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なくしたキップ

作者: 窪宮彩

「あれっ、たしかこの辺にいれたはず」

 電車を降りるとき、ぼくはキップがないのに気がついた。

 取りあえず、電車を降りて近くのベンチにこしかける。

 背中のリュックをひっくり返し、一つ一つ荷物を確認する。


「おかしいな」

 もう一度ポケットを確認する。

 右、左、後ろ。


「やっぱりない」

 サイフのお金は、今日に限って50円しかない。

 さっき、アイス食べなければよかった。

 まぁ、いいや。

 ぼくには、ケータイがある(子供用だけど)

 早速、家にかけてみよう。


「あれっ、確かこの辺に入れたはず」

 なのに、なんでケータイないの。

 

 あせってたちあがると、地面に見覚えのあるケータイが転がっていた。

「よかった。さっきリュックをひっくり返したときに落としたみたいだ」

 ケータイを拾って、電源を入れる。


「あれっ、うそだろ。電源が入らない。まさかこわれたのか」

 もう一度ためしてみたが、ケータイはうんともすんともいわなかった。

 おちつけ、おちつけ。

 いよいよ、あせりはじめた。

 どうしよう。

 駅員さんに相談しようかな。

 でも、大人の人が少しこわい。

 どうやって言ったらいいのかな。


「こら、ガキが偉そうにすわっているんじゃねぇ!」

 急に後ろから話しかけられて、ぼくはびっくりした。

 ふりむくと、赤い顔のおじさんが酒のビンをもって、ニヤニヤしていた。

 ぼくは、怖くなって慌ててその場から立ち去った。

 やっぱり大人はこわい。

 

 駅の改札の近くは、人がいろんな方向から来て、

 ふらふらしているぼくに何度かぶつかりそうになり、時々にらまれた。

 負けるものか!

 人の海をかき分けてようやくかべぎわにたどりついた。

 もう、家はすぐそこなのにキップがないから、そこからでられない。

 家に電話をかけたくても、ケータイこわれたみたいだからかけられない。

 駅員さんに話しかけたいけれど、大人は怖くて話しかける勇気がでない。

 どうしよう。

 わーんって、子供みたいに泣きじゃくるほどぼくは子供でもないし、

 どうしたらいいんだろう。


「ちょっと、そこの僕なにしているの」

 またべつの人に話しかけられた。

 こんどは、さっきのお酒のおじさんより怖くないけど、

 このかっこうみたことある。

 たぶんおまわりさんだ。

 悪い人を捕まえる人だからいい人だけど、

 やっぱり何か怖い。特に顔が恐い(ごめんなさい)


「どうしたの?」もう一度話しかけられて、今度は正直に言おうとした。

 まさにその時、ぼくの背後から声が聞こえた。

「ちょっと、その子私の弟です!」

「トイレに行っている隙に、どこかへいってしまって探していたんです」

 そう言ってお姉さんは、ぼくを見てウインクした。

 助けてあげるってかすかに聞こえた。

「じゃぁ、だいじょうぶだね」

 そういっておまわりさんは、ぼくの目の前から消えて行った。


「ありがとう、助けてくれて」ぼくは、お姉さんにお礼をいう。

「世の中、いい人ばかりじゃないよ、私も含めて。じゃあね」

 そう言ってお姉さんは、ぼくにキップを渡して人混みの中に消えていった。


 数日後、ぼくはあのお姉さんをテレビで見かけた。

「この人が、キップをくれた人だ。ぼくを助けてくれたんだだよ。でもようぎしゃってどういう意味?」

 おかあさんに得意げに話したぼくの質問に、どうやって答えようか困っていた顔がどうしても忘れられない。

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