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枯れたベゴニアの花  作者: 豚足
第一章 異世界
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第三話 緑猿

 そいつは俺達の50メートル足らず先を四顧しながら別方向に向かおうとしていた。


「おい、あれ」


 俺がそう言うと皆そいつを見た。


「ゴブ…リン?」


 中嶋が小さく困惑した声で言う。

 その姿の異様さに皆警戒し、一気に空気が張り詰め、皆その場に固まった。


「そんなわけ…ないやろ?」


 そう言う渡辺の顔はすでに青ざめていた。


 そいつの足音がさらに俺達の恐怖を助長し、皆の警戒心が高まる。


「逃げる?」


 真っ先に思いつた言葉が喉を衝いて出た。


「いや、あいつコッチに気づいてなくない?」


 櫻井は冷静だ。


「と言うか対話の余地はないん?」


 中嶋が放言する。

 緊張と恐怖からか、意見が飛び交う。


「あの見た目で話通じるわけないやろが」


 強い口調で呆れたように櫻井が言い返す。


「じゃあさ、試しに……」


 突然、森の奥から獣じみた叫びが響き渡った。

 その咆哮は中嶋を黙らせた。


 声の方に目線をやると、猫背で少し前屈みのその異形と目が合った。

 俺は逃げないと駄目だと、本能で感じた。


「ちょ、ちょちょ。走れ!走れ!」


 なんとか声を捻り出したと同時に、その状況は皆を問答無用で走らせた。


「こっち来い!」


 櫻井はそう叫び、先頭を率先して森の中を駆けてゆく。

 そして俺達はその背中だけを見て、必死に跡を追う。

 後ろなんて見なかったし、他の皆がついて来ているかもそっちのけで、ひたすら転けないよう気をつけながら、不安定な地面を死に物狂いで走った。

 

 しばらくして、朝日が枯れた声で皆に声をかけた。


「ストップ!ちょっと待って!しんどい」


 その声を蔑ろにするわけにも行かず、皆止まった。

 皆息を上げて、しんどそうにしつつも警戒は怠っていなかった。

 この時初めて後ろを見たが、ゴブリンはついてきてはいなかった。


「はぁ、はぁ、もうついてきてない?」


 朝日が息を切らしながら尋ねる。


「……うん。逃げ切れたってことでいいんかな?」


 啓介が膝に手を置いて顔の汗を拭く。


「どうじゃろうな…けどついてきとる雰囲気はないな」


 しんどそうにしながら中嶋が言う。


「全員おるな?」


 櫻井が通る声で確認をとる。


「うっす」「はい」「っす」「おっす」「おるで〜」


「ならとりあえず、歩こうや。周りに警戒してな」


 櫻井につられて皆も歩き出す。



「どっからツッコめばええんや…コレ」


 俺がそう言う。


「よな、マジ話したいことが多すぎる」


 櫻井が同調する。


「とりあえず状況をまとめよう。ね!」


 渡辺が仕切る。


「え〜と?、じゃけぇ、まず俺らは事故にあって死んだ?まぁ、よくわからんけど。んーで森に知らず知らずのうちに居って、それでコブリン?っぽいのがおったって感じ」


 朝日が自分で言っておきながら自分の言っていることに戸惑っているように話す。


「なんかよう考えたら終わっとんな、その状況」


 啓介が呆れ笑う。


「いや、それな」


 櫻井がまたも同調する。


「そう言えば、コレどこに向かっとん?」


 中嶋が問いかける。


「言われてみれば…行く宛ないな…」


 櫻井がなにか気づいたように言った。


「気分落とすようで悪いけど、どこかも分からんし、変なんおるしって、コレ結構ヤバめの遭難やんな…」


 中嶋がしかめっ面になる。


「どうするよ…ガチで」


 俺は込み上げる不安を押し倒してそう言った。


「……」


 誰も話さなかったが、それでも小さいこの歩みは止めなかった。

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