餌付けしました
「…そろそろ飽きてきたな…」
いくら俺が作業厨だからといって一週間も薪割りは普通に飽きてきた。
それに、料理がまずくてモチベーションが最悪だ!
焦げ過ぎ、硬すぎ、味もイマイチ、もう最悪だ!
マジで、何でコイツラはこれを毎日食えるんだ?!
もしかして、この世界の食事はこれが基本なのか?!
それとも、先住民だからうまいものを知らないのか?!
どちらにしても俺はもう限界だ!
「ご主人様、お願いがございます。」
ご主人様と呼ぶのも、一週間も有れば慣れてきた。
演技だと思えばそのうち嫌悪感もなくなってスラスラと言えるようになる。
そう、あくまで俺は役者のようにセリフを喋っているだけ。
音読だ、音読。
「何だ、アラン。」
「自分の分の飯は自分で料理させてください!」
「は?何故だ。」
「自分が作った飯のほうがうまいからです!」
「ふ~ん。まぁ良いだろう。母…族長に確認してくる。」
なんか凄く『お前がやっても何も変わらんかもっと酷いものが出来そう』みたいな目で見られた気がするが気のせいだろう。
それに、一週間も奴隷のように働いたからな多少の融通は効いてもらえると予想する。
こいつからの信用度は他のやつより高い、可能性は十分ある。
暫くして、帰ってきた。
「見張りをつけるなら良いとおっしゃった。」
「ありがたき幸せ。」
その日の夜、俺はアンに首の紐を掴まれながら一人料理を作っていた。
フフフ…よく見ろ先住民。これが地球人が考えた素晴らしい川魚の焼き方だ!
さらに、俺はキャンプの時に習ったからこんなのはお手の物だ!
魚をよく洗い、串打ちをして、塩で下味をつける。
そして、背中から焼き、じっくりと焼く。
そしたらお腹の方も少し焼いて完成だ!
素人がやってるから本来よりは不味いだろう。
しかし、この世界で初めて食べる、塩を使ったまともな飯!
「うへへ…これだよ…」
なんか、マジで泣きそうになってきた。
そういえばいつの間にか観客が増えてきてんな。
…ご主人。怖いよ。そのガンギマッタ瞳をこちらに向けないでくれ。
別に俺は飯テロをしたいわけじゃないんだ。
確かに2本焼いたよ?
けどね、両方俺へのご褒美なんだよ。
「…アラン?」
「…なんですかご主人様。」
「まだ主人への貢物をもらったことごないのだが…どうなっているんだ?」
「はて、そんな制度は存じ上げませんな。」
こいつ…魚欲しさに新しいルールを作りやがったぞ…。
「あのままだと、もしかしたら死刑になっていたかもしれないな〜
今の命があるのは誰のおかげかな~」
…そんなに欲しいなら奪えばいいのに。
…この村ってもしかして結構奴隷の待遇っていいのか?
それに、こいつ結構発言力ありそうだから餌付けするのもなしではないな…
…でも最初すっげえムカつくやつだったしな…
けどな…あいつの言ってることも一理あるしな…
「ハァ…。仕方ありませんね。一匹だけですよ。」
「おっ!そ、そうか!」
そのまま一匹を奪うように取られ、がっつき始めた。
俺もそのまま一口。
「…ッ…」
おっと…なぜか涙が…
きっと、俺もどこか不安だったんだろうな。
こんな質素な飯がここまで美味く感じたのは初めてだった。
感動なんてもんじゃ表せない。
でも、それ以上を語る言葉を俺は知らない。
だから伝えられない。
けど、食べただけで涙が出る。
そのくらい美味かったんだ。
この日以来、俺の毎日の仕事の中に料理が含まれそうになったが、なんとか2日に一回で我慢してもらった。
そして、2人で魚を食べる時間で、何気に話をするようになって、少しづつ、少しづつだが、俺たちの関係は縮まっていった。
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