クリスティーネ先生の次回作にご期待ください!
(2024.7.12追記)
たくさん読んでいただけて嬉しかったので、続編を書きました。
シリーズにまとめていますので、よろしければそちらもどうぞ。
一度もお会いしたことのない方と、婚約することになりました。
それ自体はよくある話なので構わないのですが、ご挨拶にと送った手紙にすら返事をいただけませんでした。
その後何度お手紙を送っても、なしのつぶて。
会ったことがないどころか、お手紙のやり取りすらしたことがない。そんな方と結婚することに、少しの不安もないといえば嘘になります。
同じ年頃の友人たちに尋ねても、婚約者の方はお返事をくださっているとのこと。
まだ裕福だったおじいさま時代の伝手で、家格が少々釣り合わない――もちろん我が家が「下」という意味で、です――お家の方ですから、私なんかとはお話されたくないのかもしれませんし、上流の方にはこれが普通なのかもしれませんけれど。
いえいえ、きっと、お忙しいのよ。まだ学生の私と違って、今だって騎士としてお勤めなのですから。
そう自分に言い聞かせて、今日も便箋に向かいます。
お父様とお母様からは、きちんとお手紙を書くようにと言われています。
中身の確認こそされませんが、お手紙の厚みが薄いと「もっと頑張りなさい」と言われてしまいます。
ですが、お返事を下さらない方と、いったい何を話せばいいのやら。
お相手のことが何も分からないのに、自分のことを書くにしたって限界があります。
ああ、こんなとき妖精さんがいたら。そうして、お相手の興味のある話題を教えてくれたなら。
幼い頃から絵本を読むのが大好きで、ちょっと空想癖のある私は、思わずそんなことを考えてしまいました。
ですが、これだけお返事をいただけないということは――きっと、読んですらいらっしゃらないのではないかしら。
よくて文机の肥やし、悪くてくずカゴに直行、という可能性もあるのでは。
そこでふと、思いつきました。
そうだわ。
どうせ読んでいただけていないのなら、中身が何であってもいいはず。
別にお相手に宛てたお手紙である必要はないのです。
私の好きな空想を便箋いっぱいに書き綴ってしまいましょう。嫌々書かれたお手紙よりも、そちらの方が便箋もインクも嬉しいでしょう。
そして封筒の厚みがふっくらしていれば、それでお母様も安心。皆幸せです。
これはとっても、いい考えなのではないかしら。
今まで憂鬱に思えていたまっさらな便箋が、急に広々とした、大空のように思えてきます。
この便箋を通して、どこにでも行ける。何にだってなれる。そんな気がしました。
何を書こうかしら。まずは……妖精さんが出てくるお話?
妖精さんがいる世界で、――そうね、女の子の妖精さんが人間の男の子に恋をする話はどうかしら?
妖精の国の試練で人間の国にやってきた女の子は、人間の男の子と出会って人間というものを学んでいくの。
そして二人はだんだんと惹かれ合うけれど、お互い種族の違いに悩んだり、苦しんだり……そしてある時、妖精の国から迎えが来て――
学校を舞台にしたお話もいいわ。
仲のいいお友達同士が、ある日突然事件に巻き込まれるの。
そのとき2人は罪を犯してしまって――それは二人だけの秘密だったはずなのに、「すべてを知っている」という手紙が届いて……
誰が手紙を送ってきたのか、時にお互いを疑いながらも二人は真相を追いかける。そういう、ちょっぴりドキドキするお話。
待って、未来から私がもう一人やってくるお話というのはどうかしら?
未来からやってきた私が、私に向かって言うの。「この結婚ではあなたは幸せにならない」って。
そこで私は他の人と結婚する未来に向けて頑張るのだけれど、あと少しというところで、未来から来た私にすべてを奪われてしまうの。
未来の私はもともとそれが目的だったのよ。でも私だって負けてないわ、未来の私から絶対に幸せを取り戻してみせる!
「……はっ!?」
気づくと朝でした。
窓の外で小鳥さんがちゅんちゅん鳴いています。まぁ可愛らしい。
こんもりと積みあがった便箋の山を見て、ふぅと額の汗を拭います。
あらあら、私ったらつい、夢中になってしまったみたい。
でもこれだけストックがあれば、しばらくはお手紙に悩まされることはなさそうですね。
私はここしばらくで一番清々しい気持ちで窓を開けると、爽やかな朝の空気を胸いっぱいに吸い込みました。
◇ ◇ ◇
「レオナルド様。お手紙です」
「適当に置いておけ」
執事が「さようでございますか」と不満げな声を出す。
そんな声を出されても、俺は読む気なんてないからな。
ましてや、返事を書くなどと。
男が文机に向かってちまちまと、女々しいったらない。俺はそんな情けないことはするつもりはなかった。
だいたい祖父母の代に勝手に決められた結婚だ。
約束がある以上義務だけは果たすつもりだが、それ以上の面倒事は御免だった。
女というのは論理的な話し合いが出来る生き物ではない。きゃらきゃらと姦しくて感情的で――理知的な俺とは違う生き物だ。
そんな生き物と、何を話せというのか。どうせ手紙だって、俺が興味のないことがつづられているに決まっている。
見向きもしない俺に諦めたのか、執事はため息をつき、ぞん、と手紙をテーブルに置いた。
うん?
「ぞん」?
何だ、その音。
執事が部屋を出て行った後、テーブルに置かれた手紙とやらを確認する。
指3本分くらいの厚みがあった。
え。
何だこれ。
手紙?
本じゃなくて??
ミチミチになっているところを無理矢理なんとかつなぎとめている封蝋のあたりにペーパーナイフを入れて、封を開ける。
何なんだ、この尋常ならざる分厚さは。
もしかして、俺が返事をしないからといって、恨み言でも書いてあるんじゃないだろうな。
そう思ってぞっとした、が。
それならそれで、手紙を理由に婚約を解消してやればいいだけだ。怖気づくようなことではない。
自分に言い聞かせながら――そして万が一髪の毛など入っていても無様に悲鳴を上げないように唇を噛み締めて薄目でそーっと――折りたたまれた便箋を開く。
特に異物は混入されていない。ひとまず胸を撫でおろす。
いや俺は別に怯えているわけではないが。
手紙の文面に視線を落とす。
ーー『犯人はこの中にいる!』
?
????
俺は首を捻った。
何かの間違いだろうか。手紙が会話文で始まっている。
何故だ。宛名で始まっていない手紙とは。
もしかして順番が入れ違ってしまったのかと便箋をめくるが、ご丁寧に便箋の一番右下に書いてあるページ数によるとこれが一番最初らしい。
混乱した俺は、はっと思い至った。
もしやこの前の手紙に、経緯が書いてあるのか?
適当に積まれていた手紙の山を崩して、前の手紙を発見する。
今回よりも多少慎ましやかな厚みの封筒が出てきた。
開いてみる。
手紙の1枚目は、この文章で始まっていた。
ーー『探偵王子、マックイーンの事件簿』
何故だ。
何故手紙がタイトルから始まる。
誰だその王子は。
まったく意味が分からないながらに、文章に目を通す。
ーー俺の名前はマックイーン。この国の第3王子であり探偵だ。
王子なのかよ。公務をしろよ。
そう思いながら読み進めた。
……ぺらり、と便箋をめくる。
「…………」
ぺらり、ぺらり。
夢中で便箋をめくっていく。
手紙の最後まで来てしまったので、最初に封を開けた手紙を手に取った。
静まり返った部屋の中に、ただ便箋をめくる音だけが響く。
「……はっ!?」
気づいたら、朝だった。
何ということだ。
この騎士団屈指の健康優良児と名高い俺が、徹夜だと!?
「探偵王子」は早々に一番新しい部分まで読み終わって、そこから今まで届いていた手紙も全部開けた。
初めのうちは普通の手紙だったのが、ある時から物語に変わった。俺はそこから先を食い入るように読み漁った。
妖精と人間との種族を超えたラブロマンス、学園を舞台にした友情とサスペンス、平凡な令嬢が未来から来た自分と戦うファンタジー、他にも種類を問わずたくさんの物語が書き綴られていた。
少々粗削りなところはあるが、どれも面白い。
もう一度最後の「探偵王子」を手に取った。
雪山にある辺境伯の屋敷で起こった殺人事件。探偵王子はその有力な手掛かりを見つけたところで、何者かに後ろから殴られ意識を失ってしまう。
しんしんと降り積もる雪が、犯人の痕跡を覆い隠す。ここで話は終わっていた。
終わるな。
最後まで書け。書けているなら送ってこい。何故途中で送ってくるんだ。
文句をしたためた返事を送ってやろうかとわなわなと手を震わせ――、そんな自分に気づいて慌てて深呼吸をする。
いや、焦ることはない。
どうせ放っておいても向こうからまた手紙が届くはず。それを待てば良いだけだ。
俺がわざわざ手紙をやってまでせっつく必要はない。
まぁ? 俺としては、別にこの後、続きが届かなくても? 痛くも痒くもないしな?
そう思っていたのだが……1週間経っても、2週間経っても、手紙が来ない。
どういうことだ。
何故続きを送ってこない。
犯人は結局誰なんだ。探偵王子は無事なのか。
気になって仕方がないではないか。
俺はどかどかと床を踏み鳴らして文机に向かうと、埃をかぶったインク瓶を引き寄せた。
◇ ◇ ◇
私の元に手紙が届きました。
何とレオナルド様からです。
まぁ。初めてのお手紙です。明日は雨が降るかもしれません。
――『手紙 続キ 疾ク送レ』
父の危篤の知らせかしら、と思うくらいに簡素な文章でした。字も独特で、何と言いますか……ダイイングメッセージとか、脅迫状とか。そういう書体です。
ですが、続きと言われても――
ふぅ、と小さく息をつきます。
続きが思うように浮かんでこないのです。
こんなことは初めてでした。これが世にいうスランプというものなのかしら。
レオナルド様からのお手紙を畳んで封筒に戻すと、そっと見なかったことにして引き出しにしまいました。
ですが何もお返事しなかったのがよくなかったのか、その後もお手紙が届いてしまいます。
――『進捗 ドウダ』
――『書ケタ所 マデデ イイカラ 送レ』
――『マズハ 机ニ 向カウコトカラ 始メヨウ』
そう言われましても。
うーんと唸って、またレオナルド様からのお手紙を引き出しに放り込みました。
机に向かっていても、どうにもペンが進まないのです。
だって、この事件のトリックに自信がなくなってしまったのです。
王都や我が家の領地では、雪はちらつく程度。たっぷり降り積もった雪というのを見たことがないのです。
本で読んだ知識で書いていますけれど――これって本当なのかしら。
本当にこんなことが可能なのかしら。もしかして、雪をよく知っている人が読んだら無理があると感じるのでは。
このお話のキモであるところのトリックに自信がなくなってくると、どんどん不安になってきます。
というかこれって、――そもそも、面白いのかしら?
◇ ◇ ◇
「クリスティーネ」
すっかりペンが動かなくなってしまった私の元を、レオナルド様が訪ねてきました。
まぁ。雨どころか槍が降るかもしれません。
サロンで待ち構えていた彼は、初対面の挨拶もそこそこに深刻そうな顔で切り出しました。
「何故続きを送ってこない」
「あの」
「手紙にも返事を寄越さないし」
それはお互い様なのではないかしら。
そう思いましたが、黙っておきます。
「……マックイーン王子は無事なのか」
「え?」
ぱちぱちと目を瞬きます。
マックイーン王子、というのは、ええと。私が書いたお話の登場人物、探偵王子マックイーンのこと、だと思うのですが。
ええと、お待ちになって。
それを知っているということは……手紙をお読みになったの、かしら?
「無事、ですが、この後……」
「待て。ネタバレするな」
「ねたばれ」
阻止されました。
ネタバレが嫌な気持ちは私にも分かります。本を読んでいる途中で「この後〇〇になるよ」などと言われようものなら手が出てしまうかもしれません。
レオナルド様のその言葉で、すとんと一つ、腑に落ちました。
「本当に、手紙、読まれたのですね」
「……ああ」
レオナルド様が頷きました。
たいへん真面目な顔で、続けます。
「読んだ。一度読んだ後に頭から通してまた読んだ」
「はぁ」
「そのあと特によかった話をもう一度読んだ後で、最終的に最初の方で送られていた普通の手紙も読んだ。作者のエッセイだと思うと悪くない」
「え、エッセイ……」
「気に入っていると書いてあった菓子と花を持ってきた。これを食べて花を飾って、また頑張れ」
「ええと……」
これは、応援してくださっている、のでしょうか?
テーブルに載せられたお菓子と花束の謎がやっと解けました。
たぶん私の手紙を読んでくださって――そして、しょっちゅう届いていたそれが届かなくなったので、心配して元気づけに来てくださったのでしょう。
やさしさが身に染みます。
ですが、頑張れと言われても――おいそれとはいかない理由がありました。
言いにくさに口ごもった後で、何とか小声で申し出ます。
「じ、実は……スランプ、でして」
「スランプ?」
レオナルド様が目を見開きました。
「何故だ」
「何故と言われましても」
何故か自分で分かるなら苦労しません。
ですが、そうですね……ペンが止まってしまったきっかけを思い起こして、答えます。
「この後、事件のトリックが明らかになるのですが……私、あまり雪を見たことがなくて」
「雪?」
「トリックで重要なんです」
「確かに雪の中の屋敷が舞台だったな」
レオナルド様が頷きました。
本当にきちんと読み込んでくださっています。何だか感動してしまいました。
「雪、か」
そう呟いて、レオナルド様が立ち上がりました。
「待っていろ。すぐに戻る」
「え?」
ぽかんとしてしまう私を置いてけぼりにして、レオナルド様がサロンを後にします。
一体、何をしに……?
私が首を捻っているうちに、レオナルド様が戻ってきました。男の人を連れています。
レオナルド様は最初に座っていた椅子に座ると、立っている男の人を紹介します。
「うちの御者だ。以前衛兵として雪深い駐屯地で働いていたことがある」
「まぁっ!」
私は思わず手を叩きました。
それならきっと雪には詳しいはず。実体験をお伺いするにはうってつけですね!
御者の方はふんふんと鼻息を荒くする私に、雪深い地域での暮らしについて丁寧に教えてくださいました。
私のまったく見当はずれかもしれない質問にも、ひとつひとつ答えてくださいます。
「ふむふむ、では本当に、雪というのは枝が折れるくらいに重いのですね」
「もちろんです。屋根が抜けちまうんで、わざと尖った形の屋根にしているくらいで」
「本で読んだ通りですわ!」
「雪かきも骨が折れるったらなくて。騎士だって音を上げるくらいですよ」
手元のメモがいっぱいになりました。
聞きたかったことをすべて確認できて、大満足です。
私の立てた仮説が概ね正しいことが分かりほっとするとともに、実物の雪というものが思い浮かぶことになったからこそ、改善点もはっきりと見えてきました。
満足げに息をついた私に、それまで黙って御者の方との会話を聞いていたレオナルド様が、おずおずと声をかけます。
「続きは、書けそうか?」
「はいっ!」
私はぎゅっと両手の拳を握って答えます。
何だったら今すぐ机に向かって、ペンにインクをつけたいくらいです。
だってアイデアが溢れてこぼれ落ちてしまうんじゃないかっていうくらい……わくわくしていますもの。
「楽しみにしていてくださいね!」
うきうきわくわくした勢いのままそう口を滑らせて、はっと我に帰りました。
いけない。つい夢中になってしまいました。
「……わ、私ったら、すみません。舞い上がってしまって」
「何を言う」
ソファの上で縮こまる私を見て、レオナルド様がきょとんとした顔で目を瞬きます。
そして、至極当たり前のことのように、言いました。
「お前の書く物語はどれも面白い」
「え」
「妖精が人間との寿命の違いに気づいて涙を流す場面では俺も胸が苦しくなったし、仲が良かったはずの二人がお互いを信じたいのに疑ってしまうという展開にはハラハラさせられた。未来から来た自分にすべてを奪われながらも唇を噛み締めて立ち上がる姿には勇気づけられた。他にも、」
つらつらと、流れるように、レオナルド様が話します。
思ったよりも感受性が豊かな方みたい、と思うのと一緒に……その感想の1つ1つ、どれもが私の書いた物語をよく読んでくれているのが伝わってきて、思わず胸が熱くなります。
「今も、探偵王子がこの後どうなるのかが気になって仕方がない。いや主人公なんだし無事なんだとは思っているが、気を失った状態で雪山に置き去りにされた彼がこの窮地をどう切り抜けるのか。早く続きが読みたいと、そう思う。お前からの手紙をずっと、ずっと待っていた」
レオナルド様がかけてくれる言葉が、どれもまるで夢のように思えました。
だって私は、自分で書きたいものを書いているだけで。
それは私が、お話を書くのが好きだからで。
そもそもレオナルド様にお送りしたのだって、きっと読んでいらっしゃらないからと、そう思ったからなのに。
「分かるか。どれも本当に、面白かった」
彼の言葉が本当に、本当に……嬉しかったのです。
誰かに読んでもらえて、面白いと言ってもらえる。それがこんなに嬉しいことだというのを、私は初めて知りました。
「続きを楽しみにしている」
レオナルド様がふわりと微笑みました。
笑っているところを初めて見ました。
お顔を見たのだって今日が初めてでしたけど……その笑顔が、とてもやさしげで。
「あ、あの」
私はつい、レオナルド様を呼び止めました。
「もし、読んでいただいて、面白かったら……」
「ん?」
「一言だけでいいので、お返事をいただけませんか」
言ってしまった。
言ってしまいました。
だって見た目とつっけんどんな言葉と裏腹に、何だかやさしそうな感じがしたので……このくらいの我儘だったら、許してくださるかしら、なんて。
そう思ったんです。
長いことお手紙のお返事をくださらなかったのですから、このくらい、いいんじゃないかしらと、そう思ったんです。
私の書いたお話を読んでくれて、そして――面白かったと、言ってくださった。
私にとってそれが、自分でもびっくりするくらいに、嬉しかった。
だからもう一度と、そう思ったんです。
レオナルド様は目を見開いた後、気まずそうに目を逸らしました。
しばらく言いにくそうに口ごもった後、言い訳がましく口を開きます。
「つ、机に向かうなどと、女々しいことを」
「女々しいかしら」
「……俺は、字が汚いし」
「存じております」
思わず笑ってしまいました。
苦手でいらっしゃることくらい、あの脅迫状みたいな字を見たら分かります。
お返事をくださらなかったのはきっと、あの字を見られたくなかったからなのでしょう。
でも、それでも……一生懸命書いてくれたのだろうというのが、今なら分かります。
へどもどしているレオナルド様の瞳を覗き込みました。
「短くても、字が下手でも構いませんから」
「…………分かった」
レオナルド様は、最後にはそう頷いてくれました。
◇ ◇ ◇
「異国のお茶の香り、どうやって表現したらいいかしら」
「取り寄せよう」
「ありがとうございます! 家で研究して、また書けたらお送りしますね!」
「…………」
「古楽器の奏法が物語の鍵になるのですが、なかなかこの楽器の奏者が見つからなくて」
「今度楽団の公演がある。そこで尋ねてみるのはどうだろう」
「こんな公演が? まぁ、素敵ですね! お母様と行ってみます!」
「………………」
「砂漠では夜になると急に気温が低くなるそうですが、本当かしら」
「……一緒に、行ってみるか」
「まぁ、取材旅行ですね!」
「新婚旅行だ!」