なお話を伝えます。
「わたくし、殿下のためだから、今日まで頑張ったのですよ?他の方のために、なんて言われましても、やる気がおきませんの。ですから、殿下以外の方のために王太子妃になることはありませんわ」
「……!」
触れた肌の温度、そして御顔が、殿下の御心を表すかのようですが、わたくしが求めるものは、それでは物足りないのです。
「わたくしのこと、まだ不要と仰られますか?わたくしには、殿下しか必要ではないのですよ?」
こてん、と首を傾げて、殿下の瞳を見つめます。
隣国の王女様直伝『男性にお願いごとをするときの仕草』は、殿下にも効果的でしょうか?
「ぼ……僕だって、君がいいんた!君しか必要じゃないんだ!でも……君は、こんな情けない僕で……本当にいいのか?」
あらあら、まだ、頑固ですね。
では、次は。
「ええ、わたくし、本当に、殿下がよいのです。殿下としか婚約したくないのです」
触れたままの殿下の御手を、そっと持ち上げ、わたくしの頬に触れさせながら、そうお返事しましたら、殿下が、さらに赤くなってしまわれました。
「……!」
「婚約解消は、なかったことでよろしいですね?」
ぶんぶんと、首を縦に振り続ける殿下の姿に、わたくしも、にこりと微笑みを返します。
第二王子殿下と、隣国の王女から、拍手が届き、それは、波のように周囲へと広がり、会場全体が揺れるほど響き渡りました。
わたくしは、赤くなっている殿下の隣に立ち、婚約解消の解消がなされたことに安堵したのです。
そして、わたくしたちも、第二王子殿下、そして隣国の王女も学園を卒業した数年後、それぞれの国で王と王妃となり、長く交流し栄えた国を支え合ったのでした。




