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追手

 しばらく休憩した後、ドレイク狩りやロニトリッセの血で汚れた衣類を着替えたオルトに事情を聞くことにした。大量のマナを消費したおかげで長距離を走った後のような疲労感があって結構しんどい。体を起こすのもおっくうなので寝転がったままである。


「で、どういうことなの」

「ロニトリッセ様を狙う賊がいたということくらいしかわからん」

「護衛の人たちはって聞くまでもないか」

「ああ」

「それで何でここに連れてきたの」

「……迷惑だったか」


 別にトラブルの種になりそうなことを咎めているわけではない。カンちゃんのこともあるから私なら多少の治療ができると思ったかもしれないけど、普通に考えて聖光教会に連れて行くほうがいいに決まっている。状態が酷かったこともそうだけどロニトリッセは公子であるし、教会が治療を渋る可能性は無いと思う。


「そんなんじゃないよ。怪我もひどいし聖光教会の方が間違いないと思ったから」

「それは俺も真っ先に考えたんだがな、ロニトリッセ様たちを見つけたのは宿のすぐ近くだったのもあるんだが、一緒にいた護衛が街兵に気をつけろって言い残したんだ。街中はロニトリッセ様が襲われたこともあって街兵がうようよしているし、見つからずに教会に向かうのは無理じゃないかって」

「街兵に襲われたってこと?」

「それだけ言い残して逝ってしまったから詳しくはわからない。ただ……」

「街兵そのものが敵か、襲撃者が街兵の変装をしているってことね。見分けが付かないなら避けるしかないか……。うん、それならここに来たのが正解ね」


 正解だとは思うけど、果たしてどうしたものか。

 街で聞いた話によればロニトリッセはイーレンハイツ領主の次男坊、しかし正妻の子ということもあるので第二夫人の子供である長男よりも継承権は上にあるらしい。でも、長男はそれを不服に思っている。つまり、私たちはそういうごたごたに巻き込まれたかもしれないということだ。

 これはちょっとどころか相当不味い状況である。


「すまない……やっぱり迷惑だったよな……」

「ん? ああ、いやいや、ごめんごめん、そういうんじゃないの。ちょっと考え事をしていただけだから」


 私が急に黙り込んだのを見てオルトが勘違いしたらしい。いまにもロニトリッセを連れて宿を替えるよ、と言いかねないくらい申し訳なさそうな顔をしているのを見て慌てて否定する。


「どうしたらいいか考えていたの。ロニトリッセ様って伯爵のところに逗留しているんだよね」

「ああ、だけど街兵が襲撃者だとすれば、伯爵様が命令を下している可能性が高い」

「伯爵に連絡して終わりってわけにはいかないか。どうにかして伯爵が関与しているかどうか判断できないかな。味方だったら逃げ回る必要もないわけじゃない」

「確かにな……」


 オルトが言葉を濁すのはそれが難しいのがわかっているからだ。

 私たちが伯爵家に連絡をとれば、敵であれ味方であれ喜んで使者を遣わすか、馬車でも出して盛大に迎えに来てくれると思う。でも、敵だったなら引き渡したが最後、ロニトリッセはきっと亡き者にされてしまう。


 そうなるとロニトリッセを匿っているこの状況ははっきり言ってよろしくない。宿の部屋に上がるには、一階の食堂を通り抜けるしかないわけで、確実に誰かに見られた可能性が高い。ロニトリッセは良くも悪くも目だつ。怪我をしていることもそうだけど、銀髪の美形の男の子というは隠しようがない。


「はぁ」


 私は大きく息を吐き出すと、疲労感の強い体を無理やり引き起こした。


「急いで荷物をまとめるわよ」

「逃げるのか」

「オルトが怪我人を連れて宿に入ったのって見られてるよね。だとしたら遅かれ早かれ伯爵家から使いは来ると思う。伯爵家が敵か味方かわからない今は距離を置いてた方がいいと思う」


 荷物をまとめに入るけど気だるさが強くて体の動きがもっさりしてる。もともとドレイク狩りをせずに出発する予定だったから食料なんかはすでにある。パッキングさえできれば街から出るのは問題じゃない。ただ、大怪我を負っているロニトリッセに旅は厳しい。


「だけどどうする。検問もあるし巡回している街兵も多い、街門もおそらく閉じられているいま外に出るのは厳しいかもしれないぞ」

「うん。でも、少なくともここは離れた方がいいと思う」


 ルーデンハイムはそれなりに大きい街なので、身を隠すところくらいならきっとあると思う。それこそオルトが情報収集をしてきたスラム街の方に足を向けてもいいかもしれない。怪我人もいるから落ち着ける場所が欲しいけども、贅沢は言ってられない。

 手早く荷物を詰め込んだところでオルトがロニトリッセを抱えようとする。


「待って、ロニトリッセ様は私が背負うよ。オルトは荷物をお願い」

「逆の方がよくないか」

「ううん。いざというときオルトが素早く動けた方がいいと思う」


 万が一、街兵あるいは街兵モドキと戦うことになることがあればオルトに頼るしかない。リュックなら両手は自由になるから、多少の荷物があってもオルトは武器を振るえる。けど、子供を抱えていたらそうもいかない。ロニトリッセ様は12歳の子供といっても、150センチくらいはありそうだし軽くはない。けど、ここは私が頑張るしかないのだ。


「それはそうだが……」

「背負うのが無理そうだったらお願いする。とりあえずやってみよう」

「わかった」


 私がベッドの前で腰を落としたところで、外が急に騒がしくなった。


「間に合わなかったかな」

「下がってろ」


 私とロニトリッセを庇うように前に出てドアに意識を向ける。

 どかどかと荒々しい音を立てながら階段を駆け上がる音が聞こえ、こちらに近づいてくるのがわかった。間違いなく音の正体はこちらに向かっている。

 レムリアの街でそうしたように窓から飛び出すのは、ロニトリッセがいる以上絶対に無理だ。


 こちらです。

 という、宿の主人の声が聞こえドアがノックされる。


「開けろ。中にいるのはわかっている」


 オルトが目配せをして静かにドアを開けると予想通りユーデンハイムの街兵の制服姿の男たちが立っていた。少なくとも三人、廊下の奥までは見えないけども。

 やっぱり服装だけでは本物か偽物か区別がつかない。

 彼らの先頭に立つ男がベッドに寝かされているロニトリッセの姿を確認すると、廊下の奥に合図を送りもう一人が姿を現した。

 

「カグフニさん?」

「これは……」


 私たちがいるとは思っていなかったのか、その顔には驚愕が張り付いた。驚いたのは私たちも同じだったけども、いち早く衝撃から回復したカグフニがベッドで横になるロニトリッセに目を向けると、改めて私たちの方に向き直った。


「なるほど、奇妙なあの商談はそういう意図があったのですか」

「は?」

「そういうことなのでしょう。一度取引をした相手なら警戒も緩むだろうことを見越して商談を行い、次に街中でロニトリッセ様を見かけたときに悪意を持って近付く」

「何を言って……?」

「お前たち、こいつらを連れていけ。ロニトリッセ様の誘拐及び、護衛殺害犯だ」

「!!」


 不味い不味い不味い!!

 こんな事なら商談の場で偽名を使っておくべきだった。そうすればレンとソフィアという架空の人物に罪を擦り付けることもできたのに!!

 って、そんなことを考えてる場合でもない。

 まずはここから逃げないと。

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