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第6話「悪役令嬢の献身」

「これもちがう。これも」


ルイーザ・ダルザス侯爵令嬢は宝石が施された指輪をひとつひとつ指に嵌めて品定めをしている。


「どれもしっくりくるものはないわ。ラナ、もっと他にないの!」


ルイーザは当たり散らすように専属メイドのラナを問い詰める。


「申し訳ございません。本日、ティム商会が用意した装飾品は以上となります」


「この役立たず!」


ラナの頬を叩くルイーザ。


「あなたがこんな程度の宝石しか用意できないから陛下はいつまで経ってもワタシにお手つきになられないのよ」


「申し訳ございません」


「ワタシの立場がおわかり? いい、ワタシはダルザス家の令嬢として国王様のお世継ぎを産むことを求められているの。

なのに婚約から半年経っても、ハロルド様はお手つきどころか寝室にも姿を現さない。ダルザス家に媚びるしかない貧乏貴族のあなたにこの屈辱が理解できる?」


「申し訳ございません」


「これだからお気楽な貧乏貴族の娘は。また扇子をお口に突っ込まれたいのかしら?」


「そ、それだけはご勘弁を」


ルイーザは涙を流すラナ顔を鷲掴みにする。


「そう拒むことないじゃない。あなたのはじめての殿方ですもの」


「い、いや⋯⋯」


「ラナは本当にわかってないのね。侯爵令嬢であるワタシの重圧が。よく聞きなさい」


「はい⋯⋯」


「ワタシは王宮内の侍女たちからいい笑い者にされているの。先王の崩御で結婚の式典は先送りされた挙句、近ごろ隣国の姫様を入内(じゅだい)させるなんて噂も聞くわ。

だからなんとしてもハロルド様のご寵愛がほしいの。そのためにできることをしなさい!」


「香を⋯⋯」


「香?」


「おそれながらコルネロス商会で取り扱っている“香”にございます。

なんでも殿方をその気にさせる媚薬だとか」


「ほう⋯⋯それは良いことを聞いた」


***


「クソ! ラドフォルン家の小娘がッ!」


商会長のジャコール・コルネロスは執務机に書類を叩きつけ憤りをあらわにしていた。


『ずいぶんと機嫌が悪そうね。ジャコール』


「これはこれはルイーザ様。お見苦しいところを見られてしまいました。どうぞそちらにお掛けください」


「よろしくてよ」


「ルイーザ様、ずいぶんと急でしたが本日はどのようなご用向きで?」


「それよりジャコール。“ラドフォルン家の小娘” などとずいぶんと面白いことを言っていたじゃない」


「聞かれてしまいましたか。お恥ずかしい」


「ワタシには聞かせたかったかのように感じましたけど」


「さすがはルイーザ様」


ジャコールはルイーザにシャルロットの立ち振る舞いによってウォルトレーンとの商談が流れたことを話した。


「なるほどね⋯⋯」


(シャルロット・ラドフォルン⋯⋯ワタシが熱湯を溢してしまったとき、すぐさま謝ろうとていたのに

お前が恩義せがましく庇い立てするから周囲から冷たい視線を向けられることになったじゃない)


“本当はポットを溢したのはダルザス家の令嬢だったのに身を挺して庇うなんてラドフォルン家の令嬢は偉いな”


“ラドフォルン家は教育がいきとどいているな“


(おまけにハロルド様のご寵愛まで⋯⋯あの日の屈辱忘れたりしないわ)


「いいわ。ラドフォルン家にダルザス家の力の差見せつけてあげる」


「ありがとうございますルイーザ様」


ピクピクと動くジャコールの口髭に感情が表れる。


(ふん。わかりやすいヤツめ)


ルイーザはしたり顔を浮かべる。


「そのかわりと言ってはなんなのだけど。殿方をその気にさせるという“お香”お譲り頂けるわよね?」


ジャコールの口髭がピタリと止まる。


「なんと申しますかお求めのお香は大変貴重でして、伯爵家が屋敷をひとつ売ってようやく手に入るような代物で⋯⋯」


「献上なさい」


「は?」


ルイーザは驚嘆するジャコールの頬に手を添える。


「考えてみなさい。ワタシのお腹に陛下の子が宿れば、コルネロス商会を王国お抱えに推挙することも容易いわ」


「ルイーザ様、それは誠に⋯⋯」


「ね、安い投資でしょ?」


「か、かしこまりました」


***


一方、そのころシャルロットはレンリたちと頭を悩ませていた。


「なぁ、みんな」


「どうされましたかレンリ様」


「これは前から考えていたことなんだけど、自分たちで商会を立ち上げるってのはどうだ?

それだったら商人に搾取される心配もない」


パオロ様とドーラ様は意表をつかれた反応を示す。


妙案かもしれないがその案に乗っかるのは危険だ。


「レンリ様、恐れながら申し上げます。商人の世界も縦社会です。新参者がいきなりやっていけるような甘い世界ではありません。

まして有力な商会であるコルネロス商会を敵に回した今は」


レンリ様のお考えは”アリ“だった。


そうーー


それだけに私の行動が迂闊だったのだ。


「こうなってはダルザス侯爵も王都での商売も許可しないでしょう」


と、パオロ様が肩を落とす。


ウォルトレーン産の作物が王都で取り扱って貰えないのは致命的だ。


「ダルザス侯爵に王都での商売許可状をもらう手段がひとつだけあります⋯⋯」


これは御法度なのだが⋯⋯


「国王様に直接会って懇願するのです。国王様の了解が得られればダルザス侯爵も文句が言えません」


「国王⋯⋯」


レンリ様の表情が曇った。


そしてドーラ様が神妙な顔で答える。


「シャルロット様のおっしゃる通り国王様に直接懇願する方法が確実なんだけど、ウォルトレーン家にとってはそれがもっとも険しい手段よ」


「俺たちは先の戦乱の戦犯なんだ。ウォルトレーンの人間はハロルド国王にお目通りすら叶わない」


「しかも王宮内じゃ未だにウォルトレーンを快く思わない役人ばかりよ。ハロルド国王の即位式にすら招待されなかったんだから」


「レンリ・ウォルトレーン辺境伯がデューハースト王国の国王と会談するというのは歴史的な一大事。

謁見するにもそれなりの大義名分が必要です。それに交渉も含めて会談に漕ぎ着けるのにはそうとうな月日を要します。

それで本当に実現するかも⋯⋯」


「パオロ様、ご安心ください。大義名分ならございます」


「シャルロット! 本気で言っているのか? 朝敵が国王に会うんだぞ! 生半可な大義じゃダメだ。

ましてや王都で商売させてほしいだなんて⋯⋯」


「レンリ様、そんなことでお諦めになさっていてはウォルトレーンの評判を覆すなんてこと到底無理ですわ」


私は真剣な眼差しでレンリ様の瞳を見つめた。


「シャルロット⋯⋯」


「レンリ様、お父様にお会いしてください」






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