彼も彼女も着替えたら・29
ロリコンや性風俗店、および性交についての話題が出てきます。
苦手な方は読まないでください。
ここを飛ばしても、なんということはありません。
たぶん。
「諸卿ご存知の通り、小生幼女モノや百合が大好物でしてな」
「最近は百合の方が多いようだがな、新垣氏」
語り始めた新垣に、築山が相槌を打つ。
「左様。実は実家で両親にコレクションの数々を摘発されましてな」
「なんと!?」
「それは!」
「聞くも恐ろしい!!」
口々に怯える仲間たちを、まあまあと両手で新垣は諫める。
「これはあくまで二次元の話で、実際のところは未来を背負うちびっこたちになんぞこれっぽっちも性的な興味はありませんぞといくら真摯に説明しても親は泣くばかりでして」
渋い顔で額を押さえる新垣に同情しつつも4人も眉を下げる。
「まあ、たとえご両親としても、一般人にはオタクの脳回路などわからないでござろうからね……」
「不安になるのが当たり前かもしれませぬなあ……」
「結局、ほとんどのコレクションを焼却処分させられまして」
「それは……!」
「新垣氏……!」
「なんと……!」
「言葉のかけようも……!」
真っ青になる4人に新垣は手をかざす。
「お気に召されるな……。これも年老いた両親を安心させるためと、小生も断腸の思いで決断したこと。今さら何かを蒸し返すつもりはないのでござるが……」
「が?」
訝しむ4人に新垣は眉を寄せ、目を伏せたまま額を押さえた。
「両親が従兄にそのことを相談したもので、従兄が無駄に張り切りましてな……」
「張り切る……?」
「……風俗店へ連れて行くと……」
一瞬止まった4人は、一斉に間の抜けた声を上げた。
「はあ?」
「普通、いやはやこれを普通というかわかりませぬが、たとえて言うなら普通、事情を知った従兄ができることなど、せいぜいAVを見せるぐらいのものではござらんか……?これを普通というかどうかはさておいといてではござるが」
戸惑いながらも怪訝な顔をする小さなメガネに、あっさりと新垣は答えた。
「あ、小生、AVはいろいろ持っていたので」
「……」
4人はしばらく押し黙る。そしてひそひそと額を寄せ合った。
「これは焼却処分でござるな」
「それはナイな」
「それはダメでござるよな」
「それはもうご両親の決断が正しいとしか」
「待て待て待てーー!誤解でござる!ロリコンものとはいえ、大昔の成人向けアニメのAVであって!それも歴史を紐解くコレクションのひとつとして収集しただけで!決して犯罪に加担したものでは!」
「……」
じっとりと軽蔑のまなざしで見てくる4人に、バツの悪い顔でコホンとひとつ咳払いをして新垣は強く続けた。
「とにかく!従兄に風俗店に連れて行かれ!ちょっと童顔のかわいい嬢にサービスを受けたのでござるが!」
急に新垣は平常心になった。
「射精はできなかったのでござるよ」
4人は一瞬あっけにとられたが、すぐに胡乱気な顔になった。
「やはりロリコンものでないと……」
「実は小生、AVを観てもエロ本を読んでも、射精をしたことがないのでござるよ」
天気の話でもするよう平然と言う新垣に、4人は今度こそ本当に呆然とした。そして本気で驚いた。
「ええええーー!?人生で一度も!?」
「いやいや。夢精はしたことあるでござるよ」
「どんな夢で!?今度こそロリコン!?百合!?」
「いや。高いところから落ちる夢とか、足を踏み外す夢とか、ブラックホールに吸い込まれる夢とか」
「に、新垣氏……」
「それは一度……」
心療内科にかかった方が、と誰かが言おうとしたとき、新垣は神妙な顔で続けた。
「それでその嬢に相談したのでござるよ……」
「そこに相談したのでござるか……」
「まあ。プロではあるし?」
「プロ、でござるのかな?」
納得しようとしながら首を捻る4人に構わず、新垣は眉を寄せて回顧した。
「まあ、小生も男ゆえ?マッサージしていただければそれなりの反応はするものの、射精まで行かないのでござるよ。そんなこんなであれよあれよという間に時間が来て、嬢があまりにも申し訳なさそうに「お力になれませんで……」と肩を落とされるので、小生としても申し訳なく……。正直に今までの人生一度も射精したことが無い旨を申し上げると、実に親身に相談に乗ってくれましてな」
「……新垣氏。それは延長になったのでは……?」
「無論」
「……新垣氏。それは営業でござるよ」
「納得の延長でござる。悔いはござらん」
「ならば、まあ……」
きっぱりと言い切る新垣に4人は心配の矛を収める。
「お店だからとか、初めてだからとか、射精できない客というのは珍しいものでもないらしく。ただ、将来的に子供が欲しいのであれば今まで一度も射精できなかったというのは心配だからと、あの手この手で嬢もいろいろ試してくれたのではあるが……」
「だめだったと……?」
「左様。嬢もいよいよ病院を勧めてくれたのだが、小生、子供どころか結婚も恋人も視野には入れておらぬし、まあ、別に不自由はないかと」
「ちょっと待ってくれ新垣氏。それはその日1日の話なのか、何回も通っての話なのか……」
新垣は行きつけの定食屋を教えるように言った。
「月に2回通っておりますが」
「現在形」
小さなメガネの目は座っているが、小暮は実にすがすがしく微笑む。
「いや~、たとえ射精せずとも、嬢と雑談などしながら施していただくマッサージは至福のひとときで」
サイコーですぞ!などと親指を立てて見せる小暮を、なんとも言えない顔で4人は見ていたが、まんじりともしないように築山が呟いた。
「まあ、たしかに……。小生も現実の女性を前に事前準備なく臨戦態勢を整えられるかと問われれば、それはちょっと……」
「そもそもそのような戦場に赴くなど、これまでの人生において想定外でござったからね……。あ、でも小暮氏はアイドルがお好きゆえ」
「バカを言うな!!」
目を血走らせた小暮は唾を飛ばしながら怒鳴った。
「彼女たちは希望だ!光だ!妖精だ!そんな、ティッシュで丸めて捨てられるような青臭い欲望の芥場などではない!」
叫びながら床に突っ伏して小暮は号泣した。
「及川氏は、大丈夫でござるか?彼女と一戦交える覚悟はできておられるのか?」
「いや、まあ、たぶん、大丈夫……」
真摯に顔を覗き込んでくる新垣に言葉尻が細りつつも一輝は答える。美奈子に対して反応はしたし、一応いやらしいサイトを見てそれなりに知識は叩き込んだつもりだ。本番で上手くいくとは限らないが。
「女性を満足させられないと、がっかりされて、それこそすぐにフラれてしまいますぞ」
「満足?」
思ってもいなかった単語が出て来て一輝は思わず繰り返した。
「それはそうでござるよ。男ばかりが気持ち良くなって射精して終わりでは、女性は性交に対して拒否感しか持ちえないと嬢が言ってましたぞ」
たしかに、一輝とて自分ばかりが満足する性交を望んでいたわけではない。もちろん美奈子にも納得してもらおうと時間をかけて恋人になったつもりではあったし、いざ房事となったらば真摯に事を運ぶつもりではあったのだが。……満足?
一輝は顎に手をあて深い思考の海へ沈む。果たして『満足』とは?
たしかに、『性交』とは気持ちが良いものだと思っていた。しかし、その『性交』が気持ち良いのは、あくまでお互いの心が通い合い、気持ちを寄せ合い、阿吽の呼吸でなされるものだから気持ち良いのだと思っていた。
……阿吽の呼吸って……?
房事の阿吽とは一体……?
美奈子は知らんが、何もかも初心者の一輝がいきなり房事の阿吽って……?
みるみる思考の深海に沈み、眉間の皺を深くしていく一輝に、4人は気遣うように声を掛けた。
「及川氏……?とりあえず購入したての薄い本で勉強してみるでござるか……?」




