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次はどこに行く

 宿の一階にある食堂で夕食を食べながら、オルトが仕入れてきた情報の整理をしながら、改めてそんな話をしていた。

 食べているのはアクアパッツァみたいな感じの魚料理で、これもかなり美味である。もちろん、ワインも開けております。


「貴族との関係ね……」

「貴族本人とは限らないし、情報も正しいかはわからないけどな」

「でも、それを確かめる術もないってことね」

「貴族が絡んでくるとは思わなかったからな」


 オルトは暗い表情をしている。

 貴族がらみになってくると一般人が調べるには限界があるし、貴族の屋敷にでも匿われていればオルトにはどうすることもできなくなってしまう。それは私も同じだけど。


「でもさ、本を盗んだことと貴族が関係あるとは限らないんじゃないかしら」

「どういうことだ」

「だって、アルバートって元々ノーブレン出身の兵士なんでしょ。それがイーレンハイツに属する伯爵家とつながりがあったっていうのは無理がないかしら。わざわざ遠く離れた地の兵士に仕事を頼まなくても近場で見つけられるでしょ」

「つまり、今回の件はただの金策のようなもので盗みとは関係がないと」

「たぶんね。腕が立つなら鬼獣狩りをするのも手だろうけど、それは無理って話だったよね」

「狩人ギルドは国の機関だからな。犯罪者は利用できない」

「でしょ。となると、生きていくわけにはお金は必要だと思うのよ。どうやって伯爵家とつながりを持ったかまではわからないけど。そもそも何のために本を盗んだんだろうね」

「召喚術を使うためじゃないのか」

「それは手段でしょ。召喚術で何をしたいのか? 何を召喚したいのかがわからないじゃない」

「……確かに」


 パンにアクアパッツァのスープにつけて口に運べば豊潤な磯の香りが胸いっぱいに広がる。この街、最高だわ。島出身ってこともあって魚介料理が一番身体にあっている気がする。淡水魚と海水魚の違いはあっても、魚介のうまみは同じくらい強い。


「でもさ、アルバートってどうやって禁書の存在を知ったんだろうね」

「ん?」

「だって、ただの一般人が知る由もない書物なわけじゃない。この街の伯爵は別にしても誰かの依頼でそれを手にしたのだとしたらさ、その存在を知っている人が怪しいってことでしょ」

「そうなると公爵家以外には考えられないぞ」


 急に小声になってオルトが答える。召喚術という禁術に関することをしゃべっているだけでも、人に聞かれたら不味いのだからしょうがない。もっとも、周りは酔客ばかりであまり気にしなくてもよさそうだけど。


「あの図書館に入れるのは彼らだけだ。もちろん、護衛の任に付いたことのある兵なら、そういう場所の存在は知っているだろう。だが、中に何があるかまでは知りようがない」

「だよね」

「イーレンハイツの伯爵家が盗みと関係ないとするのなら、アルバートが関係したとしてノーブレン家ということになるだろ。だが、それこそあり得ないだろ」

「たしかにね」


 ノーブレン公爵が中央都市に入っているときに、アルバートに盗ませるのなら自分で盗んだ方がはやいし目立たない。依頼する理由がないのだ。もちろん、次の公爵が王都に入った時に無くなっているのに気づかれたら、疑われるのはノーブレン公爵となるわけで、それを回避するためだと一応の説明はつく。

 でも、それだけじゃ何かが腑に落ちない。


「アルバートってどういうところで育ったの? 誰かの依頼なのか、本人の独断なのか、鍵になるのって中央都市に入る前じゃないのかな」

「誰かの依頼だとしたら、中央都市にいる間に接触した可能性もあるだろ」

「かもしれない。それでも中央都市に入る前が鍵だとは思うよ。例えばそうね、田舎に病気の母親がいて、どうしても大金が必要だったとかそういうバックボーンがあるかもしれないでしょ。リスクに見合った行動を取るにはそれなりの理由があると思うもの」

「そういうことか。それは考えてもみなかった。いや、よく考えればおかしなものだな。同じ町出身ということは知っているが、それ以上のことは何も知らない。何度も飲みにつれて行ってもらったが、あの人の話を聞いたことはあまりない」

「ふーん。なるほどね。そこらへんに何かあるかもね。これ以上の手掛かりはないし、お金もある程度稼いだことだしさ、オルトの故郷に行ってみましょうか」

「あ、ああ、そうだな」


 少しばかり端切れの悪いオルト。田舎にいい思い出がないのかな。まあ、私も友達を島に案内したいかといえば、確実に嫌だと応えるけど。


「話は変わるけど、前々から疑問だったんだけど。精霊教徒は精霊術、魔神教徒は魔術、聖光教会は秘術を使うわけでしょ。召喚術はどうやって使うの?」

「え?」

「いや、そんなにビックリされたらこっちがびっくりだよ」


 オルトが食事の手を止めて目を見開いている。

 マナを用いたそれぞれのファンタジーな魔法だけど、精霊の加護だったり魔神の加護だったり女神の加護だったり、力を使うためには大いなる存在の加護が不可欠なわけだ。実際にどう作用しているのかはわからないけど、精霊がいなければ精霊術は使えない。だとしたら召喚術を使うためにも、相応の存在がいると思う。


「もしかして今まで考えたこともなかったとか」

「あ、いや、まあ、そもそも禁術なわけだし」

「精霊術に対する精霊みたいに、召喚術を使うための存在がいるんじゃないかと思うんだけど違うのかしら」

「いや、そうか。確かにそうだな」

「でしょ。だとしたらもう一つ疑問がわかない? それぞれの加護を得るためには各教会で洗礼を受ける必要があるんでしょ。仮に召喚の神様がいたとして、加護を得るための洗礼はどこで受けれるの? 誰も知らないはずなのに」

「つまり、公爵家以外にもそういうことを知っている人物あるいは組織があるということか」

「その組織の一員としてアルバートが書物を盗み出した。そういう可能性もあるんじゃないかしら」

「その手掛かりもまた、俺の故郷にあるかもしれないと」

「そこまで話がつながるがはわからないけどね」

「……大してデカくもない普通の田舎町だったんだけどな」


 普通の街に見えるところにフリーメイソンのような秘密結社がいる。というのも中々面白い考えかも知れない。実際の所、召喚術に関してわからないことだらけなので、召喚神の加護とかないのかもしれない。私が召喚された時だって、地面に魔法陣が描かれていたけど、精霊術や魔術に魔法陣は必要ないわけで、理が全く違うという可能性は無きにしも非ずだ。


「ワイン、もう一本開けてもいいかしら」

「飲み過ぎるなよ」

「いいじゃん、いいじゃん。お金もたんまり入ったんだしさ――すみません。これもう一本追加で」


 最近知ったのだけど、私はそこそこお酒に強いらしい。さらに付け加えると、魚介料理にワインが合うというのもだんだんわかってきた。


「確かにな」

「ふふ、出会ったころに言った言葉をようやく実現したわね。言ったでしょ。お金を稼ぐのなんて私にとっては簡単なのよ」

「ほんとだよ。全く。もういっそのこと、この世界に身をうずめたらどうなんだ」

「ないない。確かにここの料理はおいしいし、生活にもなれてきたけど東京へのあこがれは捨ててないもの。っていうかスマホのない人生とか考えられないから」

「すマほ?」

「私の世界の魔法のアイテムよ」

「さいですか」


 諦めたように笑うオルト。

 どこかで、この世界も面白いと感じ始めている自分を自覚している。でも、やっぱり日本に勝る場所はないと思う。東京にはここよりももって美味しいレストランだってあるし、美味しいお酒もあると思う。


 ん?


 あれ?


 普通に飲んでたけど、私ってば日本に戻ったら未成年じゃない?

 お酒飲めないじゃん。

 もしかして、いま日本に戻ったら一年以上禁酒することになるのか。お酒の味を覚えた私にそれはちょっときつくないですか。


「オルト!! なんで私にワイン何て飲ませたのよ」

「はぁ? 何言ってんだ。しかも追加注文したのはアイカだろ」

「そういう問題じゃなーい」

「いいよ。じゃあ、そのワインは俺が飲むから」

「ダメよ。人のワイン取らないで。それにオルトはお酒弱いから一本以上はダメだって」

「ああ、もう、何言ってるんだ。わけがわからんぞ」

「ははは」


 さっきまでの真面目な話が嘘みたいに私とオルトは遅くまでグダグダになりながら飲んだのだった。


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