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弓の軌跡  作者: マイト
7/16

綾音の家へ

「ただいまー」


 綾音が玄関のドアを開け、俺もその後ろについて家の中に入る。


 「お邪魔しまーす」


 「ん?」


 奥から足音が聞こえ、綾音の母親がリビングから顔を出した。


 「おかえり、綾音……って、あら?」


 俺の姿を見つけると、綾音の母親はニヤリと口角を上げた。


 「もしかして……彼氏〜?」


 「ちょっ、違うから!」


 綾音が慌てて否定する。


 「えー、本当かしら?」


 母親はニヤニヤしながら俺を見てくる。


 「え、えっと……ただの部活仲間です」


 俺もなんとなく気恥ずかしくなって、そう答えると、綾音の母親は「ふーん」と意味深に頷いた。


 「まあまあ、冗談よ。ゆっくりしていきなさい」


 そう言って笑うと、綾音の母親はキッチンへと向かう。


 「はぁ……もう、お母さんったら……」


 綾音はため息をつきながら俺の方を見た。


 「ごめんね、いきなり変なこと言って……」


 「いや、全然平気だけど」


 俺が苦笑いすると、綾音は頬を膨らませた。


 「もう……」


 すると、キッチンから再び母親の声が聞こえてきた。


 「ねえ、せっかくだしお昼ご飯食べていきなよ。ちょうど多めに作るつもりだったし」


 「え?」


 俺は少し驚いて綾音を見る。


 「どうする?」


 綾音が問いかけてくる。


 「……いいんですか?」


 「もちろん! 遠慮しないでね」


 綾音の母親は優しく微笑む。


 「じゃあ、お言葉に甘えて……」


 俺がそう言うと、綾音の母親は「よしよし」と満足そうに頷いた。


 「じゃあ、もう少ししたら呼ぶから、二人は部屋で待ってなさい」


 こうして、俺は思いがけず綾音の家で昼食をご馳走になることになった。


 ——なんだか、いつもより少しだけ特別な休日になりそうだ。


「ここ、私の部屋」


 綾音がドアを開けて俺を招き入れる。


 「お邪魔しまーす……」


 部屋に足を踏み入れた瞬間、ふわっといい香りがした。


 部屋の中は綺麗に整頓されていて、ベッドの上にはふわふわしたクッションが並んでいる。机には勉強道具と可愛らしい小物が置かれ、本棚には小説や雑誌が並んでいた。壁にはお気に入りらしいポスターが貼られていて、全体的に温かみのある雰囲気だ。


 「へぇ……女の子の部屋って感じだな」


 俺が感心して部屋を見渡していると、綾音が顔を赤くしながら俺の肩を軽く叩いた。


 「ちょっ、そんなマジマジと見ないでよ! 恥ずかしい……」


 「いや、普通に綺麗だなって思って」


 「そりゃあ、散らかってたらまずいし……」


 綾音は頬を膨らませながら、ベッドの上にちょこんと座る。


 「ほら、適当に座ってていいよ」


 「お邪魔します」


 俺は部屋の隅にあるクッションを借りて腰を下ろす。


 こうして綾音の部屋で過ごすことになるとは思わなかったが、なんだか新鮮な気持ちだった。


 ——さて、練習までの時間、どう過ごそうか。


綾音の部屋は静かで、窓から差し込む柔らかな光が心地よかった。


 「ふぅ……」


 綾音はベッドの上で胡座をかくように座り、俺はその向かい側の床に置いたクッションに腰を下ろしていた。


 「それにしても、なんか不思議な感じがするな」


 俺は部屋の中を改めて見渡しながら言った。


 「何が?」


 「いや、こうやって女子の部屋にいること自体がさ」


 「……まあ、そういうのってあんまりないよね」


 綾音はそう言いながら、少し考え込むように視線を落とした。


 俺も何気なく彼女の方を見た——その瞬間だった。


 (……あっ)


 綾音のズボンの裾が少しめくれていて、その隙間からちらりと白い布地が見えてしまっていた。


 (やばい、見えた!?)


 慌てて視線を逸らそうとするが、脳裏に一瞬でも映ってしまったものは簡単に消えてくれない。


 「ん? どうしたの?」


 俺が急にそわそわしたせいか、綾音が不思議そうに首を傾げる。


 「い、いや! なんでもない!」


 俺は慌てて手を振り、必死に平静を装った。


 「……なんか怪しい」


 綾音はじっと俺を見つめてくるが、これ以上突っ込まれると困るので、俺は話題を変えることにした。


 「そ、そういえば! 練習って具体的に何するんだ?」


 「え? あ、うん。とりあえず……」


 綾音は話し始めたが、俺はまだドキドキしていた。


 ——危なかった。本当に。

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