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助けた理由

「改めて礼を言おう。二人のおかげで助かった」

「そんな堅苦しいしゃべりかたしてたらバレちゃいますよ」

「ぬぬ」

「だいたい、リッセの素はもうバレてるしね」

「な、何を言っている。それにリッセと呼ぶなと言っただろう」

「だーかーらー、その堅苦しいのを止めなって」

「しかしアイカ」

「いいの。少なくともここにいる間は庶民の子供のリッセちゃんなんだから。それに、『タオレン君』を見たときさ、滅茶苦茶子供らしい表情してたじゃない。あっちが素なんでしょ。貴族の跡取りじゃない、12歳の少年の素顔」

「そうか、いや、気付かれてましたか」


 途端にロニトリッセの顔から張り詰めていた緊張が消えてしまう。演技派俳優も真っ青のスイッチの切り替えっぷりだ。ちなみに宿に入った後、ロニトリッセの女装は解いてあげた。といっても、元の服は血だらけなので前の宿を出たときと一緒で、オルトの服を着せてるからぶかぶかだ。服もどうにかしないとダメかもね。


「そこまで雰囲気変わるのね」

「それはアイカさんのほうが顕著じゃないですか。商人として現れたときと、さっきと全然顔が違いましたよ。それに今も」

「ふふふ、女はいくつもの仮面を持つものなのよ」

「出来れば一つにしてくれ。こっちの身が持たない」


 やれやれと肩を竦めるような仕草をするオルトに、ロニトリッセが不思議そうに首を傾げる。


「さっきから思ってましたけど、お二人って商人と護衛という感じじゃないですよね」

「だって商人と護衛じゃないもの」

「そうなんですか」

「そうだよ。そもそも商人じゃないし。ちょっとお金が欲しくて、貴族のボンボンならあんなおもちゃでも高いお金出してくれそうだったから商人の振りをしたたの」

「えええええぇ、そうだったんですか。でも、あれは中々の品だったと思いますよ」

「後でカグフニさんに怒られなかった」

「はは、まあ。大金貨はやり過ぎだと」


 苦笑いを浮かべる様はやっぱり子供らしくない。仮面をとっても敬語が抜けないこともそうだけど、やっぱりベースとなる教育っていうのはあるんだろうね。


「だよね。でも、お蔭でそのウィッグが買えたわけだし、ウィッグがあったからこそ変装して宿に入れたんだから結果オーライってところだよね」

「そもそも何でウィッグを。この手のウィッグは普通貴族のご婦人がつけるもので平民が身につけるというのは聞いたことがないです」

「だよねー。馬鹿みたいに高かったもの。変な誤解はしてほしくないけど、私たちってばお尋ね者なのよ。それで変装の必要があったの」

「なるほど、確かに黒髪というのは目立ちますからね――。ん、黒髪に黒目の女性と金髪の剣士? もしかしてアンダートの森の村を滅し、ユルイスの街で男爵を―――」

「うへぇ、やっぱりその話って広まってるのね」

「ってことは」

「そうだけど、そうじゃないから」

「何か誤解があったんですね」

「わかってくれる」

「はい」


 屈託のない笑顔で言われると罪悪感を覚えるのは何でだろう。まあ、何もしてないというと多少の語弊があるのは事実だからだろうか。


「あの、一つお尋ねしてもいいですか」

「ん、いいよ。何でも聞いて」

「アイカ、ちょっと馴れ馴れし過ぎないか」

「いえ、気にしてませんので」

「ほらほら、ロニー君もこう言ってるし」

「ロニ……流石にそれは……」

「大丈夫ですよ。子供のころはよくロニーと呼ばれていましたので、リッセと呼ばれるより僕もその方が嬉しいです」

「そ、そうか」

「そうだよ。オルトもうっかり外で様付けしないように気を付けてね」

「くっ、努力する」

「ふふ、本当にオルトってば真面目だよね。で、ロニー君、質問って」

「あ、ああ。そうでしたね。えっと、さっきは僕を助ける義理はないっていいましたよね。なのになんでこうして助けてくれるんですか。助けてくれたことには感謝してます。でも、不思議だったので」


 あのまま流してはくれなかったか。ロニーだけでなく、オルトも興味深そうに私の方を見ている。そんなに私が人助けをするのが不思議なのだろうか。間違ってはないけど。


「お金のためだよ」

「それはでもリスクが高すぎるって」

「もちろん、他にも理由はあるよ。さっき言ったけど私たちはお尋ね者なんだよ。でもね、私もオルトも旅をしている理由があるの。そんな時に、お尋ね者だと街の出入りも難しいでしょ。だから、ロニー君には公爵家の力で私たちの汚名を払って貰えないかなって。

 私たちが犯罪者に仕立て上げられているのはユルイスにいた男爵の力によるところが大きいと思う。それを打ち消すならもっと大きな権力が必要なんじゃないかしら。公爵家に勝る権力はないと思うけど違う?」

「それくらいのことはできると思います」

「でしょ。よかった」

「そんなこと考えていたのか」

「そりゃそうよ。私が善意で人助けなんかすると思った」

「思ってるよ。孤児院のこともあったし、アイカは子供には優しいから」

「それとこれは別なんだけど、さて優しいアイカさんはロニー君に朝食を食べさせてあげたいと思うんだけどどうかしら」

「そうだな。じゃあ、ちょっと飯を買ってこよう」

「ウィッグあるし変装した私の方がよくない?」

「いや、俺が行こう。アイカは疲れてるだろ。屋台はすぐ近くだし、気を付けるさ。お貴族様が食べるようなものではないですが、我慢してください」

「大丈夫です。状況は理解していますから」

「じゃあ、お願いするね」


 ロニー君が目覚める前に精霊術を掛けていたのでマナ不足で疲労感が拭えてなかったから、オルトの厚意に甘えることにした。

 一階の食堂でもいいけど、そうなるとロニー君にはリッセちゃんになってもらわないといけないわけだ。オルトが出かけて二人きりになったところでロニー君が真剣な顔で向き直った。


「聞いてもいいですか」

「どうしたの改まって」

「僕を助けてくれた理由って本当にあれだけなんですか」

「なんで、オルトがいなくなってから聞き返したのかな?」

「それは……何となく」


 言葉を濁しているということは、明確な何かがあるわけじゃなく違和感を感じたのかもしれない。適当にごまかすことも出来そうだけど、この子の洞察力なら嘘は簡単に見抜かれそうだ。貴族の子供がみんなそうなのか、この子が鋭いだけなのか。


「アイカさんはすごく優しい方だと思います。もちろん、ああいう建前があるというのもわかるんです。正直言うと貴族の社会は建前ばかりで誰も本音を口にしません。だから路地でアイカさんの言ってくれた言葉がすごく嬉しかったんです」

「嬉しいって、かなり厳しいことを口にしたつもりなんだけど」

「父や教育係の人は叱ってくれます。でも、それは本音とは違うんです。アイカさんやオルトさんが助けようとしてくれることだって下心があるんだろうって」

「下心はあるってさっきも言ったよ」

「そうじゃないです。そうじゃ……。アイカさんに命を賭ける義理がないと言われてハッとしました。

 貴族のために平民が命を懸けるのは当然だと思っていましたし、そういう風に教育されてきたんです。でも、平民の本当の気持ちなんて知らなかったんです」


 随分と偏った教育方針だわ。

 貴族社会のことはわからないけど、そういうものなのかな。平民の上に貴族が立っていると。周りの人が傅いていると錯覚してしまうのだろう。自分は偉く高貴なものなのだと。ある部分では正しいんだろうけどね。


「お二人には旅をする理由があるっていいましたよね。そのために足枷を外したいと。でも、目的があって旅をしているのだとしたら、ここで命を賭けるのはリスクが高すぎませんか。わざわざ変装するための道具も手にしていたのに」

「貴族の子供ってみんなそうなの? 本当に鋭いよね。ロニー君はさ、命を狙われる理由に心当たりはあるの」

「……あります」

「そっか。そうなんだ。でも、それってロニー君が悪いの」

「それは違うと思います」

「でしょ。それが理由よ」

「どういう意味ですか」

「私にも経験があるの。理不尽な理由で殺されそうになったことがね」

「えっ」

「ああ、そんな暗い顔しないでよ。過去のことだし、気にしてない。でも、この話はオルトにはしないでね。意味もなく、責任感じてるらしいから。まあ、そんなわけでさ、ロニー君を救ってあげたいなってちょっと思ったのよ。ただ、それだけのこと」

「それだけのことって……」

「ちなみにオルトがロニー君を助けたことに理由はないと思うわよ。オルトはマジでいい人だから、困ってるロニー君を放っておけなかったんだと思うもの」


 その時、トントンと軽快に階段を上がる物音が聞こえてきた。オルトが帰ってきたのだろう。ドアを開けると海鮮のいい香りが漂ってきた。

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