第17話 騎士の対峙
「いささか間が開いてしまったが、先の話の通り、武装して仕合うとしよう。さっきの打ち込みは見事だったが、憧れのカレン殿にお会いして浮ついた今の状態では、恥を掻くだけで終わるぞ。さっさと鎧をもって修練場に行っていろ。一息ついたら始めるぞ」
「はい!」
威勢よく返事をするが早いか、彼は私の後方、武器庫の中に入っていった。
私がそれを目で追うと、副団長が言葉を次いだ。
「時に、カレン殿は彼のことをなんと?」
「えっと……ディアマンテさん、と」
「ふむ。まぁ、互いに影響を与えあっていたとは聞いたが、面識はなかったというからな……」
不思議な巡り合わせもあったものだ、と口元に手を当てて、彼女は何事か考えているようだった。
武器庫の中からは、ガチャガチャと金属同士がぶつかりあう音がかすかに聞こえてくる。
副団長は手を顎の下にずらして、また言葉を紡いだ。
「王国騎士団と王立魔導研究所は、同じく王家に仕える官職の身。であれば、ただ単純に貴女は年長で、エデルは年少だ。何も、そのように構える必要もないだろう」
「同じようなことを、騎士団長様からも言われました。身分は同じだから遠慮はいらない、と」
私の言葉を聞いて、彼女は嬉しそうにこくこくと頷いた。
「騎士団の責任者が揃って言うのだから、それでよいということだ。カレン殿も遠慮せず、彼のことは「エデル」と呼び捨ててやってください」
「それはちょっと……せめてさん付けくらいはしなければと思います」
「はは、まぁ、急にはね。作業中にお時間をとらせました、では」
爽やかに言い残して、副団長も武器庫の中に入っていった。
勢いの激しい、研究所にはいないタイプの人だと思った。
元気だといえばグリーやオリーも元気だが、雰囲気が違う。
「次は……」
私はチェックリストに目を落とした。
見るべきところはまだまだある。
そこでふと、修練場は次の次くらいに回そうかという気になった。
タイミングが合えば、鎧をつけ終えたあのふたりの様子を見ることが出来るかもしれない。
私は建物の配置を頭に浮かべて、回り方をいつもとは変えることにした。
食糧庫の点検を済ませて、ちらっと修練場を覗く――まだ、それらしい物音は聞こえない。
少し足早に休憩所に向かい、複数個所ある配力盤を確かめて、出る。
作業中、休憩をしているらしい若い騎士の人達に話しかけられ、少しどぎまぎしてしまった。
やっぱり、人と関わるのはあまり得意にはなれなさそうだ。
「見に行こうぜ」
中庭を駆け足で行く数人の騎士達が修練場の入り口に向かっている。
いいタイミングかもしれない。
私は道具箱を持ち直し、また早歩きになって修練場へ向かった。
「失礼します……」
修練場の配力盤は、建物の奥にある。
私は人だかりに声をかけて道をつくってもらいながら、円形の施設に足を踏み入れた。
踏み入れてすぐ、足が止まった。
エデルとクリス、二人と思しき騎士が構えて対峙している。
二人とも鎧兜を身に纏い、長剣を一本両手に握り、微動だにしない。
「どっちだと思う?」
近くの騎士が言った。
「副団長だろ、さすがに」
「でも、先の先をとる副団長が、あんなに待ちに徹するのは珍しくないか」
「盾無しだからだろ?」
「いや――エデルのやつ、やってるな」
「ああ」
「やってる」――?
何をやってるんだろう。
どちらとも、能動的に何かをしているようには見えない。
ただ、なんとなく、背の高い側――たぶん、エデル――の構えの方が、どっしりとして美しい気がする。
「あっ」
一瞬だった。
ギィンッ、と音がした、誰かが声を漏らした――と思ったら、副団長の剣は地面に突き刺さっていて、それを持つ腕の傍にエデルの剣が止まっている。
エデルが勝った、ということなのだろうか。
まるで見えなかった。
「ヒューッ、すげぇな」
「副団長の初手切り払いに対して、打ち下ろし一発たぜ」
「団長ともまた違う剣筋だな。いよいよ三番手の地位は固いぜ、あいつ」
「対人剣術なら、だろ」
「クリスさんが手加減してるだけだって」
「盾無しだしな」
「叙任を終えたご祝儀みたいなもんだろ」
「あの副団長が、そんな手心加えるかぁ?」
ざわざわと言葉を交わすギャラリーが、修練場へと入っていく。
私はハッとして、その波から離れて壁伝いに奥へと進んだ。
歩きながら、横目に二人のやりとりを覗く。
「やれやれ、やられてしまったな。間合いによる牽制は見事だった」
「――まぐれです。初撃がフェイントではないと見抜けたわけではありませんし」
「結果がすべてさ。確かに盾無しでお前に合わせたのは事実だが、今日、そっちに分があるのは仕方ない。何せ、勝利の女神がこれだけ近くにいるとあっては」
副団長が、はっきりと私の方を見て笑った。
そして、彼の方に向き直る。
「――な?」
「な、何をおっしゃっているのか、私には分かりません」
顔を真っ赤にして、青年は目を閉じた。
そんな彼を、他の騎士達が囲んでいく。




