第24話 マギー直伝
「魔導器のことで何かお困りじゃないか、聞いてきますね」
はぁ、と首を傾げる彼を置いて、私は会計のあるカウンターに向かった。
そこで店員さんと一言二言交わし、素早く支払いを済ませた。
さっきのセリフからこの流れ、そしてこの後の展開まで、マギー直伝だ。
テーブルに戻ると彼も食事が済んでいて、ちょうど席を立つ流れになった。
会計を、と彼が言うと、店員さんはにっこり笑って「先程」と私に手を向けた。
事態を飲み込み切れていない彼だったが、私がドアの取っ手に手をかけると、慌ててエスコートの使命を思い出して動いてくれた。
「あの……先程、というのは、いったい」
お店を出て少し歩いて、彼がぽつりと言った。
さぁ、ここからだ。
マギーから教わった――わけではないけれど、かつて私がしてもらい、年上のおねーさんとはこういうものかと感動した言い回しをするのだ。
「ご迷惑でした?」
口調までマギーみたいになってしまった。
でも、こう言われると、言われた方は首を横に振るしかない。
そして――
「すみません……自分から誘っておいて、こんな……」
そうそう、私もそうだった。
謝っちゃうのよね。
ここですかさず――私は彼の方を向き、人差し指を立てて、彼の口元に近づけた。
記憶では、マギーは私の唇に指を押し付けてきた気がするけれど、さすがにそれは出来ない。
そもそも、距離が遠くて届かない。
「ここは「ごめんなさい」じゃなくて、「ありがとうございました」が欲しいかな」
まるっきりマギーの言葉のままになってしまった、と小さく悔いつつ、私は頑張って笑顔をつくった。
あのときのマギーの笑顔は本当に素敵で、ああ、私もこんな女性になりたいなと思わせるものだった。
彼の目にはどんな顔が映っているのか怪しいところだったが、とりあえず、笑われる顔にはなっていなかったようだ。
「あ、ありがとうございました」
うん――決まったな、コレは。
どうも、最近職場では、私がいじられる流れが出来上がってしまっている気がする。
口では私を尊敬していると言うリラですら、グリー達の尻馬に乗るような気配がある。
でも私だって、大人の女として決めるときは決めるのだ。
今の一連の流れを、みんなに見せてやりたかった。
しかし、である。
「え~と……」
私は突き出した人差し指を引っ込めながら、必死に記憶を辿った。
この後は、どうすればいいんだっけ?
「カレンさん」
「は、はい」
思考がまとまらないまま、私は反射的に返事をした。
「もう一度、お誘いさせてください。次こそは、俺がもちますから」
まるで剣を構えているときのような強い視線に、私は無言のままこくこくと頷いた。
なんだか、自分が想定していた流れとは違ったような気もする。
でも、何か返事をしないと――
「た、楽しみにしてますね」
私が言うと、彼はパッと顔を明るくして、歩き始めた。
途中、私のアパートに続く道に繋がったので、私はそのことを彼に伝えた。
送りますと申し出てくれたが、別段、送ってもらうほどの距離でもないし、危険があるような暗さもない。
渋々引き下がる彼に別れを告げて、私は自宅に戻った。
靴を脱ぎ、バッグを置き、ベッドの端に腰を下ろす。
なんだか、不思議な一日になってしまったな……
でも、これでグリー達に「男性と食事をしたことがないなんて」と馬鹿にされることは無くなったはずだ。
ゆったりと休日は過ぎていって、平日は何事もなかったかのように始まった。
仕事をしながら、私は何とはなしに、普段と同じような話の中でエデルとの出来事を話題にした。
「えっと……」
一部始終を聞き終えたリラが、何か、戸惑いの表情を浮かべている。
はて、と思いながら周りを見ると、やはりみんなが同じような顔をしていた。
てっきり、「カレンも大人になったのね」くらいのことを言ってもらえると思っていたのだけど――
「よし」
所長が口を開いた。
みんなの意識が彼の方に向く。
「今回の件については、マギーに責任をとってもらうとしよう。このままほっとくと、俺には青年が空回りし続ける哀れな未来しか見えん」
マギーを除く3人が、うんうんと大きく頷いた。
当のマギーはと見ると、目を閉じて深く何度か頷いている。
どうやら、流れを理解できていないのは私だけのようだ。
「カレンちゃん」
「はい」
私がマギーを見ると、彼女はにこっと笑顔をつくってみせた。
副団長のクリスと同じくらいの年齢だと思うが、彼女の若々しい美しさとはまた違う――大人の落ち着いた微笑みだった。
「ちょっと、カフェスペース行きましょっか」
視界の端で、所長が「いけいけ」とばかりに手をひらひらさせているのが見える。
隣のグリーが、私のデスクからファイルをひとつ奪うように取った。
「アンタの案件、ひとつ預かってあげる」
私が言葉を告げないでいると、グリーは眉間に皺を寄せて口を次いだ。
「これで、心置きなくマギーさんの話が聞けるでしょ。どんな話になるか、大体予想はついてるけどさ」
公募作品の準備が滞っているので、少し更新をお休みします。




