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孤児院

 テッドに案内してもらって孤児院にやってきた。

 孤児院は魔神教が運営しているようで、教会の裏手に施設はあった。

 オルトから聞いた魔神教の教えっていうのは、人に上下がなく人に手を差し伸べろって話だったし、魔神教が孤児院を経営しているっていうのは納得できる話だったりする。

 だけど、である。

 そこにいるのが子供に暴力を振るうような神父だとすると、やっぱり魔神教って言葉の響き通りあんまりいい宗教じゃないのかなぁとか思う。


「こんにちは」


 私たちが孤児院の中に入っていくと、ちょうどお昼時ということで食堂にはテッドと同じかそれより小さな子供たちが長テーブルについていた。テッドよりも大きな子供たちはシスターと一緒に配膳とか食事の準備を手伝っているようだった。

 全部で20人くらいだろうか、その誰もがテッドと同じように痩せてみすぼらしい格好をしている。


「テッド!! 良かった無事だったのね。そんな身体で街に行くなんていうから」

「ええ、本当にね。私たちが見つけたときはぐったりしてたけど、いまは少し良くなりました」

「そうですか。ありがとうございます。失礼ですが、お二人は」

 

 嫌味を口にしたのに全面的に感謝されてしまうと、私の方が悪者みたいだ。テッドからシスターはいい人だって聞いていたけど、テッドが殴られるのを黙ってみていたのだとしたら全面的に信用できないと身構えていたのが馬鹿らしくなってしまう。


「まあまあ、自己紹介は後にして、お昼なんですよね。テッドから聞いてみんなの分を色々買ってきたんだけど。お肉食べたい人―」

「「「はーい」」」


 と、大きな声を上げて子供たちがハイエナの如く私たちに突進してきた。うん。子供はこのくらい元気じゃないとって、服をつかむな。っていうか、君はどこを触っている。それは君には早いんじゃないかな。

 私とオルトは屋台街で串焼きとかいろいろ買ってきたんだけど、追剥に遭ったように全部持ってかれてしまった。もちろん、子供たちに買ってきたものだから、問題はないけど勢いが凄すぎる。そのわりに全員に均等に渡るように配っているところが侮れない。

 テッドがみんなで分けようとしたように、そういう教育が行き届いているようだ。


「すみません。ありがとうございます。みんな、お二人にお礼を言いましょう」

「「「「「お姉ちゃん、お兄ちゃん、ありがとう」」」」」


 子供たちが元気な声でそういうと、シスターの祈りの言葉を聞いてからお昼ご飯を食べ始めた。元々テーブルの上に載っていたのはジャガイモしか入ってないようなスープとテーブルロールくらいの小さなパン一個である。毎食その程度じゃ栄養が足りるはずもないし、やせ細るのも仕方がないのだ。


「本当にお二人にはなんとお礼を言えばいいのか。あの、もしかして昨日、テッドが持って帰ってきた食材ももしかして」

「ええ、私たちが」

「そうなのですね。じゃあ、やっぱりテッドは嘘はついていなかったと」

「その言い方だとシスターは信じてくれてたんですね」

「もちろんです。テッドは嘘を付く様な子じゃないんです。でも、私には守ってやることが出来なかった……」

「それを聞いて少し安心しました。この孤児院にいるのがどうしようもない人間ばかりだったらどうしようって思ってたから。ところで神父は」

「この時間は会合の方へ」

「よかった。テッドが神父はいないはずって言ってたからこの時間に来たんですけど、もしも居たらどうしようって思っていたんです」

「それは……」

「少しお時間貰ってもいいですか。教えてもらいたいことがあるんです」


 子供であるテッドから聞けたことは少なく、シスターが持っている情報に期待するしかなかった。真正面から問いただしたところで神父は自分の非を認めないと思うもの。オルトにぶんなぐってもらって終わりでもいいんだけど、それじゃあ解決には至らないと思う。多少の留飲は下がるけどね。


 そうして準備を終えたところで神父が会合とやらから帰ってきた。

 シスターは子供たちほどじゃないけどほっそりしていたのに、神父はいいものをいっぱい食べているのか恰幅のいい禿おやじだった。

 魔神教は精霊教と違って制服があるようで、私のイメージする神父像通りの黒っぽい服を着ている。ちなみにシスターも修道服っぽい格好である。ベールのようなものはないけども。


「なんだ。お前たちは」


 いきなりケンカ腰で神父は入ってくるなりそういった。


「テッドのお友達ですよ。神父様」

「テッド?」


 シスターが間に入ってくれたけど、神父はまさかの疑問形。ちょっと、子供の名前を把握してないなんて言わないわよね。いや、クズ神父なんだからこんなものかもしれない。


「あんたが昨日ぼっこぼこに殴った子の友達って言ったほうがいいかしら」

「なっ」


 声を詰まらせる神父だが、その目がテッドに注がれるあたり嫌味は通じたらしい。すぐに真顔に戻ると、襟を正して答える。


「殴ったなどと人聞きの悪い。あれは悪いことをしたから仕方なくやったのだ。子供のうちからきちんと善悪を教えなければならんからな。嫌な役目だが、これも教育者として必要なことなのだ」

「それは立派なことで。ただ、善悪の区別がついてないのはどっちなのかって話でしょ」

「何のことだ」

「なんでテッドを殴ったの」

「盗みは働いたからだ」

「盗みね~。テッドが何を盗んだっていうの?」

「こいつは小銀貨を持っていた。子供が持つには大金だろう」

「で、なんで持っているか聞いたの」

「聞くまでもないことだ」

「聞きなさいよ。教育者だって宣うのなら、ちゃんと子供たちの話を聞きなさい。殴られながらテッドはちゃんと答えたでしょ。きれいなお姉さんがくれたって」

「おい」


 オルトのツッコミはとりあえず無視しておこう。


「そんな嘘をいちいち信じられるか」

「はあ、この状況でまだそれをいうの。どれだけ察しが悪いんだって話よ。なんで私たちがここにいるのか考えたらわかるでしょ」


 ここまで言っても神父の顔に変化はない。本当に状況が読めないらしい。


「テッドにお金をあげたのが私たちなんだよね。それがどういうことかわかるわよね」

「なっ」

「テッドは嘘を付いていなかったのに、貴方に一方的に殴られてしまったわけだけど、立派な教育者である神父様はこれからどうされるのかしら」


 ああ、嫌味っぽい言い方が板についているのって異世界召喚物のヒロインとしてどうなんだろう。どうせ異世界に行くなら悪役令嬢が似合ってたような気がするわ。

 って別に悪役じゃないんだけど。


「紛らわしいことをするこいつが悪いのだ。大体、寄付金をもらったのならばすぐに私のところへ持ってくればいいものの、こいつは他の孤児たちと街に出かけようとしていた。だから止めたのだ」

「止める必要なんてないでしょ」

「あるに決まっている。まだ子供なんだ。お金の使い方がわかっておらん。見てわかる通り孤児院の経営は大変なのだ。折角の寄付金も、子供たちに任せておけば、そこらで高い串焼きでも買って終わりだろう。だから、大人がきちんと管理しなければならないのだ」

「あー、つまり、テッドから取り上げた私の寄付金は孤児院の経営に回されたと」

「そういってるだろう」

 

 そんなことを堂々と言ってのけるクズ神父に頭が痛くなる。

 なんで、自分の不在時に私たちが訪ねていた理由を考えないのだろうか。私たちは神父が帰ってくるまでに出来る限りの準備を済ませているのだ。

 だから、私は事前の打ち合わせ通りにシスターにお願いをしてみせる。


「シスター、孤児院の出納帳と金庫も見せてもらえませんか」




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