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メモリアルリンクス

 ルナと共に「想影の海」を目指す旅が始まった。シンはカイルの反対を押し切り、ルナに協力することを選んだ。目的地は中心街――街の中で時の雨が最も激しく降り、無数の記憶が宿るとされる古びた建物群が広がる場所だ。


 道中、シンはふとルナに尋ねた。

「ルナさん、どうしてそんなに想影の海にこだわるんです?」


 ルナは少し間を置いて答えた。

「私には、呪いがかけられている。」


 そう言って、彼女は左手を見せた。その手には複雑な模様が刻まれており、微かに青白く光っていた。


「時の雨の研究を独自に進める中で、おそらく禁忌に触れてしまったようね。大いなる力を得るためには代償が伴う。この呪いのせいで、私は歳を取らない…というより、年を取るたびに若返ってしまうようになってしまった。」


 驚くシンの表情を横目にルナは淡々と答える。


「その結果、私にはほとんど時間が残されていない。この呪いと引き換えに、私は時の雨を解析する力を得た。けれども大切なものを数え切れないほど失ってきた。でも私、なにも後悔をしていない。呪いを解くことよりも、時の雨、想影の海の真実を知りたいの。それが私の生きる理由。」


 シンはその言葉に圧倒されながらも、彼女の強い決意を感じ取った。


 中心街に到着した頃、雨はさらに激しさを増していた。ルナは歩みを止め、周囲を見渡す。


「ここよ。この場所の記憶は他とは違う。想影の海に繋がる記憶があるはず。十数年前、この場所で私は一度だけ、想影の海の記憶に触れた。でもそれ以来、記憶には辿り着けていない。」


 その言葉にシンは驚きながらも、容器を準備し、輝く雨粒に手を伸ばした。彼の指先が触れた瞬間、視界が一変する――


 ――広大な海が広がっていた。果てしない水平線の向こうに、太陽のように輝く何かが浮かんでいる。海面には無数の文字が揺らめき、波に合わせて踊るように光っていた。


「これが……想影の海……?」


 その記憶に圧倒されるシン。だが、記憶はすぐにかき消され、次に現れたのは荒涼とした砂漠。そして、その砂漠を彷徨い続ける人々の姿だった。彼らの足元には、かつて海だった痕跡が残されている。


 シンはその記憶の断片を収めた容器を閉じた。隣ではルナも記憶を収集していたが、彼女は驚きを隠せない様子だった。


「シン、あなた……本当に信じられない。」


「え?」


「いきなり想影の海の記憶に触れるなんて、普通ではあり得ないことよ。シンが記憶の断片を掴んだ瞬間、私にはわかった。シンの目は普段は深い黒…でも能力が発動すると瞳の中に波紋のような模様が広がり、青白く輝く。……『メモリアルリンクス』のそれだわ。」


「メモリアルリンクス?それって一体……?」


「過去の文献で読んだことがある。この世界の記憶を感じ取り、繋ぐことが出来る特別な力を持つ存在。その力は、時の雨や想影の海と深い繋がりを持っている。でも…その力を神様から祝福と手放しに喜べないことも事実。力の重さに耐えられなければ、あなた自身も身近な人たちも記憶の奔流に飲み込まれるリスクも伴っているのよ。」


「それでも……俺はこの力を使いたい。もっと知りたいし、ルナさんを手伝いたいから。」


「そう……でも覚えておいて、この力は危険と隣り合わせよ。」


 その時、二人の会話を遮るように背後から足音が聞こえた。振り返ると、黒いコートを着た数人の男たちが立っている。彼らは「時の商人団」と呼ばれる、記憶を悪用する組織だった。


「その記憶、渡してもらおうか。」


 リーダー格の男が冷たい声で言い放つ。


「あなたたちね。また邪魔をしに来たの?」

 ルナは険しい表情を浮かべた。


「想影の海の記憶は高値が付くんだ。世界中のコレクターが、その記憶を喉から手が出るほど欲している。お前たちを始末してでも、手に入れる価値があるんだよ。」


 興奮気味に話すリーダーを見つめながら、ルナは冷静に構えを取る。


「シン、逃げなさい!」

 ルナが叫ぶと同時に、彼女は自ら前に立ち、男たちを牽制する。


「でも……!」


「いいから行け!」


 シンは容器を握りしめ、言われるままに走り出した。背後ではルナと商人団の男たちの戦いが始まっている。だが、すぐに別の男が追ってきた。角を曲がったところで腕を掴まれる。


「逃がすかよ!」


 シンは必死に抵抗するが、力では敵わない。窮地に陥った瞬間、再びルナが現れ、男を足払いで倒した。


「何してるのよ!早く!」


「でも、ルナさん……!」


「いいから!」


 シンは彼女の言葉に従い、再び走り出した。やがて追っ手の足音が遠ざかる。


 安全な場所に逃げ延びた二人は、息を整えながら話し始めた。


「……ありがとう、ルナさん。俺、逃げるのが精一杯で……」


「いいのよ。それが新人の仕事なんだから。」

 ルナはそう言って微笑み、肩をすくめた。


「でも、分かったでしょ?想影の海に近付けば近付くほど、危険も増す。命を懸ける覚悟が必要よ。」


 その言葉に、シンは無言で頷く。だが、その瞳には決意の光が宿っていた。


「それでも……俺は続けたい。もっと知りたいから。」


 彼の答えに、ルナは少し驚いた表情を見せた後、微笑んだ。

「なら、もう一歩深く踏み込むわよ。覚悟しなさい。」


 ルナのその笑顔はどこか頼もしく、シンに勇気を与えるものだった。


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