敵対者
シンとルナが時の雨の中を歩いていると、彼らの後を付ける不穏な影に気づいた。
「奴ら、また私たちを狙っているみたいね。」
ルナが鋭い目で後ろを振り返る。商人団のメンバーたちは距離を取りつつも、明らかにこちらを監視していた。
「記憶を奪われたら、想影の海への手がかりが失われる。それだけは絶対に避けなきゃ。」
シンはルナの言葉に頷きつつ、心の中で不安を抑え込もうとした。
二人は人気の少ない街の裏通りに入り込む。だが、その瞬間、背後から声が響いた。
「逃げられると思ったか?」
振り返ると、5人の商人団のメンバーが立ち塞がっていた。その中央にいるリーダー格の男が一歩前に出る。
「俺たちは取引の邪魔をするつもりはない。ただ、その記憶の断片を渡してもらうだけでいい。」
冷ややかな声が雨音に混じる。
「断るわ。」
ルナは即答した。その態度に男は眉をひそめる。
「分かってないようだな。お前たちには選択肢がない。渡さなければ、力づくで奪うまでだ。」
男が合図を送ると、他のメンバーがじりじりと二人に近づいてくる。シンの手には汗が滲んでいた。
「シン、準備はいい?」
ルナが小声で問いかける。
「えっ、準備って何を……?」
「全力で逃げることよ。」
ルナは笑いながら、シンの手を引いて走り出した。
商人団がすぐに追いかけてくる。雨で濡れた石畳が滑りやすく、二人は足元に気を付けながら走った。
「そっちだ!」
路地裏を抜けようとしたところで、別の方向から現れた商人団のメンバーが道を塞ぐ。
「挟み撃ち……!」
シンが立ち止まりそうになるが、ルナが強引に彼を引っ張る。
「迷わないで。行くよ!」
ルナは壁を蹴って狭い路地の上へと登り始める。
「ここ、登るの!?」
「そう!彼らに見つからないようにするには高い場所に行くのが一番なんだから!」
シンも慌てて彼女の後を追う。
屋根の上から見ると、商人団のメンバーたちはまだ路地を探し回っていた。二人は息を潜めながらその様子を見下ろす。
「……今のうちに離れるわよ。」
ルナが低い声で言い、再び動き始めた。
二人が街に戻った時、カイルが現れた。彼は厳しい顔をして二人を見た。
「お前たち、何をやっている?」
「時の商人団に追われていました。」
シンが説明すると、カイルは深く息をつき、眉間にしわを寄せた。
「だから言っただろう。想影の海を探すのは危険だと。」
「それでも私は続けるわ。」
ルナが毅然とした声で答える。
「好きにしろ。ただし、シンを巻き込むな。こいつはまだ初心者だ。」
「初心者かもしれない…けど彼には、彼にしか持ちえない力がある。」
ルナとカイルの間に一瞬、険しい空気が流れる。
シンは二人の言い争いを見ながら、自分の中で一つの決意を固めていた。
「俺、続けます。この記憶を守るためにも、想影の海の真実を知るためにも。」
ルナは微笑み、カイルは無言で彼を見つめた。
「…シン、お前すっかりルナに染まってしまったな…まぁいい、今日は家に泊まっていけ、飯も風呂も用意してある。」
カイルの言葉に、シンは小さく頷いた。