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9/9

殿下、かっこよかったです

 シンが放った光の砲弾は、固有魔法ではない。


 魔力を持って生まれた子どもが最初に習うような、シンプルな初級魔法だ。


 それこそ、メルティにだって使える。

 だがその練度は、他の追随を許さないレベルだった。


 大男が吹き飛び、一撃で気絶する威力なのだから。


「めるてぃ、だいじょうぶか?」


 シンの声で我に帰る。


 彼は埃でも払うように両手をはたいて、涼しい顔をしている。


「シン様……。お強いのですね」

「あたりまえだろう。おれをだれだと思っている」


 そういえば、シンクリッドは学問も魔法も武術も超優秀の、完璧超人なのだったか。


 特に魔力の質と量は最高峰で、それは今の身体になっても変わらない。


 考えてみれば、メルティが心配する必要はなかった。


 だけれど……。


 思わず膝をついて、シンを抱き寄せた。


「……おい」


 腕の中で、シンが不満そうに言う。

 だが抵抗はせず、されるがままだ。


 ぎゅーっと力を込めて、小さな身体を包み込む。


「怖かったです」

「そうか」

「怖くて、動けませんでした」

「ふん。あんな男に、くっするひつようはない」


 シンが腕を伸ばして、背中……までは届かなかったのか、肩の辺りをぽんぽんと優しく叩いた。


「めるてぃ。おれがいるかぎり、全てのきょうふはきゆう(・・・)だと笑いとばそう」


 シンが子どもになってしまったから守らないといけないなんて、とんだ思い違いだった。


「こわがるなとは言わない。ただし、こわかったら……かならず、おれをたよれ。おれは王になり、民すべてをまもる男だぞ。こんやくしゃ一人、たやすくまもってみせよう」


 姿形が変わっても、彼は頼れる婚約者のままだった。


「でんか……」


 腕の力を抜いて、少し離れてシンの顔を見る。

 相変わらず可愛い。そして、カッコいい。


 彼は余裕のある笑みで、手を差し出した。


「わかったか?」

「はいっ」


 メルティは指先で涙を拭うと、その手を取った。


「ところで……」


 シンが周囲に目を走らせて、眉を顰めた。


「はやいとこ、立ちさったほうがよさそうだな」


 言われて、メルティも顔を上げる。


 周囲の人たちは倒れた大男とシンを交互に見て、目を丸くしていた。


「なんだあの子……」

「すごいな、一撃だったぞ」

「街中で暴力沙汰なんて……」


 彼らはギリギリ聞こえるような声量で、口々に言っている。


 その裏の感情は、好意的なものではなさそうだった。


「見ていただけで助けようとしなかったのに……」

「よけいなことするな」


 思わず立ち上がって抗議しようとしたところ、シンに止められた。

 腕を強く引かれたので、バランスを崩しそうになる。


「にげるぞ」

「えっ、でもあの男性を放置したままでは……待ってください。三日は目覚めないお薬をお出しします」

「こわいな……」


 さっきまで恐怖がどうとか言っていたシンが、青ざめて怯えたように見てくる。そんな、適切な処置をしようとしているだけなのに。


「ふようだ。……りっくがきた」


 そう言って、シンが視線をメルティの背後に向ける。

 釣られて振り向くと、そこにはシンクリッドの専属騎士、ガーターリック・バーンがいた。


「リック様!」

「メルティさん、遅れてごめんね。お弟子くんも。あとは任せて」


 リックは爽やかなな笑みを浮かべて、メルティの頬に手を伸ばした。

 指先で髪を撫で、メルティの耳にかける。


「え、あの」


 突然の行動に困惑する。


「なにをしている」


 シンが軽くジャンプして、その手をパチンと叩いた。

 着地して、シンを睨み付ける。


「くくく……いや、ちょっとゴミが付いていただけだよ」

「ふん、そうか」


 シンは不機嫌そうに鼻を鳴らした。


「めるてぃ、あとはまかせて、いくぞ」


 リックがいれば不足はあるまい。

 酔っ払いの悪漢では、相手にすらならないだろう。


「はい! あ、リック様。あとはよろしくお願いします!」


 ペコリとリックに頭を下げて、先を歩くシンを追う。


 ちょっとした騒ぎはあったけど、幸いにして誰かに被害があるわけではない。リックが場を収めてくれるだろう。


「シン様」


 自然と手を繋ぎながら、隣り合って歩く。


「なんだ」

「カッコよかったです」

「……あたりまえだ」

「可愛くてさらにカッコいいなんて……最強では?」

「かわいくない」


 そっぽを向くシンは、やはり可愛かった。

一章完結です!二章からはストーリーが動き始めるので、よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 殿下 可愛いね❤️
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