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弓の軌跡  作者: マイト
14/16

負けない

朝、家を出ると、綾音がすでに待っていた。


 「おはよう!」


 「おはよう、今日も元気そうだな」


 昨日よりもさらに明るい表情の綾音を見て、少し安心する。


 「昨日はちゃんと早く寝たか?」


 「もちろん! もう無理しないって決めたからね!」


 綾音は胸を張って笑う。その姿を見て、昨日のカフェでの会話がしっかり響いていたことが分かる。


 「ならいいけどな」


 「それより、昨日のカフェ、楽しかったね!」


 昨日の話をしながら、俺たちは学校へと向かった——。



---


教室にて


 教室に入ると、まだ朝のHR前で生徒たちは思い思いに過ごしていた。席について荷物を置いた瞬間、綾音が椅子を引いて俺の隣に座る。


 「昨日のことだけどさ」


 「ん?」


 綾音は少し照れたように笑いながら言った。


 「一緒に食べたチーズケーキ、美味しかったな〜って思い出してたんだ」


 「そうか? 甘いもの派のお前にはちょっと物足りなかったんじゃないか?」


 「ううん! あのちょっと酸味のある感じ、すごくよかったよ! たまにはああいうのもいいかもね」


 綾音は思い出すように頬に手を当てて微笑んだ。


 「それにさ、なんか昨日の帰り道、すごく楽しかったなって」


 「……そうだな」


 俺も昨日のことを思い出しながら頷く。寄り道してカフェに行っただけなのに、妙に印象に残る時間だった。


「また行きたいね」

 

「また甘いもの食べるのか?」

 

「えへへ、それもあるけど、なんか昨日みたいにのんびり話すのもいいなって」


 綾音は恥ずかしそうに笑いながら言う。


 「まあ、また機会があればな」

 

「うん!」


 そんな話をしていると、チャイムが鳴り、HRが始まる時間になった。


 「じゃあ、またあとでね」


 綾音は自分の席に戻り、俺も前を向く。


 昨日のことを振り返りながらも、今日もまた新しい一日が始まる——。


授業が終わり、放課後になると、俺たちは弓道場へと向かった。


 「今日こそは当てたいなぁ……」


 「昨日のカフェでのんびりしてたし、気分転換にはなったんじゃないか?」


 「うん! 気持ちを切り替えて、頑張るよ!」


 そんな会話をしながら道場へ入り、部活の準備を始める。


いつものように準備運動を終えた後、基礎の確認をしてから弓を手に取る。顧問や先輩たちの指導を受けながら、それぞれが矢を放ち始めた。


 俺も綾音も、まだ安定して的に当てることはできないが、少しずつ射る感覚に慣れてきているのが分かる。


 「今日は調子どう?」


 「まだまだだな……けど、昨日よりは手応えがある」


 そう言ってもう一度矢を番え、狙いを定める。弦を引き、息を整え——放つ。


 スッ……パシッ!


 的の端にかろうじて当たる。真ん中ではないが、昨日よりも確実に精度は上がっている。


 「やった、当たった!」


 「すごいね! 少しずつ良くなってる!」


 隣で綾音が笑顔で拍手してくれる。俺も少し誇らしい気持ちになりながら、次の矢を準備した。


次に綾音の番だ。彼女は深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、慎重に弦を引く。これまで何度も挑戦してきたが、まだ的に当たったことはない。


 スッ……ヒュン!


 矢は惜しくも的を外れ、すぐ横の地面に突き刺さる。


 「あ〜、また外しちゃった……」


 苦笑いを浮かべる綾音だったが、その目にはほんのわずかな悔しさが滲んでいた。


 「焦らなくていいよ。もう一回やってみよう」


 「うん……!」


 綾音は気持ちを切り替え、再び矢を番えた。目を閉じ、深く息を吸い込む。今度こそ、と強く願うように。


 弦を引き切り、息を整える。ゆっくりと狙いを定め——放つ。


 スッ……パシィン!


 「……!」


 矢は的の端にかすめるように当たった。決して真ん中ではないが、確かに初めての的中だった。


 「……や、やった……!」


 一瞬、信じられないといった顔をしていた綾音だったが、すぐに喜びが爆発する。


 「やった! やったよ!」


 「すごいじゃん! 初めて当たったな!」


 思わず手を取り合いそうになるが、周りの視線を感じ、俺たちは照れくさそうに距離を取った。


 「この調子で次も頑張ろう!」


 「うん! もっともっと当てられるようにする!」


 そんな風にして、俺たちはまた次の矢を番えるのだった。


練習に集中していると、不意に部長の声が聞こえた。


 「お、なかなか様になってきたじゃない」


 俺も綾音も驚いて振り向くと、そこには弓道部の部長が立っていた。長い黒髪を後ろで一つに結び、凛とした雰囲気を纏う女性――俺たちの部長だ。普段は穏やかで落ち着いた雰囲気を持っているが、弓を構えればその姿はまるで別人のように鋭くなる。


 「ありがとうございます……!」


 「でも、まだまだ当たる確率は低いですけど……」


 俺たちの言葉に、部長は軽く頷いてから言った。


 「それでも、一ヶ月後の新人戦に向けて十分成長してると思うわ。そこでなんだけど……二人とも、新人戦に出てみない?」


 「えっ……!?」


 俺も綾音も驚き、思わず顔を見合わせる。


 「新人戦……ですか?」


 「そう。一年生と弓道経験が一年未満の二年生までが出場できる大会よ。うちの部からも何人か参加する予定だけど、二人もどうかしら?」


 確かに、部活に入ってから少しずつ上達はしているが、まだ試合に出るほどの実力があるとは思えない。俺が迷っていると、隣の綾音も戸惑ったように口を開いた。


 「でも……私、やっと今日初めて的に当てられたくらいで、まだまだです……」


 「試合って言っても、いきなり上位を狙えってわけじゃないわ。ただ、実際に大会に出ることで得られる経験は大きい。もちろん、強制じゃないからじっくり考えてみて」


 部長の言葉は優しかったが、どこか期待しているようにも思えた。


 「……わかりました。考えてみます」


 「俺も……少し考えます」


 部長は微笑み、「期待してるわ」と言って、その場を離れていった。


 新人戦か……。俺は弓を握りながら、自分が大会に出る姿を想像してみた。



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