お買い物に出発です!
「ふっふ~ん」
「じょうきげんだな」
「シン様とお買い物ができるなんて、テンションが上がるに決まっています!」
髪の色を変えたシンと、さっそく街に繰り出した。
王宮のある街は、王都と呼ばれていてとても栄えている。
文化と商業の中心地なだけあって人が多く、衛兵が多く常駐しているため治安もいい。
「へいみんがいに来るのはひさしぶりだ」
「普段は王宮か、行くとしても貴族街ですもんね~」
貴族の屋敷が並ぶ貴族街と、平民が暮らす平民街は高い壁で分断されている。
閑静な貴族街と比べ、平民街は活気に満ちていて、楽しそうだ。
「平民街といっても、私からしたら皆さん貴族みたいなものです。王都に住めるというだけで、かなりの富豪ですから。エバーグリーン領は農家さんが多いので、もっと長閑な感じですよ」
「そうなのか。おれのしらないせかいだな」
「まあ、シン様は王子様ですからね。知らないのは当たり前です」
「いや、王になるいじょう、民のせいかつはしっておくべきだ。民なくして、くにはなりたたないのだから」
シンが真剣な表情で、難しいことを言っている。
ああ、身体は小さくなっても、彼の心はなにも変わっていないみたいだ。
誰よりも誠実で、誰よりも真面目で、誰よりも、国のことを思っている。第一王子の立場に甘んじず努力を続ける彼を、メルティは好ましく思っていた。
「では、今日は視察ということですね! 奇しくも、お忍びにぴったりです」
「そうだな。まさかおれが王子だとはおもうまい」
「ふふふ、殿下が街に降りたら、大騒ぎになりますもんね~。有名人ですし、絵姿も大人気だそうですよ」
「まて、なんのはなしだ」
「あら、おほほほ」
いけない、あれはシンクリッドには絶対に秘密なんだった。
一部のシンクリッド好きの令嬢、マダムたちが先導して、秘密裏に取引されている、精巧なシンクリッドの絵姿。王都にも少数だが流れており、プレミア価格がついているものもあるのだとか。
なぜメルティが知っているのかというと、婚約者であるためリーダー格の少女からお伺いをたてられたからである。
一枚融通してもらう代わりに見逃している身としては、シンに真実を言うわけにはいかない。
「第一王子としての支持は盤石、ということですよ! さすがシン様」
「ふん、とうぜんだ」
シンが誇らし気に鼻を鳴らす。
(お子様になってから、なんだか単純になってませんか……?)
心の中で失礼なことを思うメルティだった。
なんにしても可愛いからいいのだけれど。
「そろそろ商店街に出ますね。シン様、お手を」
「なんだと?」
「この人混みの中ではぐれたら大変ですから。手を繋いでいきましょう」
「こどもあつかいするな、といっている。人ごみなど……」
シンはメルティの手を振り払って、大通りに一歩踏み出した。
そんな彼を、大人たちは一瞥だけして、そのまま通り過ぎていく。
商業が盛んなこの地区は、大勢の大人が忙しなく働いていて、道はごった返している。
「うっ……」
シンは人の波に圧倒されて、数歩後ずさった。背後に立っていたメルティにぶつかる。
シンから見たら、見上げるような身長の人たちばかりだ。それは、恐ろしいだろう。
元が高身長だったからなおさら。
「シンさまっ」
膝を抱えてしゃがみ込んで、にっこりと微笑む。
手を差し出すと、シンは不本意そうに目を逸らしながら、手を取った。
「しかたないから、おれがえすこーとしてやる。こんやくしゃだからな」
「はいっ、お願いしますね」
「ふん、ぞうさもない」
シンはなにやら格好をつけてから、歩き始めた。
あくまで、シンがエスコートする側らしい。あまりプライドを傷つけても良くないので、何も言わないことにする。
そんなことより。
(手ちっっちゃ〜〜い! 柔らかい!! なんですかこれ、私を楽園を連れて行こうとしてるんですか!?)
シンと手を繋げるならなんでもいいや、と思った。