不意の出来事
月曜日の朝、昨日の楽しさがまだ少し残っている気がした。
玄関を出ると、ちょうど綾音も家から出てきた。
「おはよう!」
「おはよう、今日も一緒に行こっか」
俺たちは並んで歩きながら、週末のことや部活の話をしながら登校した。
「昨日の映画、やっぱり面白かったよね!」
「うん、想像以上に良かった。特に後半の展開とかさ」
そんな風に話しながら歩いていると、気づけば学校に到着していた。
昇降口で靴を履き替え、そのまま教室へ向かう。
「じゃあ、また後でね!」
綾音とはここで一旦別れ、自分の席へ向かった。席に座ると、前の席の男子がクルッと振り向いた。
「おー、お前って綾音ちゃんと仲いいよな?」
「……え?」
突然の話題に、思わず固まる。
「いやさ、毎日一緒に登校してるし、昨日も一緒に遊びに行ってたろ? もしかして付き合ってるのか?」
「ち、違うって! ただのクラスメイトだから」
俺が慌てて否定すると、男子はニヤニヤしながら肘で俺の机を軽く叩いた。
「へぇ〜? でもお前、綾音ちゃんと話してるとき、なんか楽しそうだよな」
「……普通だろ、別に」
「まぁまぁ、そういうことにしとくわ。でもさ、羨ましいぜ。綾音ちゃん、可愛いしさ」
「……」
なんて返せばいいのか分からず、俺は視線を逸らした。
「ま、これからも頑張れよ、クラスメイトくん?」
そう言って、男子はひとりで勝手に満足したような顔をしながら前を向いた。
……なんなんだよ、まったく。
少しモヤモヤしながらも、俺は授業の準備をすることにした。
授業が始まると、昨日の遊び疲れがじわじわと押し寄せてきた。朝はそれほど感じなかったが、黒板の文字を眺めているうちに、まぶたがどんどん重くなっていく。
(やばい、眠い……)
先生の声が遠くなり、意識がゆっくりと沈んでいく。ノートを取ろうとしたペンも、力が抜けて手から滑り落ちそうになった。
──そして、気づけば俺の意識は途切れていた。
***
「……おーい、起きて!」
ふわふわとした意識の中、どこかで聞き慣れた声が聞こえる。
「ほら、授業終わったよ。早く起きないと、先生に注意されるよ?」
肩を優しく揺すられ、俺はゆっくりと目を開けた。
目の前にいたのは──綾音だった。
机に突っ伏したままの俺を覗き込むように、少し心配そうな表情でこちらを見ている。教室の窓から差し込む光が彼女の髪に反射し、ふわりと揺れていた。
(……綺麗だな)
無意識のうちに、彼女の整った顔立ちをじっと見つめてしまう。
長い睫毛、澄んだ瞳、柔らかそうな唇──。
ふと、その瞳が俺と視線を合わせた。
「あ……」
思わずドキッとし、俺は反射的に顔を背けた。
「お、おう……起きるよ」
急いで体を起こし、わざとらしく背伸びをする。心臓の鼓動が早まっているのが自分でも分かる。
「ふふっ、ようやく起きたね」
綾音はくすっと笑いながら、少し安心したような表情を浮かべた。
「寝不足? それとも昨日の疲れ?」
「まあ……どっちも、かな」
俺が苦笑いしながら答えると、綾音は呆れたようにため息をついた。
「もう、ちゃんと寝なきゃダメだよ? 次の授業でも寝てたら、今度は先生に叩き起こされるかもよ?」
「気をつける……」
俺は顔の熱を悟られないようにしながら、そっけなく答えた。
綾音の笑顔を思い出すと、さっきのドキドキがなかなか収まらない。




