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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

関東戦記ミストルテイン〜元三十路の最強ゲーマーが征く、難易度デスのロボゲー学園軍隊記〜

作者: 威風

完全に趣味で書きました。

自分の好みを詰め込んだ作品です。

時間があれば、連載版も書きたいですね₍ᐢ⑅•ᴗ•⑅ᐢ₎♡


 ――此処とは違う、何処かへと行きたい。


 そんな、漠然とした思いが心の中で燻っていた。三十路の男が抱くには、随分と少女的な願いだと自嘲してしまう。毎日の仕事に忙殺され、気持ちがめげているのだろう。


 思い返すのは子供の頃の思い出ばかり。懐かしさを追い求め、昔持っていたロボットのプラモを買ったのは最近の事だった。殺風景なアパートの一室で、酒をやりながら飯を食う。生命活動を維持する為の食事は味気なく、つまらない。


 女でも作れば良かったのか――?


 考え、一瞬でそれを否定する。


 誰かと交際したとしても、きっと、変わり者の自分の事だ。長くは続くまい。結果として相手を振り回し、傷付けてしまうのならば、今のままの方が良いだろう。


 基本的に俺は、コミュニケーションというものが苦手なのだ。だと言うのに、しっかり孤独は感じてしまうのだから始末に負えない。子供の頃よりメンタル……精神面が成長していないのだ。


 だから――願わずにはいられない。



「何処か、別の場所に行ければな……」



 此処とは違う何処か。



「俺の、本当の居場所に――」



 襲い掛かる睡魔に身を任せ、俺はベットの上で目を閉じた。朝になれば、今日と同じ一日が待っているのだろう。誰に感謝されるでもない、機械的な業務を遂行する毎日。やりがいもなく、友人もなく、ただ寿命を擦り減らす毎日だ。別段不幸ですら無い、ありふれた現代人のローテーション。そんな俺だけど、願うくらいは好きにしても構わないだろう?


 夢を見るのは、生きてる人間の特権だから。


 見えない誰かに同意を求めると、瞼の裏に浮かんだ影が、薄らと首を縦に振った様に見えた。


 その事に満足した俺は、今度こそ意識を失い、深い、深い眠りへと落ちるのであった。







「……い……ってんだ……早……て!」


「……ん、んん……?」


「……るか! ……田!! 森田!!」


「は――!?」



 耳に響く電子的な通信音。ラジオか何かだろうか? しかし、家にはそんな物は置いてなかった筈。通信側からの逼迫した声に急かされ、目蓋を開くと、そこには見た事もない様な機械の装置がずらりと目の前に置かれていた。



「な、何――?」



 当然、困惑する俺。身体は椅子に固定されており、暗くて良く分からないが、車の操縦席の様な場所で座らされていた事だけは分かる。光源は微か。光る計器が何処か幻想的だった。



「目覚めたか、森田!!」


「は、はい!?」


「操縦は可能だな!? 三番機がライノスにやられている! 六番機は至急援護に走れ!!」


「――はい!」



 ――思わず、力強く頷いてしまった。


 通信機……の様な物から聞こえて来た、女性の声。彼女は何者なのか? ライノス? 三番機? 援護って何を……? ありとあらゆる疑問が振って沸いた状況だったが、兎に角、理由を聞かずに頷いてしまうのは自身の悪癖だった。


 知ったか振りたい訳では無いのだが……相手に何かを"訊ねる"というコミュニケーションを避けてしまう。典型的な無能コミュ症のムーブである。



「操縦……? 操縦席……?」



 何故ソレを連想したのかは分からない。が、"操縦"と聞いて、真っ先に思い付いたのが、昔やり込んでいたロボットゲームのワンシーンであった。まさか、あり得ないとは思いつつも、目の前に広がる機械の計器の配置は何処か見覚えがある。



「……《アルゼータ》のコクピットに似ているな……いやでも、そんな馬鹿な事が……」



 もしも。もし、本当にゲームと同じならば……此処らへんにモニターのボタンが……



「あった」



 正面横の計器の下にDisp と彫られたボタンを発見した俺は、直様それを押下する。若干のラグはあったものの、前方、左右と、三方向からモニターの光が操縦席を照らした。暗がりで分からなかったが、想像よりも大きな画面である。



「……これは」



 目の前のモニターに映し出された光景を見て、俺は唖然とする。空は曇天。場所は市街地の道路である。四車線の中央分離帯に自分は位置してる様だ。しかし、そんな事はどうでも良い。目を引くのは倒壊した建物。爆撃にでもあったかの様にぐにゃぐにゃと折れ曲がった信号。捲れ上がったコンクリート。そして、今尚昇る噴煙である。



「戦争でもしているのか……?」



 呟き、その言葉の余りの非現実さに絶句する。暫し何もせずに放心していたかったが、状況が許してくれない様だ。遠くに聞こえる爆発音。断続的な銃声に、気が逸る。このままでは危険だと言う直感だけが、常に脳内で警鐘を鳴らしていた。


 モニターの隅には、この機体の簡易描画が映し出されている。二足歩行。両腕と頭の付いたその外観は紛れも無い人型巨大ロボットである。自身が収納されているのは、その胴体部。……ロボット作品では割と定番なコクピット位置だった。


 操縦席は決して広くはない。窮屈さにストレスを感じる、とまでは言わないが、このサイズ感から考えて全長は然程大きくない機体なのだろう。


 描画された機体の絵には、左腕が欠けていた。点滅する赤い文字にはDamageと表記されており、恐らくは何らかの被弾をしたのだろうという事が見て取れる。


 ……被弾、という事は、敵がいるという事か。


 息を吐きながら、俺は手元にある二本のスティックをガシガシと動かしていく。……成程。左のスティックが左腕。右のスティックが右腕か。同時に倒せば、倒した方向に胴体が旋回。指先のレバーは五つに分かれており、引く事で対応した指を曲げる事が出来る。ニュートラルでは開いたままだ。足元のブーツ型のペダルが脚部の操作。両足同時に踏むとオートで前進か……まるでゲーム感覚だが、動かせない訳ではない。


 操作感覚も、昔やり込んでいたアーケードのロボゲー《天体のアルゼータ》に近いな。最も、未だ使い道の分からないボタンやレバーが一杯あるので、過信は禁物だが――



「……三号機の支援って、言ってたよな」



 兎にも角にも、命令された以上、従わなければいけないだろう。良く言えば従順。悪くて思考停止。この訳の分からぬ状況で正気を保つ為に、俺は言われた事だけをやり遂げようと考えた。


 画面右下には付近周辺のミニマップが表示されている。点在する青いマーカーが味方なら、赤い方は敵という事か。……こんな所もゲーム的だ。それとも、ゲームが現実に寄せていたのだろうか? 現実……果たして、この奇怪な状況は現実か?



「……駄目だな。冷静に……冷静に……」



 首を振って、頭を冷やす。雑念は後で良い。今は目の前の事に集中しよう。青いマーカー……その上に表示された『3』の数字。恐らくはコレが三番機だろう。……赤いマーカーが近い。というか、コレはもしかして、取り付かれているのか?


 アームスティックとフットペダルを操作して、俺は斜めになっていた自身の機体を元に戻す。足回りが無事なのが幸いか。動かしてみると、激しい上下の揺れと共に、時速40km程度の速度が出た。これが最高速度という訳では無いが、車の方が圧倒的に速く、乗り心地も良かったな。と、内心で愚痴りながら、俺は荒れた道路を慣れぬ機体で駆け抜けた。



「――!!」



 青いマーカーの付近へと到着すると、倒壊したファミレスの壁に、黒い人型がめり込んでいる姿が見えた。壁で機体を挟み、揉み合う様にしているのは、見た事もない様な巨大な怪物であった。無機物か有機物かも定かではない、不可思議な敵。全長は5mはあるか? 灰色の体表は硬質的なプラ板の様。頭は無い。あるのは首部に取って付けられたかの様な大きな歯だけである。機体より一回りも大きなソレは、六本足で歩き、前腕二足でもって、踠く機体を固定していた。


 怪獣。そう、まるで昭和の特撮番組から出て来た様な――怪獣としか形容が出来ない生物。


 機体を押し倒し、怪獣の口がガパリと開く。そうして目の前の機体を噛み砕かんとした、その時――俺は咄嗟に、右スティックのレバーを全力で握っていた。


 Equip……Gun / ON


 描画された機体の右腕に、そんな文字が浮かび上がる。映し出された画面にターゲット・サイトの様な物が浮かび上がったと同時、俺は再度、右スティックのレバーを握り込む。前腕部装甲から飛び出す様に展開されたのは大型のガトリング砲だった。銃身が回転すると同時に火花が飛ぶ。飛び散っているのは薬莢か。人に当たったら余裕で死ぬな。


 敵と思われる巨大怪獣へと放たれた火砲は、狙い違わずその胴体へと突き刺さる。連発する射撃はその身をズタズタに切り裂き、コールタールの様なドロドロな黒い血飛沫を上げた怪獣は、やがて原型すら分からぬ程に破壊されてしまう。



「――」



 撃った。殺った。


 で――次は?



「下がって!! 六番機!!」


「ッ!?」



 倒れた三番機からの通信!?


 真横から迫る何かの気配を察知した俺だったが、生憎と瞬時に後退出来る程の技量は無い。反射的にフットペダルを操作し、機体の右足を上げさせると、不恰好なままその場で横転する。直後、機体の上部からはモニターがザラつく程の熱閃が通過した。



「ぐ――っ!?」



 周囲の電線を断ち切り、離れた民家に風穴を開けたその熱線は、停められていた乗用車のガソリンに引火し、小規模な爆発を引き起こした。


 コクピットの中と言っても、安全ではない。


 高温となった外気を受け、焼ける様な熱を感じた俺は、スティックを同時に片側へと入れて横転したまま機体を転がす。熱源からの緊急避難。そのついでに――現れた新手をガトリングで撃つ。



「……当たらない、か」



 随分と腕が鈍っている。最後に《アルゼータ》を触ったのは、もう十年以上も前だから仕方が無いか。そもそも、このガトリング砲の有効射程はいくつなのだろう? 遠距離から熱閃を放った敵は信号を三つ先まで離れていた。モニターを拡大する事が出来れば、その外見も詳しく見れるのだろうが、操作方法が分からないので如何ともし難い。



 というか――もしかして俺、死に掛けたのか?



 三番機からの通信が無ければ。

 機体操作が遅ければ。


 もしかしなくとも――死んでいた?


 ゾクリと、汗が怖気と共に首元に伝う。



「……やめろ、考えるな、今は――」



 呟くと同時に、熱閃を放った怪獣のマーカーがモニターから消える。……友軍か? すぐさま機体を立ち上がらせると、俺は近くまで接近していたマーカーへとガトリングを斉射した。



「消えた」



 ミニマップは大した誤差もなく現実と連動している様だ。建物の影から息絶えた二足の小型怪獣を目にしながら、俺は落ち着く様にそう考える。



「……回線は、このボタンか?」



 スピーカーの下のボリュームを弄り、俺は三番機への通信を試みる。周波数のセットは何通りか登録されている様だ。間違っても別の場所にいる友軍と交信するのだけは避けたい。threeと表記されたセットは見付けたが、念の為、外部スピーカーでやり取りをするか。



「……三番機、聞こえるか?」



 俺がそう言うと、機体各部のスピーカーからビリビリとした音声が発せられた。……余りにも大きな音量に此方がたまげる。歩行者が居たら大変だっただろう。騒音被害で訴えられるぞ。内心での失敗に焦りつつ、俺は三番機の動向に注目した。



「六番機ね。ありがとう、救援感謝するわ」



 返って来た言葉は、同じくスピーカー音声での感謝であった。俺に合わせてくれたのだろう。彼方の方は音量は程々である。


 彼女――そう、三番機の操縦者は女性である。声の感じからそう判断していた。憶測だが、間違ってはいないと思う。



「その様子だと、自立は無理か……」



 倒れた三番機を見ながら、俺は呟く。ライノスとか言う怪獣にやられたのだろう。左脚のフレームはひしゃげており、関節が稼働していない。右の方も同様だ。こっちは足首が潰されている。下肢のダメージに注目が行くが、決して上半身が無事という訳でも無い。動体部――コクピット周りに傷が無いのが幸いか。周辺部位の損傷度合いを見るに、俺達の機体は"柔らかい" ――当たり所が悪ければ、すぐにあの世に逝っていただろう。



「……ぇ、……ッチを……けて!」



 内部のコンピューターが無事って事は、手足を付け替えるだけで修理は事足りそうだな。トレーラーで牽引出来れば、戦場から連れ帰る事だって出来るとは思うんだが……さっき話した指揮官らしき人が、それを許してくれるだろうか? 忙しそうだったし、煩わせるのは不味いかも知れない。



「……六……機! ……ちょっと!」


 

 三番機の援護をするという任務を終えた俺は、指示待ち人間宜しく、取り止めのない事を思考していた。別名、現実逃避とも言う。



「六番機! 聞いてるの! ねぇ!?」


「――うぉ!?」



 バンバンと、両手でコクピットハッチを張られ、俺は漸く現実へと回帰する。目の前にいたのはグレーのパイロットスーツに身を包んだ少女。顔は被ったヘルメットで窺い知る事は出来なかったが、すらりとした手足と、浮き出た身体のラインが彼女の美貌を期待させる。


 ――オヤジか、俺は……。


 想像しておきながら、自身の下世話な考えに辟易してしまう。三十路だしな。実際にオヤジか……何か、改めて自分の身体を見下ろしてみたら、十代の頃の身体に若返ってる様に見えたんだが、流石に気の所為だろう。うん、気の所為。これ以上の異常事態は脳のキャパシティを超えている。彼女が何かを言っている様だし、今はその事に集中しよう。



「そっちに移るから、ハッチを開けて!」


「ハッチって……どうやって?」



 思わず、本心からの困惑が出てしまう。



「貴方、訓練生? 習って無いの!?」


「あ、あぁ……」


「足元の横にレバーがあるのは分かる?」


「レバー……これか?」


「それを引いて!」



 言われるままに、俺は足元のレバーを思い切り引いた。空気の抜ける音と共に、正面のハッチが開き、キャノピーが上へと持ち上がる。


 久しぶりに、外の空気を吸った様な気がする。

 実際には、そんな事は無いんだけど。


 開いたコクピットの先から、長く黒い後髪が飛び込んで来た。ピッタリとしたお尻のスーツが太腿に乗る。重くは無く、むしろその軽さに驚いた時、彼女は首だけを後ろに傾け、俺の目を見た。



「藍沢涼音。私の名前よ。暫く宜しく」


「あ、あぁ……」


「通信、弄らせて貰っても良い?」


「むしろ、頼む……」


「はいはい」



 情けの無い返答を気にも止めず、彼女はテキパキと己の仕事を熟していく。何か、こう言う時のマニュアルでもあるのだろうか? 訓練兵と呼ばれて「はい」と頷いてしまったが、違ったらどうしよう? そんな不安を抱きつつ、俺は繋がった通信と彼女のやり取りに耳を傾けた。



「六番から指揮車。三番機は大破。六番機は左腕を失っているが、走行に問題なし。三番機パイロット・藍沢が訓練兵と搭乗中。指示を求む」


「指揮車から六番。三番機は捨てて良し。大宮駐屯地はこのまま放棄する。殿は鷲宮の部隊が担当する。六番機はそのまま国道17号を北進。宮前インターチェンジからトレーラーに乗ってくれ」


「……了解、しました……」



 通信を切ってから、藍沢という少女は肩を落とした。俯いた顔に、後ろの俺が何事かと首を伸ばした時、突然彼女は被っていたヘルメットを足下へと投げ付け、憤懣を露わにする。



「ど、どうした……?」



 思わず声を掛けてしまったが、彼女の迫力に押されて、若干声が上擦ってしまう。見えた素顔は想像通りの整った顔面。読書モデルと言われても納得してしまいそうな、クラスに一人はいる美人さんである。……最も、今は鬼気迫る表情を浮かべており、美人かどうかで喜べる様な心境では無かった。端的に言って――怖い。



「どうもこうも、聞いた通りよ! 埼玉は堕ちた! これじゃあ東京の二の舞いじゃない!? 次は何処に移動するのかしら!? 群馬? 栃木? どちらにせよ、このままじゃ何も変わらない……徐々に連中に侵略されて、終わりよ!!」


「侵略……」



 薄々勘づいてはいたが、やはりこの戦いは侵略戦争からの防衛戦だったのか。口振りから察するに、東京が既にやられている様だが……一体どう言う状況なのだろう?


 ……まぁ、考えるのは後回しか。


「――っ、と!」


「取り敢えず、移動する」


「……マイペースなのね、貴方……」


「……」



 機体の歩行を開始させると、藍沢という少女は揺れるコクピットの中でバランスを取りながら、俺相手に恨みがましい視線を向けて来る。


 そんな事を言われても。戦場の中で悠長にしている豪胆さは俺には無いのだ。後退しろと言われれば、喜んで後退するさ。実際、今が嘘みたいな状況なんだから、尚更だ。そも、此処が埼玉県だって言う情報だって初耳なんだぞ? 俺の元居たアパートは東京の八王子だ。寝て起きて、何でこんな場所に転移してやがるんだ? 意味が分からん。



「貴方! ねぇ! 貴方!!」


「……何だ?」



 折角、現実逃避が上手くキマッていたのに、現実に引き戻すんじゃないっつーの。……無視したら後が怖いから、一応返事だけはしとくけどね。



「まだ、名前聞いてないんだけど?」


「名前? 俺の?」


「そう」


「名乗る必要、あるか?」


「……それ、どういう意味?」


「だから――」



 ああもう、本当にコミュニケーションって言うのは苦手だ。普通に話してるだけなのに、何でそう苛立った声を出すんだ? 俺が君を害する様な事を言ってるか? 頼むから敵意だけは向けないでくれ。面倒臭いから。



「俺みたいな暗い奴の名前なんて、アンタが知る必要無いだろ? 覚えるだけ、脳の容量の無駄遣いだ」


「……なにそれ?」


「……」


「え? もしかして、本気で言ってる?」


「……問答は終わりにする」


「ちょっと!」



 無言のまま、俺は機体を北進させる。土地勘は無いが、要は高速道路に入れば良いのだろう? なら、標識通りに走らせれば良いだけだ。ミニマップもあるし、簡単簡単。



「……ねぇ。貴方のソレって、戦争の所為?」


「……」



 神妙な顔をした藍沢が、何か見当違いな事を言ってくるが、俺は無視する。というか、話せないんだから無言を貫くしか無いだろう。



「分かるよ。親しい人が亡くなる気持ち。失う痛みが強過ぎて、臆病になって、新しい関係性を築きたく無いんでしょ? でもさ、それで逃げてちゃ駄目だと私は思うんだ」


「……」


「それは、連中相手に負けを認めるのと同じ事だよ。私達はまだ生きてるんだ。生きて戦って、抗っている以上、前を向いて生きて行かなきゃ」



 ……随分と良い事を言っているな。後で素面になったら恥ずかしくなる奴だ。こんな事を考えるのも、俺が捻くれているからか?


 精神面のフォローはさておき、俺は彼女の言葉に一個だけ疑問点が浮かんでいた。大きな大きな、根本からの疑問である。流石にこれだけは訊ねない訳にはいかないだろう。



「……なぁ」


「え?」


「連中って、何者なんだ?」


「それも習ってないの!?」


「不勉強なもので……」


「限度があるわよ!? 全くもう……!」



 ぷりぷりと怒り出す藍沢。


 すまねぇ。


 しかし、元々習ってない事を知る事は出来ない。平和な世界から気が付いたら此処にいたなんて、正直に話しても信じて貰える気が1ミリもしないし、俺はこれからも無知を装うしかないのだろう。想像しただけで、気が滅入る。



「良い? アイツらはね――」



 一体全体、これからどうなって行くのだろう?


 何処に行き、何処まで到達するのか。


 国道17号を、ただひたすら走りながら、俺は藍沢涼音の言葉に耳を傾けた。人型巨大ロボットを操縦するという、非現実的な出来事に、俺は何処まで折り合いを付けられる?



「――日本を侵略しに来た、宇宙人なの!」


「はぁ」



 ……やっぱり、無理かも知れないな。


 出そうになる溜息を抑え、脳内で愚痴りながら、俺は手元のスティックを操作する。



 ――ロボットの操縦だけは、好きだけどね。



 お読み頂きありがとうございます\\٩( 'ω' )و//


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