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弓の軌跡  作者: マイト
3/16

一緒の歩み

翌朝、玄関を出ると、すでに綾音が家の前に立っていた。


 「おはよう!」


 「おはよう……早いな」


 「ふふ、なんとなく一緒に行けるかなって思って待ってた!」


 そう言ってにこっと笑う綾音。昨日知り合ったばかりだが、もうすっかり馴染んでいる気がする。


 「じゃあ、行くか」


 俺たちは並んで歩き出した。


 「そういえば、クラスどこだった?」


 「1年B組!」


 「……え、マジで?」


 「え? もしかして……」


 「俺も1年B組なんだけど」


 「えぇー!? 本当に!? すごい偶然!」


 驚いた綾音がぱっと顔を輝かせる。弓道部だけじゃなく、クラスまで同じとは思わなかった。


 「昨日の時点で気づいててもよかったな……」


 「ほんとだよ! まぁ、でも今日からは安心して授業受けられるね!」


 そう言いながら、学校に到着する。校門をくぐり、昇降口で靴を履き替えて教室へ向かうと、すでにクラスの何人かが席についていた。


 「本当に同じクラスだね」


 綾音は俺の隣の席に腰を下ろした。どうやら席順まで近いらしい。


 「よかった、知ってる人がいて安心したよ」


 「俺もだよ」


 そんな会話をしているうちに、チャイムが鳴り、授業が始まった。


 ――そして、午前の授業が終わり、昼休み。


 「ねえ!」


 綾音が俺の机の前に立ち、にこにこと微笑む。


 「一緒にお昼ご飯食べよう?」


 「ん? いいけど……どこで?」


 「中庭とかどうかな? 外で食べるの気持ちよさそうだし!」


 「確かに、天気もいいしな」


 「よし、決まり!」


 綾音は嬉しそうに自分の弁当を手に取った。俺もカバンから弁当を取り出し、一緒に教室を出る。


 こうして、弓道部だけでなく、学校生活まで一緒に過ごすことになった。


中庭にはいくつかのベンチが置かれていて、すでに何人かの生徒が思い思いの場所で昼食を取っていた。俺たちは日陰になっているベンチを見つけ、腰を下ろす。


 「外で食べるの、やっぱり気持ちいいね!」


 綾音はそう言いながら弁当の蓋を開けた。中には色とりどりのおかずが詰まっている。


 「お、結構しっかり作ってるんだな」


 「うん! お母さんが作ってくれてるんだけど、私も手伝ってるよ!」


 「すごいな……俺は完全に親任せだ」


 そう言って俺も弁当を開ける。普段通りの内容だが、外で食べるだけで少し新鮮に感じる。


 「ところでさ、昨日の練習どうだった?」


 綾音は箸を動かしながら、俺に問いかける。


 「うーん……思ったより難しいなって思った。弓道ってもっとシンプルな動作だと思ってたけど、姿勢とか歩き方とか、基本がめちゃくちゃ大事なんだなって実感したよ」


 「わかる! 正座の時間、足が痺れちゃって大変だったよ……湊くんは大丈夫だった?」


 「俺もヤバかった。立ち上がるときちょっとふらついたし」


 「ふふっ、同じだね。あと、射法八節? あれ、順番覚えるのも大変じゃなかった?」


 「確かに。でも、あれが弓道の基本なんだろうな。しっかり覚えないと、弓を持たせてもらえないし」


 「うんうん。でも早く弓を引いてみたいなぁ」


 綾音は憧れを込めた表情で遠くを見つめる。


 「先輩たちの射形しゃけい、すごく綺麗だったよね」


 「そうだな。弓道って静かで落ち着いた感じのスポーツだけど、その中にすごい緊張感があるっていうか……見てるだけで引き込まれるよな」


 「うんうん! 私もあんな風に弓を引けるようになりたいなぁ」


 「まずは基本をしっかり身につけるしかないな」


 「そうだね! 一緒に頑張ろう!」


 そう言って、綾音は笑顔を見せた。


 俺も頷き、弁当を口に運ぶ。


 弓道を始めたばかりの俺たちにとって、まだ道のりは長い。でも、こうして話せる仲間がいるのなら、乗り越えていける気がした。


午後の授業が終わり、俺たちは急いで教室を出た。綾音と並んで廊下を歩きながら、弓道場へと向かう。


 「今日こそ、少しは弓に触れるのかな?」


 綾音が期待に満ちた声で言う。


 「どうだろうな。まずは昨日の復習からじゃないか?」


 「うぅ……確かにそうかも。でも、早く弓を引いてみたいなぁ」


 そんな会話を交わしながら道場の前に着くと、すでに扉は開いていた。


 「もう先輩たちが来てるみたいだな」


 俺たちはそっと中を覗き込んだ。


 道場の奥では、上級生たちが静かに弓を構えていた。弦を引く音、矢が放たれるわずかな風切り音、それに続く的に当たる鈍い音。


 俺たちは無言のまま、その光景に見入った。


 一人の先輩が弓を引く。足を肩幅に開き、背筋を伸ばしながら静かに弦を引き絞る。その動作には迷いがなく、一連の流れがまるで一本の線を描くように滑らかだった。


 「……すごい」


 綾音が小さく息を呑む。


 その瞬間、弦が解き放たれ、矢は一直線に飛び、的の中心に吸い込まれた。


 「中った……」


 「当たり前だろ」


 突然、背後から声が聞こえた。驚いて振り向くと、そこには昨日指導してくれた上級生の一人、佐藤先輩が立っていた。


 「先輩、お疲れ様です!」


 「おう。お前たちもそろそろ中に入れよ」


 そう言われ、俺たちは道場の中へと足を踏み入れる。


 「さっきの先輩、すごく綺麗な射形しゃけいでした……」


 綾音が感動したように呟くと、佐藤先輩は小さく頷いた。


 「あれが弓道の理想形の一つだ。無駄のない動きと安定した呼吸、すべてが調和しているからこそ、ああして的の中心を射抜けるんだよ」


 「……いつか、私たちもあんな風になれるんでしょうか?」


 「それはお前たち次第だな。だが、最初からあんな風にできるやつはいない。地道に基本を積み重ねていくしかないさ」


 そう言って、佐藤先輩は俺たちを見渡す。


 「さぁ、今日も基本の練習から始めるぞ」


 「はい!」


 俺たちは道場の空気を肌で感じながら、再び稽古に臨む準備を整えた。

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