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マヨネーズ並みの革命を

「バッグを売りに行くのは午後にして、その前にお昼ご飯にしませんか」

「あ、もうそんな時間なんですね」

「私も手伝いますよ」


 シスターが食事の準備を始めると、子供たちは当たり前のように動き出す。何度も思うけど、なんであんな神父がいるのにこの子たちはこんなに素直に育ったのか疑問でいっぱいだ。シスターがちゃんとしているんだろうけど、それにしてもビックリする。


 シスターが慣れた様子でパン作りと、野菜スープを作り始める。子供たちにもいつもの役割というのがあるのか、シスターが指示することなく小麦粉を取り出して水と混ぜ合わせたり、火を熾すための薪を運んできたりと、それぞれができることをやっている。


「こっちのテーブル使ってもいいですか」

「ええ」


 私は手伝いをすると言いつつも、シスターとは別の作業を行うことにする。

 昨日、夕食を一緒にといったらシスターに遠慮されたものだから、特別なものは何も用意していない。だけど、彼らが手に入れられる食材で何かできないか思案して一つのことを思いついた。


 孤児院にはジャガイモしかないけど、ジャガイモだったら大量にあった。だからそれを利用してみようと思ったのだ。

 シスターにジャガイモを使った料理について聞いてみれば、焼いたり茹でたり蒸したりとすごくシンプルなものばかりだった。

 日本ならポテトサラダやコロッケなんてのも作れる。

 でも、マヨネーズは高いし、揚げ物に使えるほどの油はなかった。揚げ焼きみたいなことなら出来そうだけど、それでも少なくない量の油が必要なのだ。


 そして思いついたのが”片栗粉”だ。

 オルトに確認してみても、そんなものは聞いたことがないというからこの世界にはないのだと思う。同じでんぷん粉でもコーンスターチは? と思ったけど、そっちもないらしい。

 片栗粉があれば唐揚げやあんかけ料理と、料理の幅を広げることができる。これはマヨネーズに匹敵する大発明じゃないだろうか。

 ふっふっふ、にやけが止まらない。


 片栗粉を使った料理といっても、コロッケがダメなのに唐揚げが作れるはずもなく、そもそも鶏肉を買うお金がない。だから、作るのは全く別のもの。

 

 昨日、孤児院から戻ると宿で片栗粉作りに挑戦した。ジャガイモをすりおろして水で洗ってしっかり絞る。そして放置。しばらくして茶色い上澄みを捨てたら水を入れて――、なんてのを繰り返してきれいになったらそれを一晩放置。

 なんとか水分が蒸発していたので、固まりを粉砕してみれば見慣れた片栗粉の出来上がり。記憶を頼りに作業してみたけど、小学校の理科の授業というのも案外役に立つものである。


 こうして片栗粉は確保できたので、私はとりあえずジャガイモを茹でることにする。いつもはいない私がキッチンに立っていると興味津々の子供たちも集まってきた。


「お姉ちゃんは何作ってるの」

「ジャガイモ料理だよ」

「えー、ジャガイモはもう飽きたよ」

「そんなこと言わずに、手伝ってもらえるかな」

「うーん。しょうがないなー」


 ちょっとマセた女の子が腕を組みながらそういうので、手を洗ってくるように指示をする。


「こっちの鍋でジャガイモを茹でるから、お湯を沸かしてもらえるかな」

「はーい」


 手洗いを済ませた子供たちに指示を出せば、女の子が鍋を用意して別の子が水を汲みに行く。そして、ジャガイモの皮をむくのを何人かが手伝ってくれた。いくら子供といっても20人分くらいになるので、一人でやっていたらきりがないからマンパワーをフルに使う。ジャガイモの皮をむいたら今度は鍋に投入してフォークがすっと刺さるくらいまでゆで上げる。

 それを取り出してここからが片栗粉の出番だ。


「このジャガイモをすりつぶしたもので『団子』を作ってくれる?」

「『団子』ってなに」

「『団子』っていうのは……」


 私が作っているのは”いももち”である。茹でて柔らかくなったジャガイモに片栗粉と塩を混ぜで捏ねて丸めて焼くだけである。醤油とかあればよかったけど、ないものねだりをしてもしょうがない。片栗粉は唐揚げやあんかけだけじゃない。色々と出来ることはあるのだ。

 その一つがいももちである。

 独特のもっちりした食感が楽しめるから、子供たちも喜んでくれると思う。


 みんあで一緒になってジャガイモ団子を捏ね捏ねする。小さい手で作られる小さな団子が可愛らしい。

 それをいっぱいいっぱい作ってフライパンで焼いていく。

 シスターの作っていたパンにスープと同時に完成させる。それらを器にいれて食堂のテーブルに運んでいく。みんなが席に着いたところで、シスターが祈りの言葉を上げると、早速とばかりに子供たちがいももちに手を伸ばした。

 ジャガイモ料理だとわかっていても、いつもと違うものが出ていれば好奇心の方が勝利するらしい。

 口に入れた瞬間、子供たちの笑顔が浮かぶ。


「うにーーー」

「なにこれーー」

「おいしー」

「へんな感じー」


 思い思いの感想が口から飛び出てくる。

 初めての食感に驚いているみたいだけど、それが楽しいようで次から次に手が伸びる。もちろんシスターも子供たちの様子を見ながら、新しい料理を口にしていた。


「これは何ていうか、噛み応えがあるというか、不思議な食感ですね」

「おいしいでしょ。いももちっていうの」

「はい。でも、さっき使われていた白い粉は何なんでしょう。あれは小麦粉ではないですよね」

「ええ、片栗粉っていうんだけど、あれも元はジャガイモなんですよ」

「ジャガイモ!」


 シスターが目玉が飛び出すほど驚いて見せる。確かにジャガイモから白い粉ができるとは思わないよね。作り方を知っている私からしても、片栗粉の元がジャガイモだなんて想像もつかない。元々は文字通りカタクリが原料だったらしいけど。


「シスターに言われて昨日いろいろ考えたんです。どうすれば子供たちにも喜んでもらえる料理が作れるかなって。それでジャガイモを使った料理なら問題ないとおもったんです」

「そんな風に考えてくださったんですね。ありがとうございます」

「ふふ、そんなお礼はいりませんよ。おかげで私も片栗粉を作れましたからね。これ、いももち以外にもいろいろと使い道があるんです。だから、片栗粉をこのさき大々的に売ってみようと思ってるんです」

「はぁ、なるほど。材料がジャガイモなら私たちでも買えそうですし、この子たちの反応を見てたらまた作ってあげたいですもの」

「ふふ、シスターには作り方を教えますよ」

「でも、そんなことしてもいいのですか」

「私もすぐに売るための方法があるわけでもないですし、シスターなら勝手に広めたりしないですよね」

「もちろんです。魔神様に誓ってそのようなことは致しません」

「うん。それなら大丈夫だと思う」


 ちょっと甘い気もするけど、シスターのことは信用できると思う。それにシスターが子供たちに贅沢させたくないと言わなければ、私も片栗粉を作ってみようとは思わなかった。だから、これはそのお礼も兼ねている。

 この反応なら片栗粉は売れるという確信は持てた。オルトは何だかんだいうけど、私は常に下心を持っている。

 さて後はこれをどこに売りに行くか。

 と、その前にバッグを売りにいくだったっけ。


 笑顔いっぱいの子供と食事を楽しんだ後は、シスターとともに買い物客のあふれる市場へと移動した。そこで販売を試みたのだけど、これが予想以上の反響が返ってきてビックリだった。

 やっぱり買い物に興じる女性たちは、色味のない籠にうんざりしていたらしい。そんなわけで、私たちの持っていた古着リメイクバッグはあっという間に完売した。


 ま、二つしかなかったんだけどね。

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